【シナリオ】トラッシュトーク☆クラブ
お読みいただく前に。
本稿には実際に存在する歌曲の歌詞が多数登場します。
執筆及び公開にあたっては著作権法32条1項に則り、作品上でそのタイトルを引用をさせていただきました。(タイトルは『』でくくってあります)。問題点などありますればお知らせくださいますよう、よろしくお願いいたします。
(本稿最後に引用曲の歌唱者・作詞者・作曲者、氏名を明示いたしております)
主な登場人物(年齢は本文中に記載)
桐生淑佳─主な場面で高校二年生〈トラッシュトーク・クラブ〉ギター
浪岡星恵─右同〈トラッシュトーク・クラブ〉ボーカル
道原琉那─右同〈トラッシュトーク・クラブ〉ベース
道原璃那─右同〈トラッシュトーク・クラブ〉ドラム
桐生宗一郎─淑佳の父
久美─淑佳の母
奨太─淑佳の弟・中学一年生
浪岡伸介─星恵の父
侑子─星恵の母
茂山源治─楽器店店主
篠崎憲─楽器店アルバイト・大学生
永沢英二─会社員
生江─右の妻
小松沙織─高校二年生
浜口詩穂─右同
小林真弓─右同
青木麻貴─高校三年生
黒沢美香─アナウンサー
杉田雅代─右同
内野瞳─バンド〈セイレーン〉ボーカル
山岸─会社重役
その他
○サッカースタジアム・外景
○同・中
ピッチの上ではなでしこリーグの試合が行われている。
試合は0-0同点の後半。
ベンチ脇でウォーミングアップ中の桐生淑佳(一五)。
監督が淑佳を呼ぶ。
交代選手とハイタッチの後、全力疾走でピッチに入る淑佳。
× × ×
怖じることなく、倒されてもすぐ立ち上がり走る淑佳。
元気一杯、溌剌とプレーを続ける。
× × ×
ロスタイム。ピッチ中央付近、相手のパスをカットする
淑佳。そのまま一気呵成にドリブル突破。巧みな足さば
きで五人、六人と相手をかわし、ゴールキーパーと一対
一。右足一閃シュート、ゴール! 決勝点。淑佳、跳び
上がりガッツポーズ。チームメイトが駆け寄り、もみく
ちゃにされる淑佳。満面の笑顔。
○テレビ局・スタジオ(幾日か後)
ニュース番組のスポーツコーナー。椅子に座っている淑佳。
少し離れて座っているのは女子アナウンサーの黒沢美香
(二五)。
美香「澤穂希二世とも呼ばれていますが、そのことについては?」
淑佳「はい。そう呼ばれるにはまだまだだと思ってます。そう呼
ばれるのにふさわしい選手にな れるよう頑張っていきたいです」
美香「謙虚ですねぇ」
はにかむ淑佳。
美香「えー、では桐生淑佳選手。最後に今後の目標をお聞かせくだ
さい」
淑佳「はい。来年は高校生になって、寮生活も始まるので、自己管
理をしっかりして、チームの 勝利に貢献したいです。あと、得
意のドリブルに磨きをかけたいです」
美香「代表入りについては?」
淑佳「はい。まずはチームでレギュラーを取らないと。チームで活
躍できた先に、なでしこジャパン入り、東京オリンピック出場
があると思ってます」
美香「う~ん、しっかりしてるなあ。(カメラを向いて)いかがだ
ったでしょうか。今日は中学 生なでしこリーガーとして活躍す
る、桐生淑佳選手にお越しいただきました。心技体の上にかわい
らしさまで供えた彼女の活躍から今後とも目が離せません。わた
しもずっと応援していき たいと思ってます。桐生選手、今日は
本当にありがとうございました」
淑佳「ありがとうございました!」
頭を下げる淑佳。カメラ止まり空気が緩む。屈託ない淑佳の
笑顔。
○淑佳の家・キッチン(半年後・朝)
朝食を摂っている淑佳と弟の奨太(一三)。母の久美(四六)
がせわしなく動いている。
○同・カーポート、車内
エンジンのかかった車の運転席。シートを倒し仰向けになっ
ている宗一郎(四七)心なしか潤んでいるその目。
○車中
運転している宗一郎。助手席の久美。後部座席の淑佳、奨太。
奨太「なんで俺まで行かなきゃなんねぇの」
宗一郎「姉ちゃんの門出だ。家族みんなで見送るのが当たり前だろ
うが」
淑佳「当たり前だろうが」
奨太「……お姉ばっかり」
カーステレオのスイッチを操作する久美。流れてくるのは相
川七瀬の『BREAK OUT!』。曲に合わせリズムを取る淑佳。
やがて歌いだす。久美も。
疾走していく一家を乗せた車。
○駅前
車から降りている桐生家。駅前舗道の桜並木の下で、向かい合っ
ている淑佳と宗一郎、久美、奨太。久美、桜の一枝を指差し。
久美「淑佳、ほら」
淑佳「え」
久美が指差した先の枝に、桜の花が一輪だけ咲いている。
久美「幸先いいじゃんか」
淑佳「うん」
久美「がんばってこい」
笑って頷く淑佳。俯き泣いている宗一郎。
久美「なんだかなぁ」
淑佳「休みにはちゃんと帰ってくるから。ねえ、お父さん」
宗一郎「……なんだ」
淑佳「サッカーに出会わせてくれてありがとう」
蹲ってしまう宗一郎。嗚咽。
久美「あ~あ、もうどうしようもない」
奨太「お姉、それはダメだよ」
淑佳「今しか言う時ないじゃん」
久美「ここでいいの?」
淑佳「うん。電車乗って見送られたりしたら、わたしだって
泣いちゃうよ」
久美「泣かせてやろうか」
淑佳「もう――奨太、あんたが頼りだ。お父さんとお母さん
のこと頼んだ」
奨太「なんだよそれ」
淑佳「だって、お父さんこんなだし」
宗一郎「……こんなとか、言うな」
久美「ほら、電車の中で食べな。それとこれ」
久美、淑佳に弁当と相川七瀬のCDアルバム『RED』
を差し出す
淑佳「え、これって、デートのときいつもかけてるんでしょ」
奨太「デートぉ!?」
淑佳「そうよぉ。あんた知らなかったでしょ。お父さんとお母
さん今でもデートしてるんだよ」
奨太「うわぁ、恥じぃ。なんだそれ」
宗一郎「……いいだろうがよ」
淑佳「これはいいよ。相川七瀬、スマホにけっこう曲入れたし」
久美「そう言わずにまぁ、持ってきなさいよ」
淑佳「――うん」
淑佳、弁当とCDを受け取り三人に背を向ける。泣く。
啜りあげる。ふり向いたときには笑っている。
淑佳「ありがと。CDプレーヤー買わないといけないね。じゃあ、
もう行くね」
改札へと向かう淑佳。途中で立ち止まり、振り向く。叫ぶ。
淑佳「なでしこジャパン、入るから! 東京オリンピック、出る
から! わたしが点取って、金 メダルだから!」
家族に背を向け、颯爽と改札へ向かう淑佳。
改札の向こうへ消える淑佳。
○画面・いきなり黒くなり、画面の右下に小さく〈十月〉の白い
テロップ。
車が急発進する音。
淑佳の声「きゃああっ!」
衝撃音。
○コンビニエンスストア・店外
店舗の外壁に突っ込んでいる車。吹っ飛ばされ倒れている
淑佳。運転席、ハンドルに突っ伏している老婦人。クラク
ションが鳴り続けている。
(F・O)
○駅前(冬)
(F・I)
改札を抜ける淑佳(十七)。右脚を引きずって歩いてくる。
その顔に浮ぶ虚無、絶望。淑佳、歩いていく。
○メインタイトル
《トラッシュトーク☆クラブ》
○桐生家・キッチン(春・夜)
淑佳、宗一郎、久美と向かい合わせに座っている永沢英二
(五五)、生江(五三)。
生江「学校は慣れた、淑佳ちゃん」
淑佳「――別に」
生江「お友達は?」
淑佳「作るつもりないし――おばさんに関係ないでしょそんなの」
久美「淑佳」
淑佳「あのね、最近思うんだ。おばあさん、登校中の小学生の列と
かに突っ込んだりしなくてよ かったよね。それよか全然まし」
英二・生江「……」
久美「淑佳。永沢さんだってお母様を亡くされたの」
淑佳「へ~え、お母さんって自分の娘こんな躰にして勝手に死んだ
痴呆老人の家族もちゃんと思 いやれるんだね。ほんと、優しい
よね」
宗一郎「淑佳、いいかげんにしろ」
淑佳、父母を睨む。
淑佳「……へへっ、うへへっ。ふへへっ」
久美「淑佳、あなた……」
淑佳「もういいかな」
淑佳、立ち上がる。四人、無言。キッチンを出て行きかけ振
り向く淑佳。
淑佳「もう来なくていいよ、二人とも。迷惑でしょ。わたしもそう
なんだ。ねえ、もうやめよう よお父さんこんなの。なんの意味
もないよ。あのさ、心配しなくても高校はちゃんと通って卒業す
るから。こんな躰で中卒なんて洒落にもなんないし」
淑佳、キッチンを出て行く。宗一郎と久美に頭を下げる永沢
夫妻。
宗一郎「お二人には辛い時間だと思います。でも、あの子はああ言
っていましたが、これからも 約束どおり、こうしてうちに来て、
あの子の顔を見てください。あの子の声を聞いてください」
英二「はい」
宗一郎「あの子がどんなふうに育っていくのか、見続けてほしいの
です。お母様を亡くされ、お辛いでしょうが、でも、あの子の親
として、それがお二人の責務だと思っています」
生江「はい……」
久美「道を、踏み外さないようにだけは、育てていこうと思ってま
す。でも、正直自信はありま せん」
英二「申し訳、ありません……」
頭を下げる永沢夫妻。すすり泣く生江。無言の四人。
○同・淑佳の部屋(夜)
ベッドの上、枕を顔に当てむせび泣いている淑佳。
○××高校・二年七組(数日後)
放課後、帰り仕度をしている淑佳のところへ、クラスの女子
七人がやってくる。リーダー格の小林真弓は淑佳と中学時代
の同級生。七人、淑佳を取り囲むようにして。
真弓「桐生さん」
淑佳「なに」
真弓「みんな桐生さんと友達になりたいって思ってんだ。もちろん
わたしも。だからさ、今から みんなでカラオケ行かない?」
淑佳「……いいよ、わたしは」
真弓「そんな冷たいこと言わないで。あ、そうだ、いいもの見つけ
たんだよね、わたし」
スマホを取り出し操作する真弓。
真弓「あ、ほら。これこれ」
指し出されたスマホには、本編冒頭のテレビ局場面が映し出
されている。笑顔で質問に答えている当時の淑佳。
真弓「ほんと、昔からかわいかったもんね桐生さん。そりゃテレビ
局もほっとかないわ」
淑佳「やめてよ……」
真弓「え~なんでぇ。ほら、みんなも見て見て。あ、試合に出てる
動画もあるよ」
淑佳「やめて……」
淑佳、蹲る。彼女を見降ろす少女たちの残酷な瞳。
真弓「ごっめ~ん桐生さん。友達になりたいなんて嘘。誰もそんな
こと思ってないし。ね、聞い てる? ちやほやされていい気に
なってテレビに出てた、澤穂希二世の桐生淑佳さ~ん」
蹲ったままの淑佳。様子を見ていた二人のクラスメイト小松
沙織、浜口詩穂が割って入る。
沙織「つまんないことやめなよ」
詩穂「小学生みたいなことやって喜んでるんじゃないよ」
スマホを持った真弓の手首を掴む詩穂。二人には逆らえない
真弓たち七人。ばらけ、固まり教 室を出ていく。淑佳の前
に座る二人。ハンカチを差し出す沙織。
沙織「涙拭いて」
ハンカチを手に取る淑佳。涙を拭う。
淑佳「ありが、とう……」
詩穂「つまんないやつら。あのさ、わたしたちはホントに桐生さ
んと仲良くなりたいって思って るから」
淑佳「――なんで?」
沙織「なんでって言われてもなあ。編入してきたときから思って
た。ねえ詩穂」
詩穂「うん。あんなどこにでもいる子たちが桐生さん苛める資格
なんて全然ない」
淑佳「……足、わたし、足が」
沙織「なに言ってんの。そんなこと関係ないよ。ね、笑ってみて」
淑佳「え」
沙織「ほら、コショコショコショ」
淑佳の耳の後ろをくすぐる沙織。淑佳、笑う。
詩穂「やっぱ超絶かわいいなあ。わたしが男だったら絶対ほって
おかないよ」
沙織「お茶しにいこっか。桐生さ――淑佳」
淑佳「うん」
立ち上がる三人。教室から出て行く。教室の隅、一部始終
を見ていた浪岡星恵。彼女も教室を出て行く。
○同・廊下
談笑しながら歩く三人の後をつけるように歩く星恵。
○街路
前を行く三人の後ろを歩く星恵。
○ファミリーレストラン・店内
テーブル席、向かい合わせに座り楽しく話している淑
佳と沙織、詩穂。
沙織「てかさ、淑佳。今どきあり得ないよ、スマホ持ってな
いなんてさ」
詩穂「うん。マジでありえない」
淑佳「高校入る前に買ってもらってたんだけどさ……」
沙織「え、手放しちゃったの?」
淑佳「うん」
詩穂「なんで? 信じらんない」
淑佳「うん――また持とうかな」
沙織「そうだよ。絶対持つべきだよ」
その裏の席に座っている星恵。うつむいて雑誌を読む
ふりしながら三人の会話に聞き耳たてている。
沙織「でさ、ちょっと訊くんだけどね淑佳」
淑佳「うん」
沙織「ウリって興味ある?」
淑佳「ウリ?」
詩穂「うん、ウリ」
淑佳「ウリって――えっ」
沙織「うん」
沈黙。
詩穂「突然でびっくりしたよね。こんな話し嫌だったら言って。
やめるから」
淑佳「――――うぅん。聞かせて」
沙織「うん。わたしの知り合いにね、淑佳が編入してきたこと
話したらさ、その人淑佳のこと 知っててさ」
淑佳「わたしのことを?」
沙織「うん。さっき見せられてた動画あるでしょ。あれが放送
されたときに一目ぼれ。以来淑佳 ずっとその人に思われて
たってわけ。純情だねぇ。サッカーの試合も観に行ったこと
あるって 言ってたよ」
詩穂「関係続けてくれるなら、いくら出してもいいって言って
る。ちなみにその人五十二歳。大 きな会社の重役さん」
淑佳「五十二歳――あのさ、二人は、そういうこと」
二人、顔を見合わせて笑い。
沙織「うん。ヒラのサラリーマンとかはお断り。最低でも部長
さん。基本重役クラス。あとIT 関連の企業家とか。他校
の子五人といっしょにね。あ、ヤバイ人とかは絡んでないよ。
JKビジネスやらされてるとかじゃない。お金やスケジュー
ルの管理とかも全部自分たちでやってるの」
詩穂「メンバーかわいいのと客筋いいのが自慢なんだ。ライン
のグループ名は『プレミアムセブン』」
沙織「断ったっていいよ。バージンだよね、淑佳」
淑佳、小さく頷き。しばらくテーブルの上をじっと見つ
めている。
淑佳「――いいよ」
沙織「ほんとに?」
淑佳「うん。いい」
詩穂「やった。エライ淑佳」
沙織「じゃあ、今日とか大丈夫?」
淑佳「え、今日?」
沙織「うん。オッケーだったら連絡することになってんだ」
淑佳「――うん、今日でいいよ」
沙織「分かった。じゃあ詩穂」
詩穂「うん」
スマホを取り出す詩穂。
淑佳「場所は、どこで」
沙織「専用の部屋持ってんのわたしたち。けっこう豪華だよ」
淑佳「うん――」
テーブルの上の淑佳の手が小刻みに震え始める。その手
を上から握る沙織。
沙織「大丈夫。誰だって最初は怖い。超いい人だよその人。絶
対優しくしてくれる」
淑佳「うん」
詩穂「ライン、ソッコーで返ってきた。一時間半くらいしたら
来るってさ」
沙織「純情。あ、これからは『プレミアムエイト』にグループ
名変えなきゃね」
詩穂「あ、そうだね。淑佳のスマホ再デビュー決まったし。い
い日だね今日は」
笑う沙織と詩穂。凝った顔の淑佳。星恵、じっとしたま
までいる。
× × ×
座っている淑佳。沙織、詩穂はいなくなっている。男が
淑佳の前へやってくる。背広を着た上品な感じの男、山岸
(五二)。
山岸「桐生淑佳さん、ですね」
淑佳「はい」
山岸「山岸といいます。座ってもいいかな」
淑佳「はい」
淑佳の前に座る男。
山岸「ドキドキしてるよ、ぼくは今」
淑佳「はい――わたしもです」
山岸「本当に会えた。しかも、こんな形で」
淑佳「……」
山岸「事故はたいへんだったね」
淑佳「……」
山岸「ごめん、嫌なことを訊いたね」
淑佳「いえ」
山岸「ずっと、君のことを思い続けていたよ」
淑佳「……」
山岸「夢を見ているようだ―― じゃあ、行こうか」
淑佳「――は、い」
二人立ち上りかける。
星恵「はい、そこまで~」
二人の前に立ちはだかる星恵。
山岸「な、なんだ君は」
星恵「なんだ君はじゃないっつのエロ親父。とっとと帰んな。
(淑佳を見て)アンタも何やって んだ。このエロ親父と同
じくらいムカつくわ」
淑佳「あ、あなた……」
星恵「同じクラスなんだから顔くらい見たことあるでしょ。
(山岸に)オラ、どっちかに電話し な。気ぃ遣って向か
いのケンタに移動したんだろ。優しいねぇ。全部聞いてた
んだよ」
山岸「なんで、なんで電話――なんで君に指し図なんか……」
星恵「叫んでほしいか。ここに今からヤリ部屋で未成年とセッ
クスしようとしてる重役ロリコン 野郎がいますよって。
あぁ?」
山岸「……」
星恵「早くしなよ。ホントに叫ぶぞ、オラ」
山岸、スマホを取り出し震える指で操作をする。
山岸「――ああ、沙織ちゃん。何これ。いや、いた。会えた。
会えたけど、急に変な女の子が出て来て、何かわけのわから
ないこと……約束が違うじゃないですかぁ……」
星恵、射るような目で淑佳を見る。
○ファミリーレストラン駐車場
星恵と淑佳、沙織、詩穂が向かい合っている。
沙織「部外者が何を勝手なことしてくれてるのかなぁ」
詩穂「ほんと、だいなしもいいとこ」
星恵「ははっ。噂はほんとだったんだね。エグいピンハネしそ
こなったな、ざまあみろ」
沙織「教えて。なんで邪魔したの?」
星恵「ふん、答えは簡単。あんたらが大嫌いだからだよ。ほん
とよく苛めてくれたよね。礼を言うよ。人二人まで殺しても
罪にならないって法律あったら、確実にアンタら二人殺して
る。覚えとけ」
沙織「怖~い。バケモンのくせして。ねえ」
詩穂「ほんと、バケモンが何言ってんだろ。嫉妬してるだけじゃ
ない」
星恵「昔みたいにそれ言ったら泣くって思ってんのか。相変わら
ず貧困なボキャブラリーだね。 頭蓋骨ん中、脳ミソの代わり
に麩菓子詰まってるだろおまえら。よく聞け。おまえらいつか
絶対ヤー公の網にかかってシノギに使われんだ。利用されまくっ
て最後ソープに沈められりゃま だいいとこだな。海外に売り
飛ばされないよう祈っとけ。何が『プレミアムセブン』だ笑わ
せるな。売春七人組でも名乗ってろ。え、サセコ、ヤリマン、
くそ売女、淫売、肉便器、公衆便所。パン助が生意気にやり手
ババァの真似なんかしてんじゃねぇよ、バ~カ」
星恵の悪口に顔色が変わる二人。
星恵「頭の悪いおまえらに教えてやる。人ってのはな、変われる
んだよ。覚えとけ」
沙織「――淑佳、行くよ」
戸惑っている淑佳。
詩穂「どうしたの、行くって言ってんの。今日は邪魔が入ってダ
メだったけど、別の日にセッティングするから」
動けない淑佳。
沙織「どうしたの、怖くなったの」
淑佳「あの、わたし……」
詩穂「ほら、行くよ」
淑佳の腕を掴む詩穂。淑佳、歩こうとしかけるが。
星恵「二回も助けは入らないよ」
淑佳「え」
星恵「ついていったらもう戻ってこられない。それでも行くなら
行けばいいよ」
淑佳「……」
星恵「気づいてないみたいだから教えてやる。小林がスマホで昔
の動画見せたのも、こいつらが 命令したからだよ」
淑佳「え」
沙織と詩穂を見る淑佳。舌うちする沙織。
星恵「あんたに近づくための作戦。そういうやり口するんだよこ
いつら昔から。優しくされてほ だされて、ヒョコヒョコつい
てってあんなザマ。ほんと救いようのないバカだなアンタ。あ
あ、ついてけついてけ」
じっと立っている淑佳だったが、詩穂の腕を振り切る。二
人を睨む淑佳。
沙織「あ~あ、つまんないの。せっかくいい友達になれると思っ
たのになあ。まさかバケモンに 邪魔されるとはなあ」
詩穂「いいじゃん。この子意外とつまんない。それにやっぱさぁ」
沙織「うん、そうだね。障碍持った子が仲間にいるなんて、やっ
ぱカッコ悪いよね。一緒に歩いてるとき超恥ずかしかった」
詩穂「知ってる? ビッコっていうんだよ、ああいう足」
淑佳「!」
星恵「分かったでしょ。こいつらの本性」
沙織「ははっ、ロストバージンしそこねちゃったねえ、桐生さん。
じゃあねえ」
背を向ける二人。星恵、その背に。
星恵「クラミジア、淋病、膣カンジタ。梅毒。知らないだろうか
ら教えてやる、全部性病の名前 だ。ああ、ケジラミってのも
あったな。猛烈に痒いらしいよ。そのうちあんたらオッサンの
誰かに無理矢理中出しキメられちゃうんだろな。んで、オッサ
ンケジラミ持ってて発症と同時に 生理もストップだ。オッサ
ンお決まりの言葉言うよ『私の子供だっていう証拠はあるのか
い』。ウリやってること知らないお父様やお母様にも言えない
よねぇ孕んじゃったなんて。 あ、隣にいるのに相談しても相
手にしてもらえないよ。他人事だから。関係切られて終わりだ
ね。さ~産みますか堕ろしますか。どっちが正解でしょうねぇ。
陰毛ボリボリ掻きながらひとりぼっちでよ~く考えよ~。早く
しないとケジラミ二世が産道通って股の間から顔出しちゃうよ~」
沙織と詩穂、振り返り星恵をきつく睨みつけ去っていくが――
沙織、その途中で激しく嘔吐。その様子を茫然と見ていた詩
穂も吐く。二人、よろよろ帰っていく。
星恵「ははっ、メンタル弱っ。ありゃもう中出しキメられてんな
二人とも。さぁて、わたしも帰 るか。じゃあね、おバカちゃ
ん」
淑佳「……バカバカうるさいよ」
星恵「だってバカじゃん」
淑佳「――るっさいよ! 分かってるよ! なんで止めたのよ!
ぶっ壊れりゃいいのよわたし なんか! ほっといてくれた
らよかったのよ!」
星恵「うわぁ、悲劇のヒロイン全開だぁ。『ぶっ壊れりゃいい
のよわたしなんか!』だって。わ ははっ」
淑佳「――」
星恵「まずキスされま~す。オッサンは腐った刺身みたいな口
臭してま~す。舌が入ってきま~す。じゅるじゅる舌吸われ
ま~す。唇もべろべろ嘗められま~す。これがあんたのファー
ストキスで~す」
淑佳「え……」
星恵「乳もまれま~す。乳首弄られま~す。オッサンの手がス
カートの中に入ってきまーす。股間をサワサワし始めま~す」
淑佳「……やめてよ」
星恵「やめない。ベッドに押し倒されま~す。オッサンは力強い
ので抵抗できませ~ん。服のボタン外されていきま~す。オッ
サンの手がパンティにかかりま~す。ああたいへんだ、とうと
うパンティ膝までずらされちゃいました~。オッサンの手はい
よいよ直にあんたの」
淑佳「やめてっ!」
星恵「ぶっ壊されたかったんでしょ、あんた。それはこういうこ
となんだよ」
淑佳「――」
星恵「最低限の想像力もないんだね。だからバカだって言ってん
のよ」
淑佳「……うるさいよ」
俯く淑佳をじっと見る星恵。
星恵「気になってんでしょ。あいつらが言ったバケモンっての」
淑佳「――」
星恵「ついてきなよ」
歩き始める星恵。立ったままでいる淑佳。星恵、振り返り。
星恵「帰りたいんなら帰りなよ」
歩き出す星恵。ついて行く淑佳。
○街路
歩いて行く星恵。その後を行く淑佳。
○ライブスナック<NAMA―GIKI>・店前(夕方)
下がっている準備中の札。立ち止まる星恵。淑佳を見て、
入口をコナす。中に入る星恵。淑佳、逡巡の後、中へ。
○同・中(夕方)
キャパシティー五十人ほどの小さなライブエリアを持つ
スナック。
星恵の父、伸介(四八)と侑子(四八)が厨房の中で開
店準備をしている。
星恵「ただいま」
侑子「おかえり――え、お友達?」
伸介「うぉ、ホシが友達連れて!」
星恵「そんなのじゃない。同じクラスのバカ」
侑子「なんてこと言うの! ごめんねこの子ホントに口悪いか
ら」
淑佳「いえ――桐生です」
星恵「ねえ、二人とも出てってくれるかな、五分だけ」
伸介「ん?」
星恵「胸見せるから。この子に」
親子見つめあう。じっと。
侑子「お父さん、ちょっと外しましょ」
二階の家屋部へ消える伸介と侑子。
星恵「さて」
正対する星恵と淑佳。制服の上着を脱ぎ始める。茫然と
その様を見ている淑佳。ブラジャーも取る星恵。乳房も
乳首もない星恵の左胸。淑佳をまっすぐ見つめる星恵。
星恵「保育園のとき病気になってさ、手術して取った。世界的に
みても珍しい症例だったんだってさ」
ブラジャーをつけ、服を着ながら星恵。
星恵「作りものおっぱい――義乳っての持ってるんだけどね、
めんどくさいし鬱陶しいし、ここんとこ付けるのやめてる。
小、中のとき、クラスの女子全員から囲まれてバケモンコ
ール何回もやられたよ。そのとき先導してたのがあの二人」
淑佳「……」
星恵「誰も自分の気持ちなんか分かってくれない、っていう
オーラバンバン出してるんだよね、あんた。それがすっご
いムカつく。あいつらよりムカつく」
淑佳「そんなこと――」
星恵「ないことない。出てんの。出してんの。あんたは心底
そう思ってんの。そこにつけこまれたんだよ。わたしさ、
今までこの胸のことでいろいろ思った。言いたくないけど、
死にたいなんて何度も思った。けどね、その気持ち人に分
かってほしいなんて思ったことだけは一度もない」
淑佳「……あなたに、わたしの何が分かるのよ」
星恵「はい、出ました~。そのセリフ言うことがあなたが
『分かってほしいちゃん』なことの証拠で~す。反吐が出
そうで~す」
俯く淑佳。泣き始める。
星恵「嬉しかったんだよねえ。淫売コンビに優しくされてさ。
援交のオッサンがあんたのこと思い続けてくれててさ――
あのままほっといたら、あんた今頃どうなってたか考えろっ!
どうしようもないバカだあんたはっ!」
淑佳、激しく泣く。侑子、伸介顔を出す。
侑子「――ちょっと何ぃ!」
淑佳に慌てて駆け寄る侑子。
侑子「あんたって子はぁ! ごめん、ごめんね桐生さん。ホシに
酷いこと言われたんだよね。ごめんねぇ」
星恵「はっ、ビービー泣いたら同情されると思ってんの。そうい
うのもほんと大っ嫌い」
侑子「あんたはホントにぃ! そんなだから友達ひとりもいない
んでしょうがぁ!」
伸介「ホシぃ、おまえなぁ……」
そっぽ向いている星恵。
× × ×
カウンター席に座り電話をしている淑佳。厨房部にいる侑
子。少し離れたところにあるステージでエレキギターを抱
えて座っている星恵と伸介。テーブルに座った二十人ほど
の客たちと和やかに話している。
淑佳「うん。うん。もうすぐ帰る。うん。分かってる。ごめん。
うん。うん。じゃ」
侑子に受話器を渡す淑佳。
侑子「もしもし。はい。では、もう少ししたらうちの人がお家ま
で送らせてもらいますので。いいえぇ。こちらこそ今後ともよ
ろしくお願いします。では失礼いたします」
侑子電話を切る。
侑子「いいお母さんね」
淑佳「え」
侑子「少し話しただけで分かる。こういう商売やってるってだけ
で白い目で見るお母さんたち、けっこう多いんだ。でもあなた
のお母さんは全然そんなことなかった」
淑佳「はい。お母さん、そんな人じゃないです。ちがいます」
侑子「ふふ。自慢のお母さんなんだね。ね、桐生さん。何があっ
たか聞かないけど、ご両親悲しませるようなことしちゃダメよ」
淑佳「――はい」
侑子「でも今どきスマホ持ってない高校生なんてうちの子だけか
と思ってた」
淑佳「持ってたけど――――あの、浪岡さんはどうして?」
侑子「『あんなもの人間から節度とケジメなくすバカ養成ギプス
だ』ってさ。何もそこまで頑な になることないと思うんだけ
どなあ。ま、やりとりする友達もいないから必要ないんだろうけ
ど」
淑佳「――」
侑子「本当に口悪いでしょ、あの子。許してやってね。でも元々は
すごい無口だったの。あんな なったの去年の九月一日から。きっ
かけは任侠映画」
淑佳「ニンキョウ映画?」
侑子「ずっと昔流行った、入れ墨入れた怖いオジサンがたくさん出
てきて殺し合いする映画のこと。ヤクザ映画って言った方が分か
りやすいかな。衛星放送でやってるのたまたま観たのがきっかけ。
自分の部屋でも観れるようにしてくれって頼んできてさ。あの子
が頼みごとするな んて初めてのことだったからきいてやったの
よ」
淑佳「――」
侑子「そしたら夏休みの宿題三日で終わらせて、一日中部屋にこもっ
て任侠映画観だしたの」
淑佳「一日中、部屋にこもって……」
侑子「うん。そんなの中心に放送してるチャンネルがあるのよ。ビ
デオ屋さん行って借りたりもしてた。去年の夏休み中、ほとんど
あの子自分の部屋の中にいたわ。すごい本数観たんじゃないかし
ら」
●インサート・星恵の部屋
テレビの前に座り込み、任侠映画を見ている星恵。
淑佳「で、九月一日」
侑子「うん。二学期始まりの日よね。帰ってくるとあの子、それま
でずっと意地悪されてたクラスの子三人を口だけで大泣きさせたっ
て自慢げに言ったの」
淑佳「今日は二人吐かせました――だからか」
侑子「え?」
淑佳「なんか初めて聞く変なコトバ、いっぱい言ってたから」
侑子「ハァ――何が響いたのか分かんないけど、少女の人生変えた
のが任侠映画とはねぇ」
淑佳「でも、間違ったことひとつも言ってないから、浪岡さん」
侑子「言い方が間違ってたら間違ってること言ってるのと同じだっ
てずっと言ってんだけどなあ。ねえ桐生さん」
淑佳「はい」
侑子「ホシが自分からひとに胸見せたのなんて、あなたが初めてよ」
淑佳「そうなんですか」
侑子「うん――母としては、今、泣きたいほど嬉しいんだな」
星恵を見る淑佳と侑子。
星恵「じゃあ、今日一発目は痺れるギターリフのこの曲から!」
相川七瀬『夢見る少女じゃいられない』の前奏を弾き始める星
恵。
淑佳「うわ」
侑子「どうしたの?」
淑佳「相川七瀬、よく聴いてたんです」
侑子「へぇ。今どきの高校生にしてはちょっと珍しいのかもね」
ギターかき鳴らし生き生きと歌う星恵をじっと見つめる淑佳。
○桐生家・淑佳の部屋(夜)
机の前に座り、パソコンを開いているパジャマ姿の淑佳。観
ているのは相川七瀬のライブ映像動画。そこへノックの音。
宗一郎の声「淑佳、いいか」
淑佳「うん」
ドアを開ける宗一郎。
淑佳「おかえり」
宗一郎「ただいま。お母さんから聞いた。友達のお父さんに送っても
らったんだって?」
淑佳「うん」
宗一郎「お母さん心配してたみたいだぞ。遅くなるようなら連絡はし
ろ、いいな」
淑佳「うん、わかった。ごめん」
宗一郎「でもおまえが友達の家に遊びに行くなんて珍しいな」
淑佳「友達とか、そういうのじゃない。ただの同じクラスの子だよ」
宗一郎「――お、相川七瀬」
淑佳「うん。すごい久しぶりに聴いてる」
宗一郎「そうか」
淑佳「お父さん、今でもお母さんとデートしてる?」
宗一郎「なんだよ急に」
淑佳「いや、なんか」
宗一郎「――しばらくしてないよ」
淑佳「そっか」
宗一郎「うん――淑佳、おまえスマホはいいのか。契約しなおせよ」
淑佳「――スマホはいい。バカ養成ギプスなんだって、あれ。」
宗一郎「はぁ? なんだそれ」
淑佳「遅くなるときは、どこからでもちゃんと連絡するから」
宗一郎「うん。じゃあ、早く寝ろよ」
淑佳「うぅん」
宗一郎「え」
淑佳「今日は遅くまで相川七瀬聴いていたいんだ」
宗一郎「そうか、うん。分かった」
淑佳「お父さん」
宗一郎「ん?」
淑佳「またお母さんとデートしなよ」
宗一郎「――どうしたんだよ、おまえ」
淑佳「べつに」
画面に向き直る淑佳。彼女をしばらく見つめた後、そっとド
アを閉める宗一郎。
× × ×
淑佳、相川七瀬『夢見る少女じゃいられない』のギターコピー
演奏動画をじっと見ている。
○××高校・二年七組(翌日)
始業前。沙織と詩穂を中心に女生徒が固まっている。座って
いる星恵の前に立つ淑佳。
星恵「――ありがとうとか、聞きたくないし。そういうの嫌いなの。
別にあんたのためとかじゃない。一回あの二人キャーンって言わ
せたかっただけだから」
淑佳「分かってるよ――わたしもさ、昔よく聞いてたんだ、相川七
瀬」
星恵「ふ~ん。で?」
淑佳「帰ってから朝まで相川七瀬のライブ映像ずっと観てた。そし
たら出てくるでしょ、関連動画ってやつ。ギター弾いてるとこ上
げてる人大勢いてさ。途中からそればっか見ててさ。みんなすご
く上手かった。正直浪岡さんなんかよりずっと上手かった」
気色ばむ星恵。
星恵「言ってくれるじゃない」
淑佳「うん。言ってあげる。浪岡さんって、歌は凄く上手いけど、
ギターは全然ダメだよね。あ れくらいなら練習したらわたしで
も弾けるって思った」
星恵「――じゃあ、弾いてみなよ」
淑佳「弾いてあげるわよ」
にらみ合う二人。
沙織「やだ~。バケモンとビッコが仲良くしてるぅ~。キモ~い」
詩穂「お似合いのカップルだぁねぇ」
星恵、立ち上がり二人の前まで行く。
沙織「何ぃ、バケモン。あ、いっそのことこれからは乳なしってはっ
きり言ってあげようかぁ」
星恵、右手で沙織の、左手で詩穂の襟首をガッと掴みあげる。
沙織「ひぅ!」
星恵「軽く済ましてやってりゃいい気になりやがってよ。おい淫売
コンビ。おまえらフェラばっかやってるから、喋るたび歯茎にこ
びりついたザーメンの臭いがして臭くて臭くてたまらないんだよ。
一度しか言わないからよく聞け――もう一回わたしとあいつに同
じこと言ってみろ。その汚い口に角材無理やりねじ込んでやる。
ゴリゴリやり続けて口裂いて歯ぁ全部折るっ! 一生喋れなくし
てやるっ!」
空気が凍りつく。血走った目で沙織と詩穂を睨みつける星恵。
星恵「脅しじゃないよ! 退学も女子少年院も懲役も覚悟だよ!
マジでやってやる! やってやるよ! 分かったか! ええ、分かっ
たのかよ! 答えろブタ野郎!」
ガクガク震えながら頷く沙織と詩穂。泣きだす女子生徒がいる。
星恵をじっと見ている淑佳。
○街路(夕方)
歩いていく星恵。画面から消える。
少しの間の後、歩いてくる淑佳。画面から消える。
○<NAMA―GIKI>店内(夕方)
厨房内で伸介と侑子が仕込みをしている。フロアに立っている
淑佳。家屋部からエレキギターを持って現れる星恵。
星恵「貸してあげる」
ギターを差し出す星恵。
淑佳「――」
星恵「レンタル期間は――そうだね、二十日間。返してもらう時に
『夢見る少女――』ここで聞 かせてもらうから」
淑佳「二十日間」
星恵「あんな大口叩いたんだ、それだけあれば弾けるようになるで
しょ。わたしより上手くなってたらそのギターあげる。ま、そん
なことありえないけどさ」
ギターを受け取る淑佳。
星恵「途中で飽きたら返しにきてよね。で、二度とここには来ない
で。わたしに話しかけもしな いで」
同時に大きなため息つく伸介と侑子。
○<NAMA―GIKI>を出たところの路上(夕方)
ギターを手に歩いていく淑佳。
侑子「桐生さん」
振り向く淑佳。伸介と侑子が立っている。
伸介「そのまま真直ぐ行って最初の角右に折れて少し行ったところに
ね、茂山楽器ってあるから、そこに行ってみ。ナマギキのマスター
から紹介されたって言えばいいよ」
淑佳「――はい」
伸介「ギター、構えてみ」
淑佳「え」
侑子「ギター弾く構えしてみて」
淑佳「あ、はい」
ギターを構える淑佳。
侑子「うん、思ったとおり。いきなり決まってる。いいなぁ」
伸介「構えがビタッと決まってるのはいいギタリストの第一条件。
その点星恵は全然ダメ。ブサイク極まりない。歌はいいんだけ
どね。でも最近じゃギターに気を取られすぎて歌もダメになり
かけてる」
侑子「あなた正解。星恵はギター下手くそ。何が『痺れるギター
リフ』よ。聞いてて恥ずかしかったわよ」
伸介「星恵のギターなんかすぐ抜けるよ。一生懸命練習したら、
だけどね」
二人を見つめる淑佳。
淑佳「はいっ!」
二人に頭を下げて歩いていく淑佳。小さくなる淑佳の背中
を微笑んで見つめる伸介と侑子。
○茂山楽器・店内
入る淑佳。バイト店員、篠崎憲(二〇)と店主の茂山源治
(六七)が顔を上げる。
憲「いらっしゃい」
淑佳「あの、浪岡さんの――ナマギキのマスターから、紹介され
て、来ました。桐生淑佳といい ます」
源治「――お嬢ちゃん、ギター弾きたいの」
淑佳「はい」
源治「その持ってるの、構えてみ」
淑佳「あ、はい」
淑佳、ギターを構える。
源治「――うん、いいね。構えがピタッと決まってるっていうの
はね」
淑佳「いいギタリストの第一条件、なんですよね」
源治「伸介から聞いてたか。星恵ちゃんのお友達?」
淑佳「――同じクラスなんです。あの、浪岡さんのギターの腕前、
一生懸命練習したら、抜けますか?」
源治「星恵のギター? ああ、ありゃダメだ。本人上手いと思っ
てるんだろうけど、サイドギターが限界。下手の横好きだな。
歌だけ歌ってりゃいいんだよ、天賦なんだから。でも最近じゃ
ギターに気を取られ過ぎて」
淑佳「歌もダメになりかけてる」
源治「みんな聞いてんのか」
笑う淑佳と源治。
源治「よし、奥で音出せるんだ。行こうか。(憲に)おい、店頼
むな」
憲「あ、はい」
淑佳「あの、レッスン料とかは?」
源治「伸介にビール奢ってもらうからいいよ、そんなの。じゃ、
行こう」
店の奥へ歩いて行く淑佳と源治。
憲「かっわいいなぁ。俺も教えてぇ……」
○同・奥のレッスン場
四畳半ほどのレッスン場に入る二人。
源治「お嬢ちゃん、一度だけ訊くよ」
淑佳「はい」
源治「右のおみ足は、元々?」
淑佳「……いえ、去年事故に遭って」
源治「そうか。もうよくならないのかい?」
淑佳「――はい」
源治「うん。で、お嬢ちゃんは、その事で誰かを恨んでたりし
てる?」
淑佳「え――」
淑佳をじっと見つめる源治。俯く淑佳。
源治「うん。じゃあ、その気持ちとは今日でさようならだ。で
きるかな。できないならこのまま 帰ってほしいんだ」
淑佳「――」
源治「誰かや何かを恨んだり憎んだりしてる人は、恨みや憎し
みのこもった悲しい音しか出せないんだよ。そんな音を出さ
せるために、ボクは人にギターを教えたくない」
淑佳「――」
源治「どうだい」
淑佳「――はい。分かりました」
源治「よし。じゃあ、これからよろしくお願いします」
淑佳に深々と頭を下げる源治。
淑佳「あ、あ、よろしくお願いします」
淑佳も深々頭を下げる。
源治「うん、いいお辞儀だ。終わる時もね。星恵はこれがおろ
そかだったから上手くならなかった。『親しき中にも礼儀あ
り』っていうもんだ。名付け親として忸怩たるものがある」
淑佳「名付け親――」
源治「うん」
源治がアンプにギターのコードを繋ぐ。
源治「弾いてみな」
淑佳「え」
弾き真似をする源治。頷いて深呼吸する淑佳。弾く。
《ギャイ~~~ン!》
淑佳「わっ!」
源治「いい音だ。それがお嬢ちゃんの原始の音だ。忘れるん
じゃないよ」
淑佳「はい」
源治「よし、レッスン開始だ。ビシビシいくぞぉ」
淑佳「はいっ!」
○桐生家・淑佳の部屋(別日・夜)
パソコンの動画を観ながら、ギターを弾く淑佳。おぼ
つかない。いらつく淑佳。
○茂山楽器・レッスン場(別日)
源治のレッスンを受けている淑佳。源治の指導は厳し
い。目に涙を浮かべ必死で食らいついていく淑佳。
○××高校・二年七組(別日)
数学の授業中。机の下でエアギターをする淑佳。彼女を
じっと見ている星恵。
○桐生家・淑佳の部屋(別日)
早朝、ベッドの上、寝ぼけ眼でギターの練習をするパジャ
マ姿の淑佳。
○茂山楽器・レッスン場(別日)
淑佳、源治に憲も加わってのギターセッション。
○桐生家・淑佳の部屋(夜)
動画を観ながら、ギターを弾く淑佳。上達している。ノッ
クの音。
久美の声「淑佳」
淑佳「なに」
久美、ドアを開けて。
久美「永沢さんが来られたわよ」
淑佳「え――」
久美「あんたに贈りたいものがあるって」
淑佳「贈りたいもの?」
久美「うん。どうする」
考えているが、立ち上がる淑佳。部屋を出る。
○同・玄関
やってくる一家四人。立っていた生江。頭を下げる。
生江「夜分急に、ごめんなさい」
淑佳、生江をじっと見ている。
生江「お父様から聞きました。淑佳ちゃん、ギター始めたんですっ
てね」
宗一郎を見る淑佳。
生江「外に出てもらえますか」
○同・玄関先の路上
出て来た桐生一家と生江。ワゴン車が止まっていて、後部
付近に英二が立っている。
英二「こんばんは。急にごめんね淑佳ちゃん。これ、よかったら
受け取ってほしいんだ」
ワゴン車の後部ドアを開ける英二。覗きこむ淑佳。
淑佳「何これ!」
座席が寝かされ、ダンボール箱に入ったCDがびっしりと
積まれている。
宗一郎「こりゃスゴイ」
生江「こう見えてロックオタクなの、この人。淑佳ちゃんがギター
始めたって聞いたらすごい興奮してね。聴いてほしいアルバム
たくさんあるって、勝手に選び始めちゃって。昨日徹夜。」
淑佳「選び始めたって、これが全部じゃ」
英二「こんなのほんの一部。レコードは積んでないしね」
淑佳「これが、ほんの一部」
宗一郎「どうする淑佳、いただくか」
淑佳「いい音聴かないといい音は出せないってお師匠がいつも言っ
てる――上着取って来る」
一旦家に入ろうとする淑佳。
宗一郎「待ちなさい淑佳」
淑佳「え」
宗一郎「永沢さんにお礼を言いなさい」
英二「そんな、いいですよ桐生さん」
生江「そうです。この人が勝手にやったことなんですから」
淑佳、英二と久美を見て。
淑佳「おじさん、おばさん。素敵な贈り物をありがとうございま
す。大事に聴かせてもらいます」
淑佳、深々頭を下げて家に戻る。涙ぐんでいる永沢夫妻。
奨太「あ~あ、なんかいっつもお姉ばっかいいよなあ」
笑う大人たち。
○<NAMA―GIKI>店内
ライブエリアにギター抱えて立っている淑佳と憲。テーブ
ル席に座っている星恵、伸介、侑子、源治。
星恵「てかさ、なんで憲ちゃんがいるのよ」
憲「サポートメンバーってことで」
星恵「何よそれ」
淑佳「じゃあ、そろそろいいかな。えっと『夢見る――』の前に
演りたいの一つあるんだけど」
星恵「好きにすれば」
淑佳「ありがと。じゃあ(深呼吸して、憲とアイコンタクト)」
憲「スリー・フォー!」
ギターをかき鳴らし始める淑佳。憲も。立ち上がる伸介と
侑子。驚く星恵。
伸介「うおぉいっ!」
侑子「きゃーっ!」
淑佳が猛烈な勢いで奏でているのはザ・ルースターズのイ
ンスト曲『テキーラ』。
淑佳・憲・伸介・侑子「『テキーラ』っ!」
源治「急にこれやりたいって言ってきてな。昨日一日でモノにした」
星恵「……」
淑佳・憲・伸介・侑子「『テキーラ』っ!」
熱狂している両親に目をやる星恵。淑佳、勢いのまま『夢見
る少女じゃいられない』の前奏へ。疾走感溢れるその演奏。
《ギャイ~~ン!》演奏終える淑佳。
憲「あー、超ヤベぇっ!」
茫然と淑佳を見ている星恵。侑子、淑佳に歩み寄る。
侑子「茂山さんに教えてもらったのね。わたしとダンナが、ルース
ターズ大好きだって」
淑佳「違います。勧めてくれた人がいて。初めて聴いてすごく弾き
たくなって――あの、下手で すよね、ごめんなさい」
侑子「謙遜も過ぎると嫌みよ――淑佳ちゃん、あなた最っ高!」
淑佳を抱きしめる侑子。
源治「天才でもなんでもないよ、お嬢は。ただ努力のセンスがずば
抜けていた。こういう子も珍しい。スポーツで精神を鍛えてた強
みかもね」
星恵「……」
侑子、淑佳を抱きしめたまま、振り返り星恵を見て。
侑子「さぁ、ホシはどうするのかな?」
星恵「……」
伸介「ホシ、このギターで歌いたくない?」
淑佳、侑子から離れて。対峙する淑佳と星恵。
星恵「ギター、返さなくていい。あげる」
淑佳「うん。貰っとく」
見つめあう二人。やがて、どちらからともなく笑いだす。
○画面・いきなり白くなり、画面の右下に小さく〈六月〉の白い
テロップ。
淑佳の声「で、ほんとにどうすんのよ、名前」
星恵の声「だから何だっていいって。そうだ、『網走番外地ーズ』
ってのどう? 『緋牡丹博徒ーズっていうのもいいな」
淑佳の声「ふざけないでよね」
星恵の声「ああっ、めんどくさいなあ! じゃあ『目くそ鼻くそ
ズ』とかでいいよもう!」
淑佳の声「やけくそにならないで!」
星恵の声「あ、それいい。『ザ・ヤケクソズ』ってのどうよ?」
淑佳の声「あんたねぇっ!」
○<NAMA―GIKI>店前(一か月後・夜)
日が暮れている。<トラッシュトーク☆クラブ ファース
トライブ!> と書かれた手書きのポスターが掲示してあ
る。
○同・中
ライブエリア、テーブル席に座っている四十人ほどの客。
伸介、源治に憲、永沢夫妻もいる。その前に立っている
アコースティックギターの星恵、エレキギターの淑佳。
厨房から侑子が二人を見ている。
星恵「えー、てなわけで、今日からこういう形で演ることになっ
たわけなんだけども――しっかしいつもと同じくオッサン多い
なあ。加齢臭に酔いそうだよ、ほんと。洗濯バサミ鼻に挟みた
い」
笑いが起きる。
星恵「まあ、隣にいる無駄に可愛い顔したヤツといっしょにやる
ことになったわけなんだけど。この子こんな大勢の前で演るの
今日が初めてでさ。だからさ、処女の花嫁抱く初夜の花婿的な
感じでさ、優しく相手してやってよみんな」
侑子「ホシっ!」
星恵「はいはい。相変わらずこうるさい製造元だなあ」
緊張の面持ちの淑佳。客席を見る。源治を見つける。源治、
淑佳を見て優しく微笑む。頷く淑佳。
星恵「じゃあ行くよっ! 淑佳いけっ!」
淑佳ギターをかき鳴らし始める。星恵もアコースティック
ギターを弾き始めて。相川七瀬 『LIKE A HARD
RAIN』を歌いだす星恵。
淑佳、勢いよくギターを弾き続ける。
○路上(夜)
走っている宗一郎、久美、奨太。
奨太「親父、足遅いっ!」
久美「もうちょっと早く走ってよっ!」
宗一郎「おまえが相変わらずグズグズやってっからだろうがぁっ!」
○<NAMA―GIKI>店前~店内(夜)
息をきらし、扉を開け店に入る三人。
演奏を続けている淑佳と星恵。旨そうにロックグラスを傾け
る源治以外の全ての客が椅子から立ち上がってノッている。
三人に気づく英二。
英二「あ、桐生さん、桐生さん! こっちこっちこっち!」
手招きする英二の元へ宗一郎と奨太。久美、厨房にいる侑子
のところへ。頭を何度も下げあう 母親二人。
英二「淑佳ちゃん、スゴイ! スゴイですよ! ずっと鳥肌止まん
ない! 奨太君、君のお姉さ んは本当にスゴイ!」
生江「この人始まったときから興奮しっぱなしなんです」
英二「だってモッズ演ったりしてんだもん!」
淑佳を見る宗一郎と奨太。
「ザ・モッズ」の『激しい雨が』を演っている二人。
間奏。淑佳の激しいギターソロ。熱狂の客たち。
宗一郎「ああ、あの顔だ」
英二「え」
宗一郎「ドリブルで、相手を抜いていくときの顔だ」
奨太「お姉、超カッケー……」
涙ぐみ淑佳を見ている久美。その手をそっと握る侑子。二人
の初ステージが続く。
○<NAMA―GIKI>店内(数日後)
テーブル席に座ってオセロをしている淑佳と星恵。厨房で仕
込み中の伸介。
淑佳「星恵さぁ」
星恵「んぅ?」
淑佳「うちの学校、軽音部あるよね」
星恵「ああ」
淑佳「入ろうって思わなかったわけ?」
星恵「入学した時見学には行った」
淑佳「じゃあなんで」
星恵「――音楽性の違いって言うんだろな、ああいうのを」
淑佳「……あっ」
星恵に四隅を全て取られる淑佳。ほぼ真っ黒の盤上。
星恵「ぞっとするくらい弱いな、あんたって」
淑佳「うるさい」
盤をグシャグシャかき回す淑佳。
星恵「ちょっとぉ!」
伸介「このままで続けるつもり、二人とも」
淑佳「え」
星恵「何が?」
伸介「ライブ大成功、おめでとう。よかったよ。でも同時に
思った。やっぱりもっとパンチと コクがほしいなあって」
淑佳「パンチとコク?」
伸介「意味分かる、ホシ?」
星恵「……リズム隊が要るってこと?」
伸介「ピンポーン。君たちが出したい音や演りたい曲には必須
じゃない? 何よりバンドは楽しいぞぉ~」
考え込む二人。
伸介「ま、二人がずっと『あのねのね』状態でいいっていうん
だったら、それはそれでいいと思うけど」
淑佳「『あのねのね』?」
「あのねのね」『赤とんぼの唄』の一節を歌い、笑う」
伸介。
星恵「『ゆず』とか言えよ」
伸介「大好きなんだよこの歌」
淑佳「バンドか……」
○同・入口
<トラッシュトーク☆クラブ ベース、ドラム募集 面談・
演奏ニテ決定 問イ合ワセ当店店主マデ>の貼り紙が掲示
されている。
○××高校・体育館(数日後)
バレー部、バスケ部、バドミントン部などが練習をしてい
る。
○体育館階段~地下
〔カメラ主観〕
○体育館・地下 軽音学部練習場入口扉
<♪けいおんぶ♪>の札が掛かっている。
○軽音楽部練習場・内
部長のボーカル青木麻貴(一八)が歌っている。
ギターの男子生徒と頻繁に見つめあいながら歌う麻貴。
ベース=セミロングの姉・道原琉那(一七)。ドラム=
ショートカットの妹・璃那。双子の二年生。
麻貴、男子生徒と見つめあったりしながら
ラブソングを楽し気に。
× × ×
ボーカル、ギター変更。琉那、璃那はそのまま。
× × ×
ボーカル、ギター変更。琉那、璃那はそのまま。
× × ×
ボーカル、ギター変更。琉那、璃那はそのまま。
〈以上場面の歌声、楽器音はすべて音声OFF〉
○同・扉を出たところの廊下
練習終わり。部員が帰っていく。琉那、璃那も。
麻貴「道原さん。どっちも」
振り向き麻貴を見る二人。
麻貴「ほんと、上手だよね二人とも。みんな安心して歌っ
たりギター弾いたりできる。でもさ、もう少し楽しく演
奏できないかな。前から言ってるけどさ」
琉那・璃那「……」
麻貴「音楽好きだよね? だから演奏してるんだよね?
だったらもっと楽しまないとさ。音を 楽しむって書い
て音楽だよ。あなたたちの課題、そこだと思う」
ギターを弾いていた男子生徒が待っているところへ
小走りで走っていく麻貴。並んで帰る二人をじっと
見ている琉那と璃那。
○同・校門(夕方)
出て行く琉那と璃那。
○路上(夕方)
並んで歩いて行く琉那と璃那。
○<NAMA―GIKI>前(夕方)
歩く二人。璃那、立ち止まる。琉那、歩き続ける。
璃那「琉那」
立ち止まり璃那を見る琉那。璃那、手招きする。戻っ
てくる琉那。二人、メンバー募集の貼り紙をしばらく
じっと見つめて。
琉那「ヤバそうな人とか出て来たら?」
璃那「全力で逃げよう」
琉那「うん――また、思ってるのと違ったりしたら?」
璃那「その時は――今度は全力で逃げよう」
琉那「うん、分かった」
<準備中>の札が掛かっている扉を開ける二人。恐々
中を覗き込む。
○同・店内
並んで立ち、ギターとタンバリン鳴らして『赤とん
ぼの唄』を歌っている星恵と淑佳。伸介と侑子が爆
笑している。
歌う二人を茫然と見る琉那と璃那。
× × ×
カウンター席に座っている星恵、淑佳、琉那、璃那。
厨房の中で肩を震わせ笑いをこらえきれないでいる
伸介と侑子。
星恵「勘違いしないでよね。別にコミックソング専門で歌っ
てるわけじゃないから、わたしたち」
琉那・璃那「うん」
伸介「うそだぁ。次は嘉門タツオの『ヤンキーの兄ちゃんの
歌』覚えるって言ってたじゃんかぁ」
伸介をギッと睨む星恵と淑佳。
伸介「……さーせん」
侑子「はい、ミルクティーと梅昆布茶」
琉那・璃那「ありがとうございます」
侑子「飲みたい物は全然違うんだね」
星恵「で、どんな音楽聴いてるの? 好きなバンドとかある?」
琉那・璃那「イースタンユース」
淑佳「うわ、シンクロした」
璃那「小三のときから演ってる」
淑佳「小三! そんなときから楽器やってんの?」
璃那「うん」
琉那「お父さんに教えてもらった。お父さんがギターと歌だっ
た」
星恵「家族バンドか。お父さんやめたの?」
璃那「中二のとき胃ガンで死んだから」
星恵「――そう。ごめん」
琉那「うぅん」
伸介「イースタン、ちょっと前ベース女の子に替わったよね」
琉那「え」
璃那「知ってるんですか」
伸介「そりゃこんな商売してりゃね。音楽情報は逐一ネット
でチェキナ! だよ」
星恵「――バカ」
璃那「春のフェス、行きました」
琉那「イースタン、やっぱりヤバイです」
伸介「淑佳ちゃんは知ってる? イースタンユース」
淑佳「永沢さんから貰った中の<必聴アルバム一〇〇選>に入っ
てた。『<♪>ら~ら、ら~ら、ら~ら ららら、ら~ららららら<♪>』っ
ていうの、練習で弾いたことある」
琉那・璃那「『青すぎる空』!」
星恵「オトン、そのCDある?」
伸介「ここをどこだと思ってんのよ」
星恵「よし。じゃあ一時間くれる?」
琉那・璃那「え?」
星恵「曲入れて喉作ってくる。淑佳、茂山の爺さんに電話して。
奥空いてるかどうか」
淑佳「うん。おばさん、電話借ります」
侑子「うん――あのさ、今の時代スマホくらい持っていいのよ、
あなたたち」
淑佳・星恵「あんなバカ養成ギプス」
璃那「うわ、シンクロしてる……」
× × ×
ステージにスタンバイしている四人。源治がテーブル席
に座っている。
星恵「よし、いこうか」
琉那・璃那「うん」
二人深呼吸して。曲冒頭、琉那のベース七音。淑佳のギ
ター三音。
琉那「ちょ、うわうわうわ。マジかマジかマジか」
演奏を止める琉那。
星恵「どうしたの、すぐベースでしょ」
琉那「あ、うん。ご、ごめん。ギターがさ。なんか、あの。も
う一回最初から、うん。ごめん」
微笑んでその様子を見ている源治。
再度曲冒頭、琉那のベース七音。淑佳のギター三音にか
ぶさるベース七音。激しく奏でられ始める淑佳のギター。
璃那のドラムも入って来る。印象的なフレーズが四回。
星恵、マイクに口を近付け歌いだそうとするが。
璃那「もう一回!」
星恵「え――」
淑佳も一瞬戸惑うが、琉那と璃那の勢いに押され、再度
イントロ部を奏でる。今度は歌いだす星恵。
星恵、一小節を歌い終えるが、鳴っているのは淑佳のギ
ターだけ。ベース、ドラム止まっている。淑佳も演奏やめる。
星恵「ちょっとぉ、何勝手に止まってんのよぉ。ちゃんとやりな
さ――」
琉那と璃那、俯き泣いている。
琉那「やっと、やっとだよ……」
璃那「うん。ずっと、ずっと、これを……」
琉那「音楽好きかぁ? ふざけないでよ。好きに決まってるでしょ……」
璃那「あんたより、あんたたちより、ずっと好きだよ、ずっとずっ
と好きだよ……」
言葉なく二人を見る星恵と淑佳。
源治「どこで練習してるの、双子ちゃん」
琉那・璃那「え」
源治「クラブ活動じゃその音出せないんでしょ。だったらどこで練
習してるの? 毎日その音出してるよね、君たち。それに基本練
習も怠ってない」
琉那「うち、銭湯なんです。営業終わったあと脱衣場でやってます」
星恵「銭湯なんだ」
璃那「思い切り練習できるように、お父さんが防音きっちりしたん
です」
源治「ほぉ、それは素晴らしい。ベースの方の双子ちゃん」
琉那「琉那です」
源治「琉那ちゃん。君は思いやりに溢れた誠実な音を出すね。技巧
に走ってないのもいい。質実剛健。なおかつグルーヴってものを
よく分かってる。ブリリアント。えっと、ドラムの」
璃那「璃那です」
源治「璃那ちゃん、君はとても勇ましい太鼓を叩くね。勇猛果敢。
ドラマーにとって最も大事な資質を持っている。ダイナミック。
両ぎきだよね、璃那ちゃんは」
璃那「はい。両手でお箸持てます」
源治「琉那ちゃん、璃那ちゃん。ボーカル、ギターいないのによ
く腐らず練習続けてきたね」
琉那「お父さんと約束したんです。毎日練習続けるって」
源治「うん。音は人だなあ。――お嬢から話は聞いてる。ぼくも
ね、大嫌いだよ。君たちがクラブで演奏させられてたみたいな
自己中心的な甘ったるい曲はさ。聴いててイライラするよ」
琉那「え」
源治「好きっていう気持ちをね、好きって言葉使わないで伝える
のが歌詞ってもんだ。そう思わない?」
琉那・璃那「はい。思います」
源治「ふふふ。星恵、お嬢」
星恵「何よ」
源治「いいリズム隊がいるバンドのボーカルとギターなんてのは
な、しっかりもののお母ちゃんと頼もしいお父ちゃん持ったク
ソガキみたいなもんだ。掌の上で遊ばせてもらいな」
星恵・淑佳「――」
源治「君らにはもったいないベーシストとドラマーだって言って
んの!」
星恵「――あ~、ヤダなぁ、こういう雰囲気。こっちはおあずけ
ばっかりくらって声出したくてうずうずしてんの。ほら、最初
から行くよ、琉那、璃那!」
琉那・璃那「うん!」
淑佳、笑ってギターを構える。
○××高校・軽音学部練習場・入口前
練習の音が漏れている。立っている四人。淑佳、琉那はケ
ースに入れたギター、ベースを肩がけしている。
淑佳「分かるよね、分かってるよね、分かったわよね」
星恵「わーった、分かりました、分かってます。わたしだってね、
抑えようと思えば抑えられる んだっての」
淑佳「どうだか」
星恵「ちょっとぉ、しつこいっての!」
淑佳「ほら、そういうとこっ!」
星恵「ぐっ……」
琉那「ごめん、わたしたちのために」
璃那「大丈夫だよ。二人だけで」
淑佳「うぅん。やっぱりわたしと星恵もいっしょに行かないと」
星恵「変なところで堅いんだよな。これだから元体育会系は嫌
なんだよな……」
淑佳「ほら、グダグダ言ってないで行くよ」
星恵「仕方ない。仁義切っておきますか」
扉をあける淑佳。入っていく四人。
○同・内
三十人近い部員を従えて立っている麻貴。対峙している星
恵と淑佳。その後ろに俯いて琉那、璃那。
星恵「え~、というわけでですね。当方のバンドに参加するにあ
たってですね。道原琉那さんと 璃那さんの退部をですね。認
めていただければと思いましてですね。参上させていただいた
次第です。はい」
麻貴「そんなの認められるわけないでしょ」
星恵「え~、そこをなんとか」
麻貴「道原さ~ん、どっちも。後ろにいないでちょっと前に出て
来てくださ~い」
淑佳、振り向いて。
淑佳「琉那、璃那」
琉那と璃那、一歩出る。俯いたまま。
麻貴「練習始めたいんだけど。みんな言ってるよ。二人のベース
とドラムが一番演りやすい、歌いやすいって」
琉那・璃那「……」
麻貴「みんなから認めてもらってるのに、やめたいだなんてね。
ちょっと上手だからってそんないい気になってたとはさ。正直
ショックだな部長としては」
星恵「ちょっ、あんた何言ってんの。この二人いい気になんかなっ
てな」
淑佳、星恵の足を踏む。
星恵「ぐっ!……いや、そういうことではなくてですね部長さん。
あくまで方向性の違いと言いましょうか。音楽性の違いと言い
ましょうか。こういうことは音楽活動においては有名無名に関
わらずよくある話しでですね」
麻貴「(聞く耳持たず)ねえ、二人とも早くスタンバってくんな
い?」
無言の琉那と璃那。
麻貴「早く」
琉那「……嫌です」
麻貴「なんで嫌なの」
璃那「……演りたい音楽じゃないから」
麻貴「何それぇ。わがまますっごいね。そんな気持ちで演奏して
たんだ。あのさぁ、どんな音楽 演りたいか知らないけど、そ
んなのあるんだったらここで演ればいいじゃん。わたしいつも
言ってるよね、音を楽しもうって。あなたたちが楽しめる音、
ここで出せばいいじゃん。ここ でバンド組んで演ればいいじゃ
ん。誰も止めないよそんなの。ねぇみんな」
振りかえる麻貴。頷く部員たち。
淑佳「ああ、もう仕方ないか。部長さん、ちょっと音、出してい
いですか」
麻貴「は?」
淑佳「琉那、璃那、いこう」
麻貴「ちょっと、あなた何勝手に」
学生鞄からスティックを出し、ドラムセットの前に座る璃那。
背負っていたギター、ベースをケースから出し、チューニン
グを始める淑佳、琉那。
琉那「『青すぎる空』ね」
淑佳「うぅん。『踵鳴る』覚えてきた」
璃那「わぁ、やったぁ。ありがとう」
淑佳「琉那も大丈夫だよね」
嬉しげに頷く琉那。
淑佳「イントロ終わりまで。いいよね?」
璃那「なんでぇ。浪岡さんも入って全部演ろうよ」
琉那「そうだよ」
星恵「今度うちで思い切り演ったげるから。とりあえずここはそれ
で十分」
淑佳「んじゃ行くよ。スリー、フォッ!」
淑佳のギターソロから。琉那、璃那の音が入り爆音一気に巻
き起こる。轟く。イントロ演奏終える三人。
淑佳「これが、琉那と璃那が出したかった音です。ちなみにこの曲
二人に合わせるの、これが初めてですわたし」
圧倒され言葉を失っている麻貴はじめ部員たち。
星恵「え~。と、いうわけでですね。道原琉那さん、璃那さんの退
部の件、お認めいただく方向でよろしいでしょうか」
○同・入口前
星恵、躰半分部屋に入れて頭下げながら。
星恵「それでは失礼いたします。たいへんお邪魔いたしました」
ドアを閉め、部屋を出る星恵。少しの間の後ドアを開けて半
身入れ。
星恵「琉那も璃那もね、ずっとあんたらの放課後お楽しみ会につき
あってきたの。もうそろそろ解放してやんなよ、ね」
○体育館地下の廊下
四人、並んで歩いていく。
星恵「あ~二度とごめんだ」
淑佳「最後余分」
星恵「るっさいなあ。ちょっとくらいいいでしょうよ」
琉那と璃那、立ち止まる。
星恵「ん、どうした」
深々頭を下げる琉那と璃那。
琉那・璃那「浪岡さん、桐生さん、本当にありがとう」
淑佳「おー、シンクロ」
星恵「言っとくけど、イースタンばっかりは演らないよ。こっちだっ
て演りたいのたくさんある んだから。あと、もうさんづけはや
めて」
琉那「うん」
璃那「ねぇ、帰りにうち寄って。営業前の一番風呂ごちそうする」
星恵「え――」
琉那「どうしたの」
璃那「あ、ダメな日?」
星恵「――うぅん。分かった。おごってもらう」
星恵をじっと見る淑佳。
○<道の湯>外景(夕方)
暖簾はまだ出ていない。
○同・女湯脱衣場(夕方)
シートがしっかりかぶせてあるドラムセットとアンプが置い
てある。脱衣籠の中に脱がれている四人の制服。
○同・女湯浴場(夕方)
画面向かって左から淑佳、星恵、璃那、琉那が肩まで湯に浸
かっている。
琉那・璃那「二倍だよね」
星恵「え?」
淑佳「何、そのシンクロ?」
璃那「ふふっ、琉那もやっぱりそう思った?」
琉那「うん――(淑佳と星恵に)たまにあるんだ。いっしょにいる
時に同じこと思うことが」
星恵「何が二倍なの?」
璃那「だからぁ、おっぱい一つってことは、感じるのは絶対二倍だ
よ」
琉那「男の人も星恵もたまらないんじゃないっすかぁそれ。知らな
いけど。あははっ」
星恵「…………」
琉那「星恵の恋人になる人って、きっとめちゃめちゃいい男だよ」
璃那「うん。星恵がいい女だもんね――<♪>『おまえについてるラ
ジオ 感度最高! いつもいい音させてどこまでも飛んでく』」
RCサクセション『雨上がりの夜空に』を歌う璃那。琉那
も声を重ねて。
璃那「イースタンの他にもたくさん知ってるよ。相川七瀬の曲も
教えて。ね、いっぱい演りたいの演ろうね」
星恵、突然ガバッと二人を抱きしめる。強く抱きしめる。
しばらくそのままでいる星恵。やがて何事もなかったよう
に二人を離す。また首から上を出して正面向く四人。
琉那「でも、想像つかないよね。男の人とやっちゃうのなんて」
星恵「淑佳寸前までいったけどな」
琉那・璃那「ええっ!?」
淑佳「…………」
星恵「『ドキドキしてるよ、ぼくは今』『はい――わたしもです
』ぶはははっ」
淑佳「……」
星恵「ま、詳細はご本人から。こいつさ、君たちが思ってるより
ずっとバカだから」
ゆっくりまっすぐ湯の中に頭を埋めていく淑佳。
琉那「あ、沈没した」
淑佳の泡がぷくぷく浮き上がってくるのを見ている三人。
○<NAMA―GIKI>入口(夜)
<トラッシュトーク☆クラブ セカンドファーストライブ(笑)>
の手書きポスターが貼ってある。
○同・中(夜)
ライブエリア。オールスタンディング。汗まみれで演奏して
いる四人。充実と興奮に満ちたその顔。
星恵「よぉし、もう本当にこれが最後だからね! いいかげん道の
湯行って汗流させてよ! んじゃ行くよ! 璃那、カウント!」
璃那「ワン、ツー、ワンツー、スリー フォっ!」
ラストの曲は相川七瀬の『Sweet Emotion』。演奏が始ま
る。熱狂の客席。
○以降曲に乗せて、トラッシュトーク・クラブの活動場面が次々と。
①夏祭り会場のステージ。浴衣を着て演奏する四人。
②老人ホームでのアコースティック演奏会。
③<NAMA―GIKI>での練習風景。
④〈道の湯〉脱衣場での練習風景。
⑤スーパーマーケット駐車場でのイベント出演。
⑥憲の通う大学の学園祭のステージ。制服で演奏する四人。
⑦幼稚園でのクリスマス演奏会。園児たちを前にサンタの扮
装で演奏する四人。
○フリーマーケット開催中の公園
パフォーマンスエリア、沸いている客を前に相川七瀬の『Sw
eet Emotion』を演奏している四人。
曲が終わる。大歓声。喜びに満ちた四人の顔。
○<NAMA―GIKI>店内
開店前、丸テーブルを前に座っている四人。
松任谷由実『恋人がサンタクロース』を口ずさむ琉那。
ニヤニヤ笑って琉那を見る三人。視線に気づき、はに」
かむ琉那。
星恵「クリスマスなんてもうとっくに終わりましたよ~ん」
星恵、琉那の頬を人さし指でぐりぐりと。
璃那「でもほんと楽しかった、幼稚園ライブ」
淑佳「うん。お子ちゃまたちアンコールの『TRAIN―TRAIN』
ですっごい盛り上がった よね。あれビックリした」
星恵「ホントにいい曲ってのは年齢問わないってわけよ。で、本題。
これからどうするかなんだけど」
淑佳「別にあらたまって話しあうこともないんじゃないの」
璃那「え?」
淑佳「だってしばらくこのまま続けられそうじゃない。琉那はお風呂
屋さん、継ぐんでしょ」
琉那「うん。お母さんはっきり言わないけど、どっちかにそうしてほ
しいって思ってるの分かるから」
星恵「璃那は?」
璃那「わたしは琉那手伝いながら、今やってるスーパーのレジバイト
続けるつもり」
星恵「正社員目指すの?」
璃那「うぅん。そうなっちゃうと転勤あるし。卒業したらパート契約
にしてもらう。一応社会保険つけてもらえるみたいだし」
星恵「そっか」
琉那「星恵は?」
星恵「わたし? わたしはまあ、親の細脛ガジガジ齧りながら、この
ままって感じ。家事手伝い兼店手伝いみたいなとこか」
璃那「それだけじゃないじゃん。週一でやってるアコギの単独ライブ、
お客さん増えてきてるんでしょ」
星恵「おかげさまで」
淑佳「お師匠言ってるよ『弾き語りのアコギはまぁまぁ聴ける』って」
星恵「……偉そうに。ジジィ」
璃那「プロも見えてきたんじゃな~い」
星恵「ば~か。んで、淑佳は進学と」
琉那「スポーツ心理学なんてすごーい」
淑佳「まだ分かんないよ。最近やってみたいって気持ちになっただけ
だから」
璃那「その気持ちがいちばん大事だよ」
琉那「うん。わたしもそう思う」
淑佳「ありがと。家から通える大学ってことが絶対条件」
星恵「なんで?」
淑佳「――言わせるなよぉ。ね、だから卒業してからもしばらくはこ
のまま続けられるんじゃな いかっての」
璃那「そっか、そうなんだ」
淑佳「うん」
四人に訪れる心地よい沈黙。
星恵「んじゃ今度のアマチュアイベントのセットリスト決めに議題変
更。どんなのやる?」
淑佳「演りたいの一つあるんだ」
璃那「なに?」
淑佳「佐野元春の『YOUNG BLOODS』って曲」
琉那「またシブいところついてくるね」
星恵「ここんとこ淑佳の昭和女子化が激しいったらない」
淑佳「いい曲なんだからいいでしょお」
扉が開く。憲が顔を出す。
憲「琉那ちゃ~ん、まだかなぁ」
淑佳「あ、道の湯三代目登場」
璃那「大丈夫、番台には座らせないから」
星恵「よう、犯罪者! スーパー銭湯に負けないよう商売しっかり勉
強しろよ!」
憲「ちょ、犯罪者って何よ、星恵ちゃん」
星恵「ウブな女子高生にチューするようなチンピラ大学生は犯罪者だっ
ての!」
爆笑する星恵、淑佳、璃那。真っ赤になって俯いている琉那。
○テレビ局・外景
○同・アナウンサー室長室ドア前
ノックする美香。中から「どうぞ」の声。
美香「失礼します」
美香、入る。
○同・室内
アナウンス室長、杉田雅代(四五)の前に立つ美香。
雅代「黒沢さん」
美香「はい」
雅代「あなた、中学生のなでしこリーグ選手、インタビューしたこ
とあったよね」
美香「ああ、はい。桐生淑佳ちゃんです」
雅代「あれってさ、あなたがその淑佳ちゃんって子、取り上げたいっ
て言ってきたんだったよね、確か」
美香「はい。でも彼女、高一の秋に交通事故で足、不自由になって
しまって……あんなに期待されてたのに、かわいそうすぎます」
雅代「出てるわよ、今朝の新聞に」
美香「え?」
雅代「はい」
美香に新聞を差し出す雅代。<記事『絶望の中、出会ったのは
ギターと最高の仲間』の見出し。トラッシュトーク☆クラブの
四人が笑っている写真>
美香「バンド、淑佳ちゃんが……」
雅代「新聞くらい読みなさいよ。連絡は取ってなかったの、あなた」
美香「事故の後しばらくして、携帯に何回かかけたんですが、全然
出なくて。そのうち契約も切ってしまったみたいで」
雅代「実家には?」
美香「かけました。お父様が出られて、そっとしてやってほしいと
いうことだったので」
雅代「ふ~ん。そっとしてる間に新聞社に持ってかれちゃったね。
彼女のカメラインタビューしたのなんてあなただけだったのに」
美香「……」
雅代「いい笑顔。この笑顔になるまでに、どんな葛藤や苦悩があっ
たんだろうね――特集一本充分作れてお釣りくるくらいのけっこ
うなネタよ、これ。でも今から取り上げたところでもう新鮮味ゼ
ロ」
美香「……すみません」
雅代「何やってんのあなた。雑な仕事しかできないくせに、合コン
後のお持ち帰り場面写真誌に撮られるなんて、お遊びだけは一人
前よね」
美香「……」
雅代「ネットで自分のこと、なんて呼ばれてるかくらい知ってるわ
よね」
美香「……噛ミカです」
雅代「まともに原稿読めないの若手芸人に弄られていつまでヘラヘ
ラ笑ってるつもり? 地道でまっとうな仕事をするつもりがない
なら岐阜に帰りなさい。テレビに映って喜んでる給料泥棒を雇う
余裕は会社にはありません」
美香「はい……」
雅代「――実家の電話番号、分かるのね」
美香「はい」
雅代「コンタクト取って」
美香「あの、新聞記事はよくても、淑佳ちゃん、カメラインタビュー、
受けてくれるでしょうか」
雅代「目的はそれじゃない」
美香「え?」
雅代「黒沢さん、この子そばで見た感想は?」
美香「はい?」
雅代「だから、生で見てどうだったかって訊いてるの」
美香「……アイドルでも十分通用すると思いました」
雅代「よし、ルックス文句なし。話題性十分。こりゃ本当にいけるか
もね――黒沢さん」
美香「はい」
雅代「挽回してください」
雅代に真直ぐ見つめられる美香。
○喫茶店・店内(数日後)
向いあって座っている淑佳と美香。
淑佳「やっぱり、カメラの前でのインタビューは、ちょっと。あの
記事もわたしは嫌だったんだ けど、他の三人がやろうやろうっ
てノっちゃって。だから、ごめんなさい」
美香「うん、分かった――じゃあ、こっちの方のお願いも無理かな
あ」
美香、鞄の中からファイルを取り出してテーブルの上で開く。
楽器を持った四人の少女の写真に[Seiren]のロゴ。
淑佳「あの、これ、何ですか」
美香「ちょっと先の話しだけどね。九月からの深夜枠ドラマで主題
歌やることになってる予定の女の子たち。バンド名はセイレーン。
みんなかわいいでしょ。お金そんなにかけられないけど、無名の
新人たくさん使って、リアルな青春ドラマ作ろうってことになっ
たんだ。そこから 局自前のスター出したいって意図もある」
淑佳「あの、それが、わたしと」
美香「うん。セイレーンもその一環。ボーカルの子は最近テレビに
出始めてて、このドラマにも 出るの。でも他の子は全員無名。
プロダクションに声かけたり、地下アイドルと直に会ったりして、
楽器できる子集めたの。でも、ギターだけはどうしても決まらな
い。ドラマに先行して 音楽活動始める予定なんだけどさ」
淑佳「……」
美香「一度だけ、この子たちと演奏してみてくれないかな」
淑佳「オーディション、ですか」
美香「そんな堅苦しく考えなくっていいよ」
淑佳「――ダメです。わたし、みんなが」
美香「お願い。一回演ってくれるだけでいいの――あのね。わたし
さ、今ちょっと局で肩身の狭い思いしてるんだ」
淑佳「……」
美香「ああ、何言ってんだろ、最低だわたし、ほんと最低……情け
ないね。ごめんね、わたし今、淑佳ちゃん困らせてるよね、ほん
と、ごめんね……」
淑佳「黒沢さん」
美香「ごめん、ごめんね……」
俯きぽろぽろ涙をこぼす美香を見つめる淑佳。
(F・O)
○××高校・屋上(十数日後)
歩いて行くトラッシュトーク☆クラブの四人。鉄柵前、対峙
する星恵、琉那、璃那と淑佳。璃那、スマホを取り出し操作。
淑佳に画面を向ける。淑佳、見る。セイレーンのメンバーに
囲まれている淑佳。息を飲む淑佳。
璃那「ボーカルの内野瞳って子のインスタグラム。同じクラスの子
が見つけて教えてくれたの。(スマホを自分に向け)『ギターオー
ディションに来てくれた桐生淑佳ちゃん! セイレーンのギター
は最高のビートを奏でる彼女で決まり! もう絶対離さない!
そしてナント彼女は元プロサッカー選手、スゲー! ギターの腕
も超一流! さあセイレーン始動っ!』――何これ」
淑佳「それは、写真撮っただけで――わたし入るなんて言ってない。
ね、聞いて。ちゃんと説明するから、聞いて」
琉那「ベース、ドラム、キーボード、全員のインスタに写真アップ
されてるよ。キーボードとドラムの子はプロデューサーの人に淑
佳合格させるよう頼んだって書いてる。行ったんだよね、このセ
イレーンってバンドのギターオーディションに」
淑佳「――うん。でも、それは黒沢さんに頼まれただけで。写真も
こんなことに使われるなんて全然知らなくって。わたしバンドに
入るなんてこと言ってないから」
星恵「音、合わせたんだよね」
淑佳「――うん」
星恵「向こうは入ってほしいって言ったんだよね」
淑佳「――うん」
星恵「なんて答えたの?」
淑佳「……」
璃那「言ってよ」
淑佳「――考えさせてほしいって」
淑佳をじっと見る三人。
淑佳「違うの。明後日、また行くことになってるからそのときに断
るの。聞いて。黒沢さん、すごく困ってたから、すぐに断れなかっ
たの。だからなの。入るつもりは最初からないの」
琉那「日付見たらさ、オーディション受けたのって十日前だよね」
淑佳「うん」
琉那「それから何も連絡してないんだよね」
淑佳「うん」
琉那「――もう遅いよ淑佳。話し動き始めちゃってる、それって」
淑佳「でも、でもわたしが今から断ったらいいだけの話しなんだか
ら――」
琉那「甘いよ淑佳。話しが動き始めたってことは、人とお金が動き
始めたってことだよ。もう、止められないよ」
淑佳「……」
星恵「むこう、大学は何て?」
淑佳「――学業優先でいいって」
星恵「そう。家の人に話した?」
淑佳「うん、よく考えて決めろって――だから断る、断るの。ちゃ
んと断ってくるから」
璃那「だからもう遅いんだってばっ!」
淑佳「璃那……」
璃那「ははっ。お家の人も大甘だよね。反対はしないんだ――やっ
ぱ途中から障碍持った娘にはやりたいことやらせたいって思うん
でしょうね」
琉那「璃那っ!」
璃那「少しくらい言わせてよっ! 淑佳、あんたいいよねその足。
その足のお陰でプロだ、芸能人だ。わたしたち捨ててね。生あっ
たかい目で世間から見られて最高のビートっての出せばいいじゃ
んかっ!」
星恵、璃那の頬を張る。璃那、涙の滲んだ目で星恵を睨む。
星恵「話になんない。もうあんた降りてな」
璃那の肩を押す星恵。璃那、泣きながら降り口へ向かう。
その途中で立ち止まり振り返って。
璃那「そのバンドのところに行った時点で淑佳の中で答え出てたん
だ、きっと」
璃那、去る。
琉那「ごめん、淑佳。璃那酷すぎること言った。許してやって」
淑佳「――うぅん、大丈夫」
琉那「でも、璃那の気持ちも分かってやってほしい。あの子、プロ
のドラマーになるのが夢だったんだ。メジャーなバンドのドラム
じゃなくってもさ、スタジオミュージシャンでいいからプロにな
りたいってずっと言ってたの」
淑佳「……」
琉那「でさ、この前そのこと訊いてみたんだ。そしたらさ、もうど
うでもいいって。<トラッシュ>でドラム叩けたらそれでいいっ
て。三人の後ろでドラム叩き続けられたら、もうそれでいいって。
おばさんになっても、みんなで幼稚園の子やおじいさんおばあさ
んの前で演奏できたら最高だって」
淑佳「璃那、そんなこと……」
琉那「うん。だから、淑佳が大学進んでも<トラッシュ>続ける気持
ちだって知ってすごく嬉しかったと思う。璃那、言った事あるん
だ。星恵の歌と淑佳のギターの音は自分の宝物だって」
淑佳「……」
琉那「わたしだって、同じ気持ちだよ――オーディション、行っちゃ
いけなかったよ。行かないでほしかったよ。淑佳」
淑佳「……」
琉那「璃那心配だからみてくるね」
琉那、去る。対峙する淑佳と星恵。
星恵「本気で音出してる人間には、よくあることなんだと思う。よ
くあることなんだけど、いざふりかかってみると、それは極めて
個別的でそのバンドにしか起こりえないことなんだなあ、これが」
淑佳「……」
星恵「嬉しい気持ちもなくはないよ。バンドからメジャーな人間が
出るっていうのも」
淑佳「断る、断ってくるから……」
星恵「うぅん。琉那と璃那も言ってたようにもう遅い。自分の気持
ちと違うところで大きな話しが進んでいく、そういのもきっとよ
くある話しなんだろうね。あ、そのバンドしながらこっちも続け
るなんてのはダメだからさ。こっちだって中途半端な気持ちで音
出してるわけじゃないからね――そんなことはよく分かってるか、
さすがに」
淑佳「星恵……」
星恵「キツいようだけど一つだけはっきり言っとく。トラッシュ
トーク☆クラブに、もう淑佳の居場所はない。居場所をなくした
のは淑佳自身だ」
見つめあう二人。
星恵「さあ、わたしも降りよう。璃那のこと、許してやってよ。わ
たしからもお願い」
降り口へと歩いていく星恵。その途中立ち止まり、振り返っ
て淑佳を見て。
星恵「これからはスマホくらい持ちなよ! 不便だぞ! はははっ!」
星恵、去る。独り立ちつくす淑佳。
○音楽スタジオ(数日後)
オリジナル曲を練習演奏しているセイレーンの五人。美香が
スタジオの端に立って演奏を聴いている。やってくる雅代。
雅代「よぉ」
美香「あ、おはようございます」
雅代「一本釣り、成功だね」
美香「ありがとうございます」
雅代「彼女たちどんなプロモーションの方向なのか聞いてる?」
美香「当面はアマチュアイベントの出演やライブハウス廻り。事
務所との本契約は年が明けてからで、正式デビューはドラマ放
映後だそうです」
雅代「アマバンドが深夜枠の青春ドラマの主題歌歌うわけか。い
いね」
美香「地道に、まっとうに――室長、セイレーンのこと、淑佳ちゃ
んのこと、ずっと追いかけさせてください。次のライブイベント
で淑佳ちゃんのインタビュー撮ります。カメラ入れさせてください」
雅代「ふふっ」
美香「?」
雅代「少しは、らしい顔になってきたかな」
演奏を続ける淑佳。
○疾走する憲の運転する車(一か月後)
○同・車中
助手席の琉那、後部席の星恵、璃那。沈黙。車、走っていく。
○デパート屋上
ステージが組まれ、アマチュアバンドのライブイベントが開
催されている。屋台なども出 ており、賑やかな雰囲気。
○同・出演者待機エリア<Ⅰ>
向いあっている淑佳と星恵、琉那、璃那。憲は少し離れて四
人を見ている。
璃那「淑佳」
淑佳「うん」
璃那「ごめん。わたし本当に酷いこといった。許してほしい」
淑佳「うん。全然気にしてないから。だから璃那も、もう気にしな
いで」
璃那「一回出しちゃった言葉は、元に戻せないよね――」
星恵「はいストップ~。大事なステージ前に泣かないのぉ~。この
話し終わりぃ~」
璃那の頬をむぎゅっと掴む星恵。笑う淑佳。空気が和む。
淑佳「みんなの言ったとおりだった」
星恵「え?」
淑佳「やっぱりもう、遅かった――ホント、バカだよね、わたし」
星恵・琉那・璃那「……」
瞳「お~い、淑佳ぁ~」
セイレーンのボーカル、内野瞳(一八)が手を振っている。
星恵「お呼びだよ」
淑佳「うん」
星恵「トリなんでしょ」
淑佳「うん、そっちは?」
星恵「まん中すぎ」
淑佳「そっか。じゃあ聴かせてもらうとしますかぁ」
琉那「永久サポートメンバーのへなちょこギターにがっかりしない
ようにね」
憲を見る四人。笑う。
淑佳「んじゃ、行くね」
星恵「うん」
瞳のところへ去っていく淑佳の後ろ姿を見つめる星恵、琉那、
璃那。
○同・ステージ上
佐野元春『YOUNG BLOODS』を演奏するトラッシュトー
ク☆クラブ。
その演奏を客席からじっと見つめる淑佳。
○同・出演者待機エリア<Ⅱ>
並んで立っているセイレーンに向けられているテレビカメラ。
淑佳にマイクを向けているのは美香。
○同・出演者待機エリア<Ⅰ>
演奏終えた三人。インタビューを受けているセイレーンを、離
れたところから見ている。
琉那「芸能人だね、淑佳」
璃那「いちばんかわいいよ、あの中で。絶対有名になる」
星恵「あ~あ、渡瀬さんや文太さん生きてたらサイン貰ってきてもら
うのになあ」
琉那・璃那「ハァ?」
星恵「ロッケンロールなスピリットで生きたいなら『仁義なき戦い』
くらい見ときなさい。君たち」
璃那「意味分かんないし」
星恵「はははっ」
インタビューの様子を見続ける三人。
セイレーンのところへ中年男が近寄っていくのが星恵の目に入
る。
星恵「あれ、あいつ……」
○同・出演者待機エリア<Ⅱ>
美香からインタビューを受けている淑佳。その前にぬっと立つ
中年男、山岸である。
山岸「久しぶりだね。会いたかったよ」
美香「あ、ごめんなさい、今インタビュー中なんで……」
淑佳「あっ」
山岸「バンドなんてやってたんだね淑佳ちゃん。昨日ネットカフェの
パソコンでお名前検索して初めて知ったよ。今日のライブイベン
トのこともね」
美香「あの、ちょっと」
山岸「彼女がサッカーをやってる頃からの大ファンなんだ。お話させ
てくれないかな」
美香「あ、そうなんですか。淑佳ちゃん、いいかな?」
淑佳、ぶるぶると首を横に振る。
美香「え?」
山岸「冷たいなあ。またこうやって運命的に出会えた二人なのに」
淑佳の手を強引に握る山岸。
美香「ちょっとあなたそれは……」
山岸「君は黙っててよ」
ギロッと美香を睨む山岸。その目に浮かぶ狂気に気押される美
香。
○同・出演者待機エリア<Ⅰ>
駆けだす星恵。驚く琉那と璃那。
琉那「星恵っ!?」
星恵「淑佳っ! 逃げろっ!」
走る星恵。
○同・出演者待機エリア<Ⅱ>
山岸「ボクね、会社クビになったんだ。ちゃんとお金払って女の子と
セックスしたのにさ。親が告げ口したの。酷いと思わない? 妻か
らも離婚言いわたされちゃった。まあ、あんな女どうでもいいけど。
でも、あのときセックスできなかった淑佳ちゃんを忘れはしなかっ
たよ。君を思ってオナニーだってしたさ。そしてまたこうして会え
た。運命だよ。うん、運命なんだね、これって」
ガタガタと震え始める淑佳。握った手に力を込める山岸。
美香「……あなた、手を、離しなさ――」
山岸「おまえは黙ってろつってんだろぉ!」
ビクンっとなる美香。
山岸「でもさ、ぼくにはもう何もない。お金も家も地位も失ってしまっ
たよ。この世で君を幸せにはできなくなっちゃった。でも淑佳ちゃん
への愛だけは失っていないよ。だからさ、一緒に死のうよ。天国で一
緒になって幸せになろう。ね、いいかい」
山岸、ベルトに差していたナイフを手にし、淑佳の左腹部を刺す。
淑佳「あつっ……」
山岸、ナイフから手を離し、両掌で淑佳の両頬を挟む。
山岸「うふふ。これで淑佳ちゃん動けない。さぁ、この世で最初で最後
のキスをしよう。そして、ボクと君は清らかな世界で天使の祝福を受
けて結ばれるんだ。いいね」
全力で走ってきていた星恵。山岸の後ろ襟を掴みひきずり倒し、
横腹を思いきり蹴る。蹴る。蹴る。
山岸「ぐはぁっ!」
星恵「淑佳ぁぁっ!」
淑佳、腹に刺さっているナイフを茫然と見つめる。血が滲み始め
る。
淑佳「え、え、うそ。い、痛い……」
淑佳、膝をつく。
星恵「淑佳、それ抜くなぁ! 抜いたら血が噴き出るっ!」
駆けつけてくる琉那と璃那。
璃那「淑佳ぁっ!」
星恵「琉那、救急車っ! 早くっ!」
琉那「分かったっ!」
スマホを取り出し119に通報する琉那。山岸、立ち上がる。
星恵を見る。
山岸「またおまえかぁっ!」
星恵「ああ、そうだよ! 何回だって邪魔してやるよっ!」
星恵を睨む山岸。やがて璃那に横抱きされた淑佳を見て笑って。
山岸「うわぁ。苦しんでる淑佳ちゃんもかわいいなあ。あぁ、いっぺんに
勃っちゃったよ――そうか。ぼくらはやっぱりこの世界で結ばれない運
命なんだね。じゃあ先に行って待ってるよ。後からちゃんと来てね」
山岸、向きを変え走りだす。鉄柵を乗り越える。飛ぶ。悲鳴。
璃那「淑佳、淑佳っ!」
淑佳「い、痛い……あ、あぁ……」
淑佳の血の染み、どんどん広がっていく。美香とセイレーンのメン
バー、震えて動けない。大混乱の出演者待機エリア。
○路上
血だまりの中、死んでいる山岸。
○上空
ドクターヘリが飛んでいる。
〇ドクターヘリ・中
ストレッチャーの上、酸素マスクを救急隊員にあてがわれている
淑佳。同乗している星恵、淑佳の手を強く握っている。
救急隊員「お友達、何か彼女に話しかけてあげて」
頷く星恵。
星恵「大丈夫。大丈夫だよ淑佳。ね、聞いてた?、琉那と璃那も乗ろう
としたんだけどさ、処置 の邪魔になるからってわたしだけになった。
ケチくさいよねぇ、はははっ。ねぇ、今空飛んじゃってんのわたした
ち。なんかすごくない?」
星恵を見つめる淑佳。
淑佳「琉那も璃那も地上。憲ちゃんの車で追っかけてる。(スマホを取
り出し)ほら、琉那のスマホ。総合病院の救急センターってちゃんと
連絡したから。これ渡す時琉那さぁ『すぐかけられるようにしたから』
だって。それくらいできるっての。失礼だよねぇ。あ~、でもこんな
ことあるんだったら、わたしもスマホ持つべきだなぁやっぱり。てい
うかさ、こんなの何回もあったらたまらないっての、はははっ」
星恵を見つめ涙をこぼす淑佳。
星恵「なに泣いてんの。意識ちゃんとしてるし、抉られたり、抜かれた
りもしてないんだから。淑佳よく聞いて。刺さったままの方が大丈夫
なんだよ。痛いだろうけどもうちょっとの辛抱だからね」
救急隊員「お友達の言うとおりだから安心してね。でも君、よく知って
るなあ」
星恵「へっへぇ、プロに褒められちゃったよ。任侠映画も観ておくもん
だなぁ」
淑佳の涙止まらない。その手を強く握りしめる星恵。
星恵「血液型Oだって言ってたよね。わたしもOなんだ。要るんならい
くらでも輸血してあげるから安心して。淑佳」
星恵、握った淑佳の手を自分の左胸にあてがう。優しく微笑む。
涙が止まらない淑佳。飛び続けるドクターヘリ。
○総合病院・関係者待機室(夜)
長座椅子が並べられ、数組の待機関係者がいる。設置されてい
るテレビに映っているのは天気予想。
座っている星恵、琉那、璃那、憲。扉が開く。奨太が立ってい
る。四人立ちあがり奨太のところへ。
奨太「手術、うまくいきました。明日の昼前には目が覚めるだろうっ
て。今ICUに入りました。父と母がつきそってます」
安堵する四人。抱き合い泣く琉那と璃那。
奨太「あと一センチ深かったら危なかったそうです――皆さん、お姉
を助けてくれてありがとうございました」
星恵「そんな、何もしてないよ」
奨太「しばらく入院しますお姉。だから、会いにきてやってくれます
か」
星恵「え」
奨太「新しいバンドに入ってから、お姉、なんか元気なくなっちゃっ
て。事故にあった後みたい――まあ、そこまでじゃないけど。前は、
みんなのこととか、ライブのこととかスゲー話して うるさいくら
いだったんだけど。でも今のバンドのことは全然話さなくて。ずっ
とイラついてる感じで。でもいきなりテンション高くなって笑った
りして。あと、急にマジな顔して『友達 大事にしなよ』とか俺に
言ってきたり……だからお姉、そんな感じなんで、入院してる間、
会いにきてやってほしいんです」
俯き、嗚咽する琉那。蹲り、顔を覆い泣く璃那。星恵、
涙、鼻水を拭おうともせずまっすぐ奨太を見て。
星恵「分かった。毎日来る。みんな毎日淑佳に会いに来るからさ」
奨太「よかった――じゃあ、これで。お姉のところに戻ります」
奨太、去る。三人の泣き声。テレビ、ニュース番組に替わっ
ている。事件後の混乱の場面が当事者たちの顔にモザイクか
けて放送されている。カメラ切り替わり、スタジオでやりと
りしている美香と雅代。
雅代「<間近で見ていた、というか、当事者でもあったわけですよ
ね、黒沢アナは>」
美香「<はい。もう本当に驚いてしまって。自分の目の前であんな
ことが起こるなんて>」
雅代「<自殺した加害者の男ですが、録画の映像から推察するに被
害者の女生徒と面識があったように思えるのですが、その点につ
いてどのように感じましたか?>」
美香「<はい、わたしにもそう思えました>」
雅代「<なるほど。そして犯行の動機なのですが、加害者の直前の
発言から察するに、交際のもつれから犯行に及んだともとれるの
ですが、この点については?>」
美香「<はい。まだ現時点でははっきりと言えませんが、現場にい
た者の感想として、その可能性は高いと思います>」
雅代「<分かりました。で、黒沢アナ>」
美香「<はい>」
雅代「<加害者と被害者、年齢は大きく離れています。いわゆる『通
常』の男女交際のもつれと考えるのは不自然ですよね?>」
美香「<はい。間近で加害者の発言を聞いていた者として、そのとお
りだと言わざるをえません>」
雅代「<(カメラを見て)捜査の推移を見守りながら、私どもはこの
ショッキングな事件の裏に潜む闇を、当事者として、また一報道機
関として、丁寧な取材で追及していくつもりです>」
再度事件後の混乱場面が映し出される。テレビ画面を見つめ
る星恵、琉那、璃那。凝視し続ける。
○同・病室(十日後)
個室。ベッドに横たわっている淑佳。見舞いに来ている源治が
座っている。
淑佳「お師匠」
源治「ん?」
淑佳「軽蔑する?」
源治「お嬢、答え分かってるのに質問するのはやめな。かっこ悪いぞ」
淑佳「へへ――お師匠」
源治「ん?」
淑佳「年近かったら絶対カレシにしてる」
源治「年近くないとダメか」
淑佳「さすがにそこまでストライクゾーン広くないよ」
源治「ははっ、そうか」
淑佳「新しいバンドね、クビになっちゃった。もう次の子決まったん
だって」
源治「うん」
淑佳「芸能人になりそこねちゃった。でも契約の前でよかったよ。違
約金払うとかになってたら たいへんだもん」
源治「そうだな」
淑佳「みんなにも迷惑かけちゃった。警察から事情聴取、何回か受け
たみたいだし」
源治「みんな楽しそうだったぞ」
淑佳「うん。琉那は担当の刑事さんがブルーハーツの大ファンでね。
その話しで盛り上がったって言ってた。璃那はね『カツ丼出ないん
ですか』って訊いて笑われたって。星恵なんて菅原文太のマネし
て『じゃけえのぉ』とかって答えてたら、ふざけるなってすごい怒
られたってさ。みんな笑わせるから、傷口開いちゃうよ」
源治「はははっ――三人とも待ってるぞ」
淑佳「うん」
源治「憲のへなちょこギターにうんざりしてる」
淑佳「――戻っていいのかな、わたし」
源治「だから答え分かってるのに質問するのはかっこ悪いって言って
んだろ。何回も言わせないの」
淑佳「ふふ――ねぇ、お師匠」
源治「ん?」
淑佳「憎んじゃだめ?」
見つめあう二人。源治、淑佳の頭に掌をやる。
源治「辛いことを言った。ごめんよ。お嬢」
淑佳の頭を撫でる源治。
天井をじっと見ている淑佳。
○同・淑佳の病室前廊下
淑佳の病室の方へ廊下を歩く星恵。病室前に立っている若い女
に気づき立ち止まる星恵。マスクを外す女。美香である。スマ
ホを操作し始める美香。美香に近づいていく星恵。
星恵「黒沢さん」
美香「あなたは――」
星恵「淑佳の見舞いに来られたんですね。その前に少し話しませんか」
○同・エレベーター内
降下するエレベーター。無言の星恵。その後ろに立っている不
安げな顔の美香。
○同・関係者待機室
入る二人。
星恵「どうぞ」
促され長座椅子に座る美香。隣に座る星恵。他に待機関係者は
いない。星恵、美香を見ない。
星恵「ここです」
美香「え」
星恵「琉那と璃那と憲ちゃんといっしょに、ここで淑佳の手術が終わ
るのを待ってました。あな たがテレビに出てるとき」
美香「……」
星恵「警察の人に訊いたんです。テレビ局や新聞社の人が来たらどう
したらいいかって。そしたら対応する必要はないって。淑佳にやま
しいところはないからって」
美香「……」
星恵「どうやってナースステーション、クリアしたんですか。簡単に
教えてくれないはずなんですけどね部屋番号。ご自分のことなんて
言われたんです?」
美香「……」
星恵「答えてくださいよ」
美香「……中学時代の担任」
星恵「くくっ。そうきたか。看護師さんにもちゃんと言っとかないと
なあ。最近の女子アナは仕事ができるから気をつけるようにって」
美香「――退院してから、ゆっくり話を聞くつもりだったの。でも、
でもね」
星恵「上から言われたらそうばっかりも言ってられませんもんね。
大人もたいへんだ。分かりますよぉ」
美香「今日は、本当にお見舞いだけなの。淑佳ちゃんに会いたかった
の。会って……」
星恵「ねぇ黒沢さん。さっき病室の前でスマホ弄ってましたよね。あ
れってもしかして録音機能、起動させてたとか?」
美香「……」
星恵「はい、当たりっと――帰ってくださいね。で、もう淑佳の前に
姿を現さないでください。二度とです」
美香「あ、あの……」
星恵、初めて美香を見る。見開かれた目。上の歯で下唇を強く
噛んでいる。唇、切れる。血が顎に伝っていく。息を飲む美香。
床に滴り落ちる血。
星恵、立ち上がり、美香の前に腰を落とす。指を顎にやる。伝
う血を中指に付けると、ゆっくり美香の右頬に当てる。スーっ
とそのまま指を引く。左の頬も同じように。美香の両頬にでき
る血の筋。美香、動けない。
星恵「やる気まん子ちゃんの上司にもちゃんと伝えてくださいね。そ
れじゃ」
ハンカチで口元を拭きながら待機室を出て行く星恵。
小刻みに震え始める美香。歯の根が合わない。花束を抱えたま
ま失禁する美香。
(F・O)
○〈道の湯〉浴場
憲といっしょに掃除をしている琉那。
○スーパーマーケット・店内
レジのバイトをしている璃那。
○<NAMA―GIKI〉店内
厨房で侑子から魚のさばき方を教わっている星恵。
○予備校・教室
授業を受けている淑佳。
○道路(数か月後)
疾走する四人乗りのオープンカー。
○疾走するオープンカー
運転しているのは琉那。助手席の星恵。後部席の淑佳と璃那。
星恵「よくあったね、こんなレンタカー」
琉那「へっへー。気持ちいいでしょ。一回乗ってみたかったんだぁ。
お金貯めて絶対買うんだから」
璃那「周りの視線がすっごいわ」
淑佳「でも琉那運転上手いよね。免許取り立てなんて思えない」
琉那「才能ってやつですかぁ。んじゃ飛ばすよぉっ!」
アクセル踏む琉那。一気に加速するオープンカー。
『赤とんぼの唄』を歌い始める星恵。
淑佳、琉那、璃那も歌いだす。
オープンカー、疾走していく。
○幼稚園の運動場・桜の樹の下
満開の桜並木。その一本の樹の下の地面に青ビニールシートが
敷かれ、ドラムセット、アンプ、スタンドマイクなどがセッティ
ングしてある。向かい合って座り、オセロをしている源治と憲。
考え込んでいる源治。ほぼ真っ黒の盤上。
憲「源治さんマジ弱いっすよね」
源治「いいギタリストの条件その三八、オセロが弱いこと」
憲「いいかげんなことばっかり――あ、汚ねぇ!」
盤上をグシャグシャにする源治。
源治「わははは」
憲「んっとにぃ。ねぇ源治さん」
源治「ん?」
憲「星恵ちゃん、プロにはならないんすか。ライブ観に来たプロデュー
サーってのから声かかってるんっしょ」
源治「憲。ボーカリストにとって最高の幸せって何か分かるか」
憲「はい? いやそれはやっぱ人それぞれなんじゃないっすか」
源治「だな。星恵ちゃんは星恵ちゃんなりの歌い手としての幸せ見つけ
たんだ。それ捨てて次のステージ行くには強烈なエゴがいる。でもあ
の子は優しすぎる。たぶん自分でもそれに気づいてるよ」
憲「……でもなんか、もったいないすね」
源治「街角のロックンローラー、かっこいいじゃないの。力は山を抜き
気は世を蓋う。されどその身は常に野に在り。そういうのがいたって
いいんだよ」
憲「はぁ? なんすか」
源治「説明しても分からないから言わない。で、憲よ」
憲「はい」
源治「男ばっかり四人兄弟の末っ子だって言ってたな、おまえ」
憲「はい。だから、まあ、なんつーか、こっちがあっち行ってもヤバく
ない、的な」
源治「頼むからちゃんとした日本語使ってくれ。で、一年先にするのか、
向こうの籍に入るの?」
憲「はい」
源治「なんで一年待つの? 今すぐでも琉那ちゃん『うん』って言うぞ」
憲「やっぱ一年通しての仕事覚えてからじゃないと」
源治「ほぉ」
憲「甘くないっす。風呂屋の仕事も」
源治「この世に甘い仕事なんてありゃしないんだよ。けど、勤め人よりは
むいてるかもな――あ、来たぞ」
四人の乗った車が運動場に入って来る。
憲「うわ、マジでオープンカー借りてるよ」
源治「もうバンドの名前『四バカカルテット』にでもしちゃえよな」
× × ×
スタンバイしている四人。ビニールシートの上で座ったり立ったり
している七十人ほどの客たち。幼稚園児もいる。
桜の花びらが舞う中、挨拶をしている星恵(音声OFF)。頭を下
げる四人。(音声ON)拍手が起きる。
星恵「え~、てなわけでですね。堅苦しい挨拶はこのくらいにしとかない
と上品なお口がひん曲がっちゃうんで。とっとと演りたいと思います
が。その前にちゃちゃっとメンバー紹介済ませちゃいますね。
ほっときゃマジで二十四時間太鼓叩いてます。かわいそうに、最近はも
のに触れると太鼓の音が鳴ってしまうという妖怪太鼓娘になってしまい
ました。スティック持って生まれてきた妹の方、ドラム、道原璃那!」
璃那、一叩きの後頭を下げる。拍手。
星恵「次! 当バンド唯一のおしとやか担当。でもハンドル持ったら性格
変わるスピード狂! 憲ちゃ~ん、プロポーズはいつかなぁ。愛と誠の
重低音であなたの心臓わし掴みにしちゃいますわよ。ベース、お姉ちゃ
ん、道原琉那!」
琉那、一フレーズ。頭を下げる。拍手。
星恵「さぁ、問題児だ。いろいろあったねぇ。ほんといろいろあったんで
すよ。噂の女ですよ。でも、でもさ。今日この子、この場所にいる。わ
たしの隣で今、ギター持って立ってる。これ が全て――ギター、桐生
淑佳!」
淑佳《ギャイ~~ン!》頭を下げる。拍手。
淑佳「ボーカル」
全ての視線が淑佳に集まる。俯く淑佳。
淑佳「ボーカル――」
淑佳、言葉が出て来ない。
琉那「さぁ、今から史上最強の歌手が歌いますよ!」
璃那「よい子のみんな、このお姉さんのお歌はまねしていいけど、お
喋りはまねしちゃだめだからねっ」
笑いが起きる。俯いたままで淑佳。
淑佳「ボーカル、何度も助けてもらった恩人――」
星恵「だめ。そんなのじゃ歌えない」
淑佳「え」
顔を上げた淑佳を見つめる星恵。見つめあう二人。淑佳、頷き
深呼吸して。まっすぐ前を見て。
淑佳「ボーカル、わたしの相棒、浪岡星恵」
北島三郎『兄弟仁義』の冒頭を歌う星恵。
笑い声といっそう大きな拍手。
そのとき、激しく風が吹く。
桜の花びらが舞う。
淑佳を包み込むように、舞う。
呆然となる淑佳。
桜の花びらに陶酔していく淑佳。
その目から涙が一筋零れる――。
星恵「淑佳!」
ハッとなり、星恵を見る淑佳。星恵、微笑んでいる。
琉那「淑佳」
琉那を見る淑佳。琉那、微笑んでいる。
璃那「淑佳」
璃那を見る淑佳。璃那、微笑んでいる。
星恵「何ボーっとしてんのよ! 演るよ!」
淑佳「るっさい! 分かってるわよ!」
ギターを構える淑佳。
星恵「んじゃ、いくよ! 世界に女の子がいる限り歌われてく、永久
不滅の名曲から!」
璃那「ワン、ツー、ワンツー、よし、かっ!」
璃那のカウントに続き、淑佳、弾き
だす。相川七瀬『夢見る少女じゃいられない』の前奏。
琉那のベース、
璃那のドラムも入ってくる。スタンドマイクを握る星恵。
歌いだす。
風が優しく吹いている。
桜の花びらが舞い散る中、演奏を続ける四人。
音楽の悦びに溢れた四人の演奏場面にキャスト・スタッフの名前
が次々とせりあがってきて――
(了)
引用 (歌詞検索サービス歌ネット等にて、作詞作曲者を確認いたしました)
本稿にタイトルが登場する歌曲(登場順)
・BREAK OUT!(相川七瀬 詞・曲 織田哲郎)
・夢見る少女じゃいられない(相川七瀬 詞・曲 織田哲郎)
・テキーラ (ザ・ルースターズ《ザ・チャンプスのカバー曲》
(曲 ダニエル・フローレス)
・激しい雨が(ザ・モッズ 詞・曲 森山達也)
・LIKE A HARD RAIN
(相川七瀬 詞・愛川七瀬、織田哲郎 曲・織田哲郎)
・赤とんぼの唄(あのねのね 詞・清水国明 曲・原田伸郎)
・ヤンキーの兄ちゃんの歌(嘉門タツオ 詞・曲 嘉門タツオ)
・青すぎる空(イースタンユース 詞・曲 吉野寿)
・踵鳴る(イースタンユース 詞・曲 吉野寿)
・雨上がりの夜空に(RCサクセション 詞・忌野清志郎 曲・仲井戸麗一)
・Sweet Emotion(相川七瀬 詞・愛川七瀬、織田哲郎 曲・織田哲郎)
・恋人がサンタクロース(松任谷由美 詞・曲 松任谷由美)
・TRAINーTRAIN(ザ・ブルーハーツ 詞・曲 真島昌利)
・YOUNG BLOODS(佐野元春 詞・曲 佐野元春)
・兄弟仁義(北島三郎 詞・星野哲郎 曲・北原じゅん)
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