波長222nmの遠紫外線照射装置(Care222)を用いた小児集中治療室のシンクにおける細菌増殖抑制効果

はじめに
病院のシンクを発生源とするアウトブレイクの報告が、さまざまな学術誌で取り上げられています。水回りには好水性微生物が潜伏しており、清潔操作におけるミスがアウトブレイクにつながる可能性があります。人的ミスを完全に防ぐことは難しいため、シンク自体を消毒・殺菌することでシンク由来のアウトブレイクを防ぐ取り組みが注目されています。
今回ご紹介する論文は、小児集中治療室(PICU)のシンクに222nmの遠紫外線を定期的に照射することで、シンク内の細菌増殖に与える影響を検討した、日本からの研究報告です。
 
方法
PICU内の5つのシンク(シンク1~5)に、自動で222nm遠紫外線を照射する装置(Care 222; ウシオ電機株式会社、東京)を設置しました(図1A)。各シンクの用途は以下の通りです。
   シンク1:器具洗浄用
   シンク2:送水用
   シンク3・5:調乳用
   シンク4:胃瘻チューブ洗浄用
照射モードは15秒間ON、60秒間OFFと設定されました。図1には、照射装置の設置状況(A)、照射前後の培養後に形成されたコロニー数(B)、および緑膿菌の遺伝的同一性を示す結果(C)が示されています。

図1小児集中治療室内で人感センサーにより停止された5台の自動222nm紫外線C装置Care 222 i-BT(ウシオ電機株式会社、東京、日本)(A)。 照射前後の各シンクでの培養後に形成されたコロニー数(閾値:100コロニー形成単位)(B)。 ポリメラーゼ連鎖反応に基づくオープンリーディングフレームタイピング(POT)により検出された緑膿菌は遺伝的に同一であることが示された(C)。

結果
   シンク1:照射前後で細菌数は<100 CFUを維持
   シンク2:照射後にコロニー形成が減少傾向を示す
   シンク4:照射後にコロニー形成が著しく減少
   シンク3および5:コロニー形成の減少は認められず
シンク1、2、4の非照射群では、緑膿菌を含む緑色コロニーが形成されましたが、照射群では認められませんでした。さらに、セトリミド寒天培地で蛍光黄緑色のコロニーを形成した緑膿菌の遺伝子型が全て一致しており、水平感染の可能性が示唆されました(図1C)。

考察
本研究では、5つのシンクのうち2つで222nmの遠紫外線が緑膿菌の増殖抑制に効果を示しました。一方、調乳に使用されるシンク3および5では細菌抑制効果が確認されず、栄養豊富な環境や有機物の存在が遠紫外線の効果を減弱させた可能性があります。また、有機物を栄養源とするバイオフィルムが細菌抑制を妨げた要因として考えられます。
今後の研究では、遠紫外線照射とバイオフィルム除去を組み合わせることで、細菌増殖の一貫した抑制が可能かどうかを明らかにする必要があります。
 
感想
病院シンクからの感染防止対策としては、排水管の熱消毒や跳ね返り防止シンクなどの新しい製品が市場に投入され始めています。これらの新製品は、シンクの衛生状態を向上させるために設計されており、病院内の感染リスクを低減することを目的としています。
今回ご紹介した製品は、既存のシンクを交換することなく導入が可能なため、購入の壁は比較的低いと予想されます。これは、既存の設備をそのまま利用しながらも新しい衛生対策を取り入れられるため、コスト効率が高いという利点があるためです。
しかし、本文の結果にもあるように、調乳シンクでは細菌抑制効果が低いことが確認されています。これにはいくつかの要因が考えられます。まず、高栄養な環境や有機物の存在により、紫外線照射の効果が減衰する可能性があること。さらに、有機物を栄養源とするバイオフィルムの形成が、細菌の抑制を妨げる要因となることも推測されます。これらの問題は、今後の研究において解決策を見出すべき重要な課題です。
シンクからの感染は、標準予防策だけでは完全に防ぐことが難しい側面があります。そのため、どのような対策が、利便性や費用対効果が高いかを継続的に研究していく必要があります。特に、222nmの遠紫外線照射は、人体への影響が低いとされており、今後の医療現場での活用が期待されるところです。この技術を利用することで、シンクからの感染リスクを大幅に低減できる可能性もあります。
今後も、医療現場における感染対策の一環として、さまざまな新技術や新製品の導入を積極的に進めることも重要となります。これにより、患者や医療従事者の安全を確保し、より清潔な環境を提供することができるでしょう。

Inhibition of bacterial growth on sinks of a paediatric intensive care unit using a 222-nm far ultraviolet irradiation device (Care222).
(J Hosp Infect. 2024 Jul:149:206-208. doi: 10.1016/j.jhin.2024.03.016.)

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