手袋着用が必要な同一患者ケア中の手袋の上からの消毒
はじめに
手袋を着用したまま手指消毒(手袋消毒)することはタブーとされています。しかし、SDGsの観点から、手袋の安易な使い捨てに対して、リサイクルが可能かを模索する企業も散見されつつあります。また、救急医療の現場では同一患者のケア中に、ある局所から別な局所へケアの中心を移動する際などに、手袋消毒するとケアの時短に繋がります。
今回ご紹介する論文は2017年に発表された、同一患者に対してのケア中における手袋消毒が、感染リスクとなるかを評価したドイツからのシステマチックレビューによる報告です。
方法
2017年1月14日時点における手袋の使用および手指衛生の遵守について、複数の患者および/または単一の患者、ならびに複数の患者および単一の患者のケア活動に関するオリジナルデータを提供している研究(15件)、手袋をした手を洗浄または消毒した後の手袋の完全性に関するオリジナルデータを含む研究(9件)、手袋した手の消毒効果に関するオリジナルデータを含む研究(6件)、患者ケア中に手袋着用の上から手の消毒を許可または促進した場合の院内感染についてのオリジナルデータを含む研究(1件)を選択してレビューしました。
結果
3つの独立した研究で、手袋消毒は少なくとも素手と同じくらい効果的であること(図1)、および穿孔率は最大10回の消毒後でも高くならないことが示されました(図2)。新生児集中治療室(NICU)での1つの研究では、同じ患者へのケア中に手袋消毒することの促進が、遅発性感染症と壊死性腸炎の発生率の有意な減少をもたらしたことが示されました。
考察
結論として、患者ケアの全行為に手袋着用が必要な場合、手袋着用の上からの消毒により感染リスクを大幅に減らせる可能性があります。手袋が適切な目的で使用され、同じ患者に対して複数の行為が行われる場合、手指消毒の遵守は非常に低く、このような環境では、手指衛生モーメント2、3、5において手袋着用の上から手の消毒を10回まで行うことが安全で効果的であるという十分なエビデンスになると考えられます。
感想
手袋消毒は、穿孔(ピンホール)ができやすくなる、消毒効果が素手よりも低くなる、などの理由から、実施はタブーとされています。このレビューでは、ピンホールは元々できていた可能性と、消毒効果に特段の問題がないことが示されています。
ピンホールに関しては、手術などの場合、術者の皮膚常在菌が手術野に曝露されることから問題となります。しかし、そのようなクリティカルな清潔操作以外では、医療従事者の皮膚常在菌が患者に伝播することは、大きな問題とはなりません。また、医療従事者がピンホールから手指に病原体が曝露することが懸念されますが、この場合は手袋脱衣後に手指衛生をすればまったく問題ありません(もちろん医療従事者の手指が健常である場合に限ります)。このレビューでも指摘しているように、ピンホールは着用時にすでに発生している可能性もあるため、ピンホールを手袋消毒禁忌とする根拠としては、説得力がありません。
問題は手袋消毒の効果です。このレビューでは高い消毒効果が示唆されました。よって、手袋消毒を大々的に推奨できるかというとそうではありません。まず、同じ患者内での行為と、他の患者をまたいでの行為ではまったく意味合いが異なります。同じ患者内でも、血液や体液で汚染された手袋は交換が必要で、あくまでも目視で汚れていない場合に限って手袋消毒が許容されます。つまり、患者に皮膚などの常在している微生物の患者内の伝播を、手袋消毒で抑制できるとしているのです。
この程度の非常に感染リスクが低い状態でなら手袋消毒は許容されるべきでしょう。しかし、手袋消毒の適切なタイミングを現場の医療従事者に周知させるのは、非常に困難なミッションであるため、今後、手袋消毒が一般化することは前途多難といえるでしょう。
Disinfection of gloved hands for multiple activities with indicated glove use on the same patient
(J Hosp Infect. 2017 Sep;97(1):3-10. doi: 10.1016/j.jhin.2017.06.021)