感染予防担当者を支援する医療関連感染サーベイランスにおける人工知能の活用

はじめに
医療関連感染(HAI)のサーベイランスは、感染対策の基盤として欠かせない取り組みです。この活動は感染リスク因子の特定や、患者安全の確保、医療の質向上に寄与します。しかし、サーベイランスの判定には高度な専門知識や十分なリソースが必要であり、その複雑さが課題となっています。
本稿では、米国の研究をもとに、生成型人工知能(AI)を活用したデバイスサーベイランス判定の正確性を検討した内容をご紹介します。
 
方法
研究では、OpenAIのChatGPT Plus(GPT-4)とMixtral社の8×7bベースのローカルモデルを使用して、6つのNational Healthcare Safety Network(NHSN)のトレーニングシナリオをもとに評価しました。これらのシナリオは、中心静脈ライン関連血流感染(CLABSI)およびカテーテル関連尿路感染(CAUTI)の判定能力を測るもので、内容の複雑性が分析されました。また、AIの回答を専門家の意見と照合することで、その精度を評価しました。
 
結果
本研究により、CLABSIやCAUTIのようなデバイス関連感染を正確に特定できるAIの可能性が示されました。特に、具体的で曖昧さのないシナリオがAIの判定精度向上に重要であることが確認されました。一方で、AIの活用には人間による確認が不可欠である点も明らかになりました。AIは、感染サーベイランスの効率化に寄与し、医療スタッフが患者中心のケアにより注力できる環境を作る可能性を秘めています。ただし、これを実現するためには、ユーザー教育やAIモデルの継続的な改善が重要です。
 
考察
AIによる感染サーベイランスの導入は、医療現場での作業効率化や医療関連感染の抑制に大きく貢献する可能性があります。ただし、信頼性の高い判定には明確で具体的なシナリオが不可欠であり、AIの結果を正確に解釈し現場に適用するための医療者の介入が重要です。また、AIの導入に伴い、継続的なトレーニングとAIモデルの改良が必要である点も留意すべきです。
 
感想
この論文は、一般的に使用される生成型AIを既存のデバイスサーベイランスシナリオに適用し、その判定精度を評価したものです。特化型AIでなくとも、具体的で曖昧さのないシナリオであれば十分な精度が得られることが示されました。もしAIが多様なサーベイランスシナリオを学習していれば、多少曖昧な内容でも正確な判定が可能になることは容易に想像できます。
現在、AI技術は急速に進化しており、新たなモデルが次々と登場しています。そのため、デバイスサーベイランスの判定がAIに任される時代がくるのはそう遠くないでしょう。一方で、「AIに仕事を奪われる」と感じる人もいるかもしれません。しかし、AIに複雑な判定を任せ、短時間で得られた結果を現場で活用し、医療関連感染の抑制につなげることこそが、感染対策を担う医療者の真価ではないでしょうか。

Assisting the infection preventionist: Use of artificial intelligence for health care-associated infection surveillance.
(Am J Infect Control. 2024 Jun;52(6):625-629. doi: 10.1016/j.ajic.2024.02.007.)


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