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匂ひ

母方の祖母の剛胆ぶりを散々書いたと記憶していますが

祖母逝去ののち

遺産分けにと親族集合した際のこと

今も鮮烈に

匂いとして色として、

毒々しさ、ある種の苦さとして

孫娘たるわたしには

その光景が脳裏に焼き付いております。

大きな和箪笥から出して広げた着物の群れ

帯、帯止め、艶かしい襦袢の手触り

それは生き物のように、何故か、祖母のオンナを

如実に語っているような気がして

眩暈がしました。

古い着物のかびた様な匂い

むせかえるような色・色・色

中には記憶している絽や紗の着物もありました。

それらは、わたしの知る晩年の祖母の気韻ある姿として

在りましたが

およそ見知らぬオンナの如き

性を発する色の洪水が

ショウノウの匂い 

古びた過去の匂いたちが

若き祖母の苦悶や情念を

わたしに呟いているような

心地がしたのです。

美しく強い女たる祖母しか知らぬわたしは

かの艶やかな和服を
しなやかに着こなし

時に袂で涙を拭いたであろう
その時を夢想し

胸がちりりと

音立てて

苦みは陶酔に変わるのでした。


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