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高校刑事ヤマダー/第一話「最終回!参上、正義の味方!さらば、高校刑事ヤマダー!」:創作小説と私

熊矢くまや 善児ぜんじ
府立Y田高校に通う2年生。

何の取り柄もない、平々凡々な男子高校生。
勉強も、運動も、容姿も、どれを取ってもごく普通。
可もなく不可もなく、すべてが平均点。
目立った特技があるわけでもなく、友達こそ居るが
クラスでも地味な存在だった。

熊矢には中学の頃から同じ学校に通う、憧れの
同級生が居た。マリ子さんである。
ある日の放課後、屋上へとマリ子さんを呼び出した
熊矢は、その想いの丈をぶつけた。
「ま、マリ子さん!オレと付き合ってください!」
マリ子さんはその場ですぐに返事をした。
「熊矢くんって、何が出来るの?何かやりたい事って
ないの?何もない人とは付き合えないよ・・・。」
それは限りなく”NO”に近いものだったのだが、熊矢は
どういう訳かその返事を好意的に受け取った。
(オレに何が出来るか。それさえ証明出来れば・・・。)
「わかった。見ててよマリ子さん!必ず見せるから、
オレに何が出来るのか。」

とはいえ、熊矢には何の考えもなかった。
どうしたらマリ子さんは自分に振り向いてくれる
だろうか。
屋上から下駄箱のある1階まで降りていく時、熊矢は
踊り場に貼ってあったポスターに釘付けになった。


5月某日。
その日の午後は生徒会の役員選挙に向け、立候補者の
演説が行われる。
生徒会長立候補者の演説の番になり候補者のリストを
確認した進行役で放送部の吉沢さんは、そのリストを
二度見しながら不思議そうに読み上げた。
「次はや・・・ヤマーク、さん?」
スピーカーからその言葉が流れるや否や、目出し帽を
被った十数人の集団を引き連れ、目元を仮面で隠し
丈の長いマントを羽織った生徒らしき男子が壇上に
上った。

「フハハハハ!聞け、生徒諸君。私の名はヤマーク。
Y田高校、悪の使者。略して、ヤマークだ!」
訳の分からない事を言い出した壇上の男を止めようと
数人の教師が朝礼台へ近づこうとするが、目出し帽の
集団がそれを阻んだ。
ヤマークと名乗る男は続ける。
「この学校は、生徒会は、私が支配する。すべては
私の思うがままとなるのだ。拒絶は許さん、こう
なりたくなければな!」
ヤマークは複数の目出し帽の男に取り押さえられた
体育教師の亀井を指差した。
亀井は理由はよくわからないが露骨に野球部員を
嫌い、時には鼻○ソ呼ばわりまでする。また女子を
舐め回すように見る事があり、生徒からはとにかく
嫌われていた。

そんな様子を見て生徒たちからは次々と
「亀井のヤツ、いい気味。」
「今日アツいな、いつ終わんのこれ。」
「何でもいいから早くしてくれ。」
などというざわめきが膨れ上がった。
呑気にスマホで撮影する生徒もちらほらいる。

その様子が気に入らなかったのか、ヤマークは声を
荒らげた。
「黙れ貴様ら!この私、ヤマークが支配してやろうと
いうのだ。大人しく従うがいい!さもなければ!」
そう言うと目出し帽の男に指示を出す。
亀井を取り押さえていた男たちは、どこからともなく
ハリセンを取り出すと思い思いに亀井をバシバシと
はたき始めた。
「こうなりたくなければ、大人しく私に投票しろ!
まぁどちらにしろ、生徒会長の立候補者は私しか
いないがな、ハッハッハッ!」

ヤマークの意に反して、生徒たちの騒ぎはより大きく
なった。こんな茶番には付き合っていられないという
意思表示だった。
「いい加減にしろ貴様ら!かくなる上は!」
ヤマークが目で合図をすると目出し帽の男が二人、
目の前に居た背の低い1年生の男子の手を両側から
掴み、朝礼台の方へと引っ張り出した。
「お前たちもこうなるんだぞ!」
まだ新しい学生服に身を包んだ小柄な1年生の身に
新聞紙を丸めただけの棍棒が迫ったその時である。
「待てぃ!」
校舎の方から声が響き渡った。
「・・・誰だッ!」
ヤマークが、そして校庭にいる全ての者の視線が
校舎の方へと注がれる。「何処だ」と言わない辺り、
ヤマークは空気をよく読んでいる。

「あ、あそこだ!」
生徒の1人が3階の中央階段脇の窓枠に立つ異様な
人影を見つけた。
真っ赤な学生服。顔の下半分を同じく紅いバンダナで
覆い、紅い帽子キャップをツバを後ろにして被った男。
「貴様!一体何者だ!」
ヤマークの問い掛けを聞いてか否か、真紅の男は
ゆっくりと語り始めた。その音声がスピーカーを
伝わって全校に轟く。

「永き時間ときの流れの中に、蔓延はびこる悪は数あれど、
全ては滅ぶ運命なり。勉学勤しむ人々に、近寄る
影は多けれど、光の下に滅すべし。」
「何者かと訊いている!」
やはりヤマークの言葉に耳を貸すつもりはない様だ。
「O阪府立Y田高等学校令和△年度前期生徒会役員
選挙、生徒会長立候補者!(ここまで32文字)」
「高校!」
右手をパーにして高々と掲げる。
「刑事!」
腰を落とし体を捻って左手を右ヒザの前辺りへ。
「ヤマダーッ!!」
腕を大きく拡げ右手は水平に、左手はやや斜め上に。
決めポーズを取った瞬間、植え込みから数箇所で
発煙筒の煙が上がった。流石に校内で爆破は気が
引けたのだろうか。

長い口上の間、生徒たちは好き放題に騒いでいる。
「紅い学生服ってどうやって用意したんや。」
「校則違反ちゃうの。」
「3階のあそこって女子トイレやろ。」
そんな中、顔を真っ青にしている生徒が1人。
放送部部長、小笠原くんである。
視力2.0の彼は紅い学生服の男の胸元にピンマイクが
ついているのが見えていた。
顧問の木本先生が「放送を切れ」という圧を目線で
掛けてきている。しかし、この高校にはワイヤレスの
マイクなどないハズなのだ。アイツはどうやって
校内の放送設備をジャックしているのか。
小笠原くんはパニックに陥っていた。

「とぅっ!」
ヤマダーと名乗る真っ赤な男が叫ぶと、そのまま
窓から飛び降りた。
「おいマジかよ、アイツ。」
思わず生徒の1人が呻く。
着地点にはご丁寧に体育で使用するマットが敷いて
あった。そこへスーパーヒーロー着地を決める。
飛び降りた勢いで帽子が後ろに飛んだ。

スーパーヒーローランディング。
”オレちゃん”ことデッドプールいわく
「あれは膝にクるからやめとけ」

「ヤマダーと言ったな。貴様、何が目的だ?」
ヤマダーは微動だにせず、何も言わなかった。
いや、小刻みに震えているようにも見える。
「貴様、何度も私を無視するとはいい度胸だ!」
ヤマークが憤った時、ようやくヤマダーはゆっくりと
立ち上がると、飛ばされた帽子を拾おうとして軽く
よろけた。いくら運動神経に自信があるとはいえ、
3階からマット1枚で飛び降りるには無理があった。
まだ足に痺れが残っている。

「お前こそ何を企んでいる、ヤマーク。」
帽子を前後逆に被り直しながらヤマダーが聞き返す。
話を延ばしている間に足の痺れが抜けるのを待つ。
演出用に使った発煙筒のため、生徒からはヤマダーの
姿は良く見えていない。よろけた格好を見られずに
済んだのは不幸中の幸いである。

「私はこの高校の生徒会長支配者となるのだ。」
「ほう、それで?」
「・・・えっ?」
予想外の質問につい素に戻ってしまうヤマーク。
生徒会長支配者となってどうしようというのだ?」
「と、とにかくこの高校を支配してだな・・・。」
「それで?」
「生徒会長になれば、マリ子さんだって・・・あっ。」
「それがお前の本性か。」
「く、くそぉっ!やってしまえ!」
ヤマークが命令すると目出し帽の男たちはそれぞれに
得物を手にした。ハリセンの他、バットやテニスの
ラケットにラグビーボール。中には絵を描く時に使う
イーゼルやトランペットを持っている者もいる。
おそらくハリセン以外は皆、普段の部活で使っている
ものなのだろう。とするとハリセン組は帰宅部・・・?

次々とヤマダーに襲い掛かる目出し帽の戦闘員たち。
トランペットを持った吹奏楽部の戦闘員は戦闘に
合わせて高らかにそれを奏で始めた。

「はっ!とぅ!せいやー!」
「マルーンパンチ!」

戦闘員A,B,C,D,E,F,G,I,J,Kは倒された。
トランペットを演奏していた戦闘員Hはいつの間にか
その姿を消していた。

「残るはお前だけだ、ヤマーク。」
「よ、よかろう。だがな、私は暴力は好まん。ここは
正々堂々ジャンケンで勝負を決めようではないか。」
「好きにするがいい。いずれにしても、悪に勝ち目
などない。それを教えてやろう。」
熊矢ヤマークには自信があった。
何の取り柄もない地味で目立たない奴。
そう思われている彼にも一つだけ、人に自慢できる
事があった。何故かジャンケンだけは強いのだ。
「フフフ、覚悟はいいかヤマダー。これに勝ったら
私が生徒会長だ。」
「闇へと帰れ。それがお前の運命だ。」
「行くぞ!ジャンケン、ポン!(角川新国語辞典より
抜粋)」

ヤマークが出したのはパー。
そしてヤマダーは・・・。
「バ・・・・・・バカな・・・。」
「誰がバカだ。”パー”なのはお前だろう。」
ヤマダーは勝利の”ピースサイン”を高々と掲げた。
敗北を悟り、ヤマークは朝礼台から落ちないよう、
器用に仰向けに倒れた。その拍子に仮面が落ちる。
「うぉぉぉぉぉっ!!」
生徒たちから一斉に歓声が上がった。
気がつけばこのノリについていけない一部の女子を
除いて、生徒たちはこの茶番劇の虜になっていた。
「では諸君、また会おう。さらばだ!」
ヤマダーは校門を走り抜け何処かへと去っていった。
「・・・まだ授業終わってなくね?」
どこかで誰かがそう呟いた。


ヤマダーを名乗る生徒が生徒会長への立候補を取り
下げたため、結局生徒会長は熊矢ヤマークに決まった。
副会長になったマリ子さんとは、なんだかんだで
うまくいっているようである。


高校刑事ヤマダー[完]



※次回予告※

食堂を占拠する一団。
指揮するのは、謎の美女”ジャーク”。
「アナタではワタクシに勝てませんわ、ヤマダー。」
「くっ・・・!」
「ホーッホッホッホ!」

空腹により本来の力を発揮できないヤマダー。
そこに現れたのは、自称正体不明の謎の男。
「私はY田高校、善の使徒。略して、ヤマーゼン!」

ヤマダーとヤマーゼンは食堂を、そしてY高の平和を
取り戻す事が出来るのか?
ヤマダーと”邪悪の化身ジャーク”を巡る因縁とは!?

次回、高校刑事ヤマダー、第二話。
「最終回は何処へ?!忍び寄るジャークの魔の手!
恐るべき食堂占拠計画!!」

次回も、ジャスティーン・マジック!
(制作未定!!)

この物語はフィクションであり、登場する人物や団体、学校などは実在のものとは関係ありません。
…たぶん。

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