完全拡大防止に寄与するフェイスマスクのフィット性の改善

はじめに
SARS-CoV-2は主に感染者の呼吸器から発せられるエアロゾルによって感染します(2024年8月時点で、今後エアロゾルという単語ではなく、感染性呼吸器粒子; IRPという単語が主流になりそうです)。エアロゾルの飛散や吸入防止にはフェイスマスクが有効ですが、いわゆるサージカルマスク(医療用マスク)ではエアロゾル防止効果があまり高くありません。米国CDCは2021年2月に既存製品を工夫することによって、フェイスマスクのエアロゾル予防効果の改善を実験的に示しました。今回紹介する論文は、やや時流に乗っていません、今後のパンデミックの際にも役立つ情報です。実験は米国CDCが実施しました。
 
方法
市販されている3層不織布の医療用マスク2製品と各々2、3、4層の布製マスク、N95レスピレータ(N95)を用いて、様々なシチュエーションを設定し(図1)、呼気と吸気を可能にしたシミュレーターマネキン2台に各マスクを装着させて、エアロゾル防止効果を検討しています。
医療用マスクの通常着用

図1 実験に使用したマスクと各シチュエーション

結果
医療用マスクを通常通り着用すると、咳をするときに発生するエアロゾルの56%以上、呼気時のエアロゾルは42%以上飛散が防止されました。ゴム紐を交差させたり、マスクの下にずれ防止器具(ブラケット)を置いたりするなどの装着方法の変更は飛散防止を改善しませんでしたが、ゴム紐用ストラップ、ゴム紐用タグ、ゴム紐をマスク近くで結んで着用した場合では飛散防止が向上しました。医療用マスクの上に布製マスク(2重マスク)着用と医療用マスクの上から密着器具(ブレイス)併用は最も効果的でした。2重マスクとブレイスでは各々咳エアロゾルを85%以上、95%以上、呼気エアロゾルは91%以上、99%以上の飛散が防止されました。

図2 エアロゾルを発生させるシミュレーターマネキンのみに各マスクを着用した場合のシチュエーション別エアロゾル防止率


図3 エアロゾルを発生させるシミュレーターマネキンとエアロゾルを吸入するシュミレータマネキンの両方に各マスクを着用した場合のシチュエーション別エアロゾル防止率


考察
フェイスマスクはSARS-CoV-2の感染拡大を減少させる上で重要な役割を果たします。エアロゾルの飛散と吸入の防止能力は、マスクの材質とマスクが着用者にどれだけよくフィットするかに依存することを本研究結果は示しています。医療用マスクの上に布製マスクを重ねる2重マスクか、ブレイスを用いて医療用マスクを密着させると、最高のパフォーマンスが得られました。本研究結果は医療従事者、患者および一般の人々など、広範囲への適応が可能で、SARS-CoV-2対応のみに限定されません。

感想
米国CDCは2020年から2重マスクの着用を推奨してきました。今回の論文では2重マスクに加えて、ブレイスの使用も勧奨する結果となっています。このふたつの着用方法は、N95マスク着用時に匹敵する飛散と吸入防止効果が得られるため、社会生活を送る人にとってかなり有用性が高いと推察されます。日本ではブレイスが市販されていませんので、次なるパンデミックが来た場合は、2重マスクの着用が現実的です。スーパーコンピューターの富岳によるシミュレーションでは、医療用マスクの上にウレタンマスクの着用でもエアロゾル飛散防止効果が高いことが判明しています。今後はシミュレーションではなく、どのパターンの2重マスクがベストな組み合わせなのかを実験すると有意義でしょう。

Face mask fit modifications that improve source control performance.
(Am J Infect Control. 2022 Feb;50(2):133-140. doi: 10.1016/j.ajic.2021.10.041.)


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