環境清拭ワイプ用着色添加剤が病室の清潔度と回転率に及ぼす影響
はじめに
医療現場の環境汚染による医療関連感染の発生が多数報告されています。その対策として環境清拭の重要性が指摘されていますが、環境の清拭は適切に実施されないと効果的ではありません。
今回ご紹介する論文は、Highlightという環境ワイプ用の新しい着色添加技術の有効性を検討した米国からの報告です。
方法
Highlightは、拭き取った表面を一時的に着色し、清拭が終わると色が消えることで、洗浄された表面を可視化できるようにする製品です。このHighlightを利用した環境ワイプによる病室の清浄度とその影響を定量化するため、複製生物検出法(RODAC)および必要時間について、通常の環境ワイプによる清拭の場合と比較し、その結果を検討しました。

結果
通常の環境ワイプだけを使用した対照群と比較して、Highlightを利用した環境ワイプによる清拭では、病室の清潔度が69.2%向上し、病室の回転時間が5.9%速くなりました。


考察
この研究は病室の汚染度の指標となる微生物培養と、環境清拭にかかった時間を新しい環境ワイプ用の着色添加剤を使用して検討した初めての報告であり、コントロールと比較して、その両者の指標に利点が認められました。環境ワイプ用の着色添加剤は、リアルタイムの視覚的フィードバックが可能となり、作業効率を維持しながら環境清拭の徹底度を向上させる可能性を示しています。
感想
環境を清潔に維持することは、医療関連感染を防ぐ上で極めて重要な要因といえます。病院の環境は、人間活動の最前線であるため、微生物による汚染を完全に回避することは困難です。環境清拭を実施しても、短時間で再汚染が生じ、さらに清拭方法によっては十分な清浄度が確保されない可能性が懸念されます。また、医療現場における人的・時間的制約により、環境清拭が不十分になることは珍しくありません。
今回紹介した着色剤による清拭適切性の向上は、病院環境の衛生管理における革新的なアプローチを示唆しています。可視化技術による清拭評価は、清掃プロセスの効率化のみならず、作業時間の短縮にも寄与する可能性が示されており、日常的に過重な業務に従事する医療支援スタッフへの実践的な支援策として期待できます。
感染制御の基本原則として、環境由来の感染は原則的に医療従事者の手指衛生により大部分予防可能です。しかし、現実的な課題として、医療従事者の手指衛生遵守率は依然として低水準にあるため、環境清拭を代替的な感染防止戦略として検討する必要性が生じています。医療従事者は、医療関連感染防止における手指衛生の根本的重要性を再認識し、その実践に対する意識を更に高める必要があるでしょう。
The impact of a novel color additive for disinfectant wipes on room cleanliness and turnover time.
(Am J Infect Control. 2024 Dec;52(12):1366-1370. doi: 10.1016/j.ajic.2024.07.009.)