米国の病院における医療従事者へのインフルエンザワクチン接種義務化の傾向

はじめに
日本ではインフルエンザワクチンを義務化している病院がどのくらいあるのか不明です。米国も同様でしたが、その疑問に答えるべく、全米におけるワクチン接種義務の状況を調査した結果が、米国医師会雑誌(JAMA)に掲載されました。日本でもそうですが、米国でも医療従事者にはインフルエンザのワクチン接種が勧奨されています。病院には感染弱者が多数来訪するため、医療従事者からのインフルエンザ感染を防ぐ意味で、医療従事者へのワクチン接種は非常に重要です。
ワクチンは接種しないことには、その効力は発揮されません。しかし、病院によってはインフルエンザワクチン接種を組織的に実施していない場合もあり、米国でも問題となっています。この文献は米国におけるワクチン接種義務の状況を調査することによって、義務化していない施設への警鐘を鳴らしています。
 
方法
2013年から2017年まで、全米1,062施設の感染管理者からの回答をもとに解析しています。質問内容は、自施設に医療従事者に対してインフルエンザワクチン接種を義務付けるプログラムがあるかどうかを尋ねています。
 
結果
2013年に463、17年に599の病院から回答がありました。医療従事者に対してインフルエンザワクチン接種を義務付けていると回答した病院の割合は、2013年の37.1%から17年には61.4%に上昇しました。退役軍人病院以外の病院では、この割合は44.3%から69.4%に急増しています(図1)。しかし、インフルエンザワクチン接種を義務付けている366病院中94病院(25.6%)は、非接種者に対して罰則を課しておらず、13.6%は特別な理由がなくてもワクチン接種を拒否することを認めていました。

図1 病院別インフルエンザワクチン義務化の推移
VA:indicates Veterans Affairs(退役軍人病院)

考察
退役軍人病院以外の病院における義務化の大幅な増加にもかかわらず、退役軍人病院は医療従事者に対してインフルエンザワクチン接種を義務化していないことが判明しました。ワクチン接種率を高めるため、病院は道徳的、倫理的、法的な影響を考慮しながらワクチン接種の義務化を検討すべきです。
 
感想
まずは米国の退役軍人病院(在郷軍人病院とも呼ばれる)の特徴を説明しなければなりません。退役軍人病院は、米国内に滞在している軍関係者のための病院であり、医療費は国費で賄われ、患者には負担がないという特徴があります。全米の各都市に中核病院があり、小都市には関連する小病院やクリニックが存在しています。米国人の一般的な概念として、退役軍人病院の医療の質は一般的な病院に劣るとされており、この文献でも医療の質の観点から退役軍人病院とその他の病院に分けて解析されています。
退役軍人病院以外では約70%でインフルエンザワクチンの接種を職員に義務付けているという結果について、この数値は日本と比べてどうなのかは、日本のデータがないのではっきりしません。日本でもこのような調査を環境感染学会や厚生労働省などが実施すべきで(日本病院会はインフルエンザワクチン接種のQIを展開しています)、国民のすべてが同様な医療を受けることができる皆保険制度を謳うのであれば、医療施設におけるインフルエンザ対策の均一化を図る努力が求められるでしょう。
また、病院には患者や医療従事者以外の取引先の関係者が頻繁に出入り(MRさんなどは長時間、病院に滞在していることがよくあります)しているため、そのような関係者もインフルエンザ感染源のハイリスク群となります。さらに、インフルエンザに感染した状態で病院に入ることは感染対策上問題となるため、関係者へのワクチン接種を関連企業負担による義務化とするのも一考かもしれません。企業内でインフルエンザワクチン接種を前向きに取り組んでいることは、病院へのアピールにもなることでしょう。

Changes in influenza vaccination requirements for health care personnel in US hospitals.
JAMA Netw Open . 2018 Jun 1;1(2):e180143. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2018.0143.


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