日本の小中学生におけるインフル予防接種の有効性

はじめに
インフルエンザワクチンの接種は、インフルエンザの発症予防や発症後の重症化の軽減、集団免疫による感染率の低下に一定の効果があるとされています。学童はインフルエンザの感染率が高く、ワクチンによる予防が期待されます。今回、東北大学の國吉保孝氏らが、地域の小中学生における不活化インフルエンザワクチン接種の有効性について2シーズンに渡って評価した結果が報告されたので、ご紹介いたします。
 
方法
研究グループは、公立小中学校の生徒における2012/13年および2014/15年シーズンのデータを横断的に調査しています。調査地域における対象学年の全員にアンケートを配布し、得られた7,945人の回答を分析しました。予防接種状況とインフルエンザ発症は、両親または保護者による自己申告式アンケートにより判断しています。一般化線形混合モデル(目的に合わせてデータを解析できる方法)を用いて、学校および個人の共変量におけるクラスタリング(データを外的基準なしに自動的に分類する手法)を調整し、予防接種状況とインフルエンザ発症との関連についてオッズ比および95%信頼区間(CI)を計算しました。
 
結果
2015年のインフルエンザ発生率は2013年の調査よりも高かったが(25%対17%)、ワクチン接種率は2つの季節で同程度でした。
未接種群に対する、1回もしくは2回の予防接種を受けた群におけるオッズ比は、2013年では0.77(95%CI: 0.65-0.92)、2015年では0.88(95%CI: 0.75-1.02)で、インフルエンザに対する予防効果が高い傾向を示しました。
必要な回数の接種を完了した群におけるオッズ比は、2013年では0.75(95%CI: 0.62-0.89)、2015年では0.86(95%CI: 0.74-1.00)と、どちらの調査でもより予防的でした。
 
考察
これらの結果から、地域社会に基づいた現実的な環境において、不活化インフルエンザワクチン接種が日本の小中学生のインフルエンザを予防したことが示されました。なお、2シーズン間の臨床効果の差については、おそらく流行株とワクチン株の抗原性のミスマッチが原因の可能性があります。
 
感想
インフルエンザ対策としてのワクチン接種は、感染予防には比較的効果がないとする報告が多く見受けられます。特に成人でのワクチンによる予防効果はほとんど認められておらず、感染予防効果を示すのは小児のみに限局的との認識が一般的です。今回の論文は、現実的な環境における小中学生のワクチン接種によるインフルエンザの感染予防効果を謳っています。しかしながら、結果をみるとあまり効果的でないことが示唆されています。
特に未接種群に対する、1回もしくは2回の予防接種を受けた群における2015年のオッズ比は、0.88(95%CI: 0.75-1.02)となっていて、95%CIの上限が1を超えており、統計学的には予防効果があったのか、なかったの判断がつけられません。また、2013年でも95%CIの上限が0.92となっており、統計学的には有効性があるといえますが、現実的にはあまり効果が高いとはいえる結果になっていません。
必要な回数の接種を完了した群におけるオッズ比でも、2015年では0.86(95%CI: 0.74-1.00)であり、統計学的には有効かの判断が難しいといわざるを得ません。
インフルエンザワクチンには様々な課題があります。ワクチン株と流行株の不一致、ワクチン株の培養過程での抗原性消失、ワクチン皮下注射による抗体のミスマッチ(インフルエンザは鼻腔や咽頭などの粘膜から感染するため、粘膜に多く存在するIgAにワクチンを感作させなければなりませんが、皮下注射ではIgAではなくIgGが産生されてしまいます)などが問題となっています(近年、鼻粘膜感作タイプのワクチンが上市されました)。このような問題を解決しない限りは、インフルエンザの感染予防を期待することはできないでしょう。
ただし、重症化の予防や、集団免疫としての価値はあるため、ワクチン接種自体は否定できるものではありません。

Effectiveness of seasonal inactivated influenza vaccination in Japanese schoolchildren: an epidemiologic study at the community level.
(Hum Vaccin Immunother. 2020;16(2):295-300. doi: 10.1080/21645515.2019.1655833.)


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