個人防護具の取り外し時の自己汚染リスク
はじめに
個人防護具(personal protective equipment; PPE)は、標準予防策や接触予防策を実施する上で、必要不可欠な道具として多くの医療施設で使用されています。しかし、取り外し時に自己汚染するとの報告があり、特にエボラウイルス病など、致死率の高い感染症患者をケアする際には十分な注意が必要です。日本ではエボラウイルス病などの発生確率は低いですが、米国ではすでにエボラウイルス病の持ち込み例が散見されており、患者をケアする医療従事者にとってはPPEの取り外しを適正に習得しておく必要性が高いといわれています。
今回ご紹介する論文は、様々な保険機関におけるPPEの着脱方法を比較し、取り外し時に自己汚染するリスクについて評価しています。
方法
様々な保健機関が推奨しているエボラウイルス病を対象とした10種類の異なるPPE着脱方法(以下の①-⑩)を評価しました。
① 世界保健機関(WHO)推奨のガウンおよびN95レスピレータ
② 世界保健機関(WHO)推奨のカバーオールおよびN95レスピレータ
③ 疾病管理予防センター(CDC)推奨のカバーオールおよび電動ファン付呼吸用保護具(PAPR)
④ 疾病管理予防センター(CDC)推奨のカバーオールおよびN95レスピレータ
⑤ 欧州疾病予防管理センター(ECDC)推奨のカバーオールおよびN95レスピレータ
⑥ カナダ保健局推奨のガウンおよびN95レスピレータ
⑦ ノースカロライナ州推奨のカバーオールおよびN95レスピレータ
⑧ ニューサウスウェールズ州の臨床評価機構(CEC)推奨のガウンおよびPAPR
⑨ ニューサウスウェールズ州の臨床評価機構(CEC)推奨のガウンおよびN95レスピレータ
⑩ 国境なき医師団推奨のカバーオールおよびN95レスピレータ
被験者として10名がそれぞれ3種類の異なる方法を実施するようにランダムに振り分け、PPE装着後にPPE表面に人為的な汚染物質としての蛍光ローションを塗布および噴霧しました。その後、PEEを取り外し、紫外線を用いて皮膚表面の蛍光のパッチ数(汚染箇所数)を計測しました。
結果
被験者が実施した合計30回のPPE着脱では、「② WHOのカバーオール+N95」および「⑦ ノースカロライナ州のカバーオール+N95」によるPPE着脱法の取り外し後に大きな蛍光パッチが確認され、「④ CDCのカバーオール+N95」および「⑥ カナダ保健局のガウン+N95」では小さな蛍光パッチが認められました。それら以外の方法ではパッチが確認されませんでした(表1)。
PPE使用に伴う問題としては、報告頻度が高いもので、呼吸困難、窒息、熱ストレス、およびレンズの曇りがありました。大半の参加者は、PPE着脱の容易さおよび快適性について容易(30回中18回)または中程度(30回中11回)であると判定しました(表2)。電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)を用いるPPE着脱方法、および取り外し支援のあるPPE着脱方法は、概して問題が少なく、高い評価を得ました。
考察
本研究により、PPEの取り外しには自己汚染のリスクを伴うことが確認されました。高感染性病原体によるアウトブレイク時には、可能な限りPAPRを用いる方法および取り外し支援のある方法を採用するのが望ましいといえるでしょう。
感想
日本の医療機関では感染管理認定看護師などにより、PPE着脱時の方法や順番などが啓発されています。エボラウイルス病などの病原性が高い感染症以外では、PPE取り外し時の失敗による自己汚染が発生したとしても、手指衛生などを確実に実施すれば、大きな問題となることは少ないと推察されます。しかし、エボラウイルス病などでは、僅かな自己汚染でも感染拡大につながることが報告されており、PPE取り外しの徹底した教育が必要です。また、そのような高病原性感染症患者を直接ケアする医療従事者も、自身への垂直感染を防ぐために、教育を望んでいるはずです。
しかしながら、これまで理論的には、PPE取り外しの重要性が謳われていましたが、根拠となる論文はあまりありませんでした。今回ご紹介した論文は、例数が少ないことや、被験者によるクセなどを修正し一定化を図ってないこと、蛍光塗料の塗布量や範囲が不均一だった可能性があることなど、論文としての疑問符がつく事柄がありますが、PPEの取り外し手順の周知や教育をする際の根拠の提示としては活用できるでしょう。
Risk of self-contamination during doffing of personal protective equipment.
(Am J Infect Control. 2018 Dec;46(12):1329-1334. doi: 10.1016/j.ajic.2018.06.003.)