音楽と私#14:~たま~ ”和製ビートルズ”と呼ばれた者たち
『たま』。
1990年にメジャーデビュー。
”たま現象”と呼ばれるほどのブームを巻き起こした
フォークロックバンドである。
それぞれが個人で音楽活動をしていたこの4人組。
最初に知久と石川が知り合い、その後すぐに柳原とも
知己の仲となりバンドを結成。一時は柳原が脱退を
申し出たものの「ベースを加入させる」という条件に
対して滝本が加入。4人での活動が始まった。
なお滝本は当初ベースを扱ったことはなかったが、
以前から”たま”のことは知っており「他の誰かが
入ってこの完成されたバンドが壊れるくらいなら
自分が加入する」とベーシスト募集に応募した。
”たま”というバンド名は「名前からバンドの音楽性を
類推出来ない」「省略されたりせず覚えやすい」等の
意味が込められているという。
4人は元々個別に活動していただけあってそれぞれの
音楽性を持ち、各自が曲を書き、そして自らが作曲
した曲は自身がボーカルとして歌っていた。
またそれぞれが色んな楽器を扱えることから、曲に
よって担当する楽器は大きく異なる。
その在り方は往年のビートルズを彷彿とさせるもので
のちに「たま現象」と呼ばれる大きなムーヴメントが
起こった際には”和製ビートルズ”などという評論家も
居たほどである。
やがて彼らは深夜番組である『平成名物TV』の人気
コーナー「三宅裕司のいかすバンド天国」に出演。
BEGINなど名だたるバンドを輩出したこの番組で
彼らは伝説を残した。
対バン形式で行われるこの番組を4週連続で勝ち抜き
あと1回で”グランドイカ天キング”となる最終週、
対戦相手となったのは”マルコシアス・バンプ”。
すでにインディーズではそれなりに名の通っていた
彼らを相手に”たま”が繰り出したのは「まちあわせ」
という曲。
必要最小限の楽器演奏とコーラスだけで構成された
1分半にも満たない、しかし”クセになる”この曲は
対戦相手であるマルコシアス・バンプと審査員たちの
度肝を抜いた。
結果4対3という接戦の末にたまが勝利。
見事3代目グランドイカ天キングの座を獲得した。
なお敗退となるハズだったマルコシアス・バンプは
「たまがグランドキングとして居なくなるから」
「このまま敗退させるにはあまりに惜しいから」と
特例として仮イカ天キングとして残り、その後見事
4代目グランドキングとなってメジャーデビューを
果たしている。
今なお語り継がれる「イカ天伝説の回」である。
イカ天での活躍からメジャーデビューした”たま”は
CMにも採用された大ヒット曲「さよなら人類」を
筆頭にドラマの主題歌などで一大ブームを起こす。
これが”たま現象”だ。
しかし”自分の音楽をやりたい”という柳原の脱退を
受けバンドは3人(通称”3たま”)に。
その後も”たま”のメンバーと交流のあった漫画家
「さくらももこ」と協力してアニメ「ちびまる子
ちゃん」のED曲「あっけにとられた時のうた」など
音楽活動を続けていたものの、元々それぞれが
別々に活動していたミュージシャンであったことや
マンネリ化を避けたいという知久の意向もあり、
解散して今は個別に活動を続けている。
こうした経緯もどこかビートルズに似通っている。
”たま”のメンバーというと坊主頭で常にランニング
シャツを着た石川さんや、きのこヘアーでどてらや
ちゃんちゃんこを羽織る知久さんなど、その見た目
から「キワモノ」「コミックバンド」という誤解を
受けがちである。
しかしその軸にある音楽性は非常に繊細かつ多彩で、
人の世の無常や切なさなどを独特の雰囲気で奏でる
彼らの音楽は”本物”である。
私がたまの曲で大好きな一曲がある。
セカンドアルバム『ひるね』に収録されている
「オリオンビールの唄」という曲だ。
「さよなら人類」のメインボーカルである柳原さんが
作曲、やはりボーカルを務めるこの曲。
柳原さんのリードギターと知久さんのマンドリンが
奏でる切ないメロディと、普段の柳原さんの明るい
曲調とはうって変わって寂しげなその歌詞。
シングルカットこそされていないがファンの間では
「隠れた名曲」として知られる1曲だ。
私はこの曲が収録されたアルバム『ひるね』を高校の
修学旅行のあいだ延々と聞き続けていた。
それくらい耳に残る、実に”たま”らしい1曲だと私は
今でも思っている。
時代が昭和から平成へと移り変わった頃に突然現れ、
夢のように通り過ぎて行った”たま”。
私は彼らと彼らの音楽を忘れることはないだろう。