6~59か月齢小児における経鼻弱毒生インフルエンザワクチンウイルスの排出
はじめに
日本ではインフルエンザの予防を目的としたワクチンは不活化ワクチンが用いられてきましたが、海外では2000年代の初頭より経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(LAIV)が使用されています。日本でも2024年度からLAIVの使用が2–18歳に限って認可されました。
このLAIVは生ワクチンのため、接種された後、最長3-4週間ワクチン株由来のウイルス(ワクチンウイルス)を排出することから、このワクチンウイルスによって、院内感染が起きる可能性が製薬会社が啓発しています。これを受けて、日本小児科学会でもLAIV接種後のウイルス排出について言及しており、「重篤な疾患との関連は報告されていないものの、LAIV被接種者から未接種者へのワクチン由来ウイルスの水平伝播(感染)が報告されています。」と注意しています。また、米国では、重度の免疫抑制者の濃厚接触者(例えば家庭内接触者)はLAIVの接種をするべきではないとしており、免疫が脆弱な人やその関係者への接種は控えた方が安全です。
しかし、これを過剰に解釈して、入院する小児へのLAIV接種歴の確認や、接種後2ヶ月以上経過しないと入院できないとし、入院予定の小児はLAIVの接種を控えるよう呼びかけている病院が見受けられます。これは明らかに行き過ぎた行為です。そもそも、ワクチンウイルスがどれくらいの感染力があるかをしっかりと議論する必要があるはずです。
今回ご紹介する論文は、5歳以下の小児を対象にしたLAIV接種後のワクチンウイルス排出の発生率、期間、およびその他のパラメータの報告です。
方法
2006年にLAIVを1回鼻腔内投与した後、6~59か月齢の小児200名を対象に、非盲検、単群、多施設、第2相試験でウイルス排出と安全性を評価しました。参加者は6–23か月齢(n=100)と24–59か月齢(n=100)の2つの年齢グループが登録されました。ワクチン接種後28日間、ウイルス排出、反応原性、および有害事象を評価しました。ワクチン接種後180日間、重篤な有害事象と重大な新たな病状をモニタリングしました。
結果
培養によりワクチン接種者の79%(95% CI、73–84)からワクチンウイルス排出が検出され、6–23か月児(89%)の方が24–59か月児(69%)より頻繁に排出していました。合計で157人の被験者からワクチンウイルスが排出され、RT-PCRにより128人がA/H1N1、72人がA/H3N2、74人がBでした。排出の発生率は2日目に最も高く(6–23か月児で59%、24–59か月児で41%)、ほとんどの排出はワクチン接種後1–11日目に発生しました。11日以降の排出はまれで、ほぼ例外なく6~23か月児に発生しました。排出されたワクチンウイルスの平均力価は2日目にピークに達し、両グループとも概ね10 3組織培養感染量/mL未満でした。反応原性イベントは2日目にピークに達し、最も頻繁に報告されたのは鼻水/鼻づまりでした(全被験者の63%)。
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考察
LAIVでワクチン接種を受けた6–59か月の小児のほとんどが、ワクチン接種後11日以内にワクチンウイルスを排出しました。LAIVの使用が承認されている24–59か月の小児では、排出はそれほど一般的ではありませんでした。排出されたワクチンの力価は低かったため、保育施設の幼児を対象に実施された以前の対照試験(Pediatr Infect Dis J. 2006 Jul;25(7):590-5. PMID: 16804427)でLAIVの二次感染がほとんど見られなかった理由を示唆しています。
感想
この論文によれば、ワクチンウイルスの排出は、日本では接種対象に含まれていない2歳未満児の排出量が多く、排出期間が長い傾向にあるようです。つまり、2歳未満児は他者に感染させるリスクが高いことになります。しかし、高いといっても、感染可能な排出量を下回っているケースが多く、米国や日本小児科学会がいうように、免疫抑制状態にある方などのハイリスク者以外にとって、神経質に対応する必要性は低いと考えられます。
また、論文中に触れられていた保育施設の9–36か月齢児を対象とした対照試験でも、二次感染率は0.58%(1/98)で、ワクチンウイルスが感染した児は臨床的に重篤な状態ではなかったと報告されています。これも、過剰な反応や対応を控えるべき根拠の一つとなります。
LAIVの特徴や潜在的な問題点を十分に理解したうえで、LAIV接種者への適切な対応を検討することが、良質な医療の提供につながると考えます。
Shedding of Ann Arbor strain live attenuated influenza vaccine virus in children 6-59 months of age.
(Vaccine. 2011 Jun 10;29(26):4322-7. doi: 10.1016/j.vaccine.2011.04.022. Epub 2011 Apr 20.)