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雑記と私#68:「いい人」

「いい人」と呼ばれる人たちがいる。

面倒見が良い。
聞き上手。
気配りが出来る。
頼り甲斐がある。
真面目。

こうした”性格のいい人”のことを指す時、
あの人は「いい人」だ、という。


一方で、こと恋愛面において、この言葉は
必ずしもいい意味で使われるとは限らない。

「いい人なんだけど…」という台詞は”お断り”の
常套句になっている節がある。


私はこの「いい人」と言われるのがイヤだった。
「いい人止まり」で終わる人だったから。

相手のことばかり優先し、そのためなら自分は
押し殺してしまう。そんなことを繰り返し、
その先に待っているのは「いい人」という言葉。

都合の”いい人”。
どっちでも”いい人”。
要するに『退屈な人』。

良かれと思って、それが優しさだと勘違いして、
自分というものをさらけ出すことを躊躇った。

それは相手からすれば『退屈』だろう。
”異性”を相手にしているのか、”従者”を相手に
しているのか、これでは区別がつかない。

今でこそ理解出来るが、昔の私はどこまでも
青かった。


ある日、”親友(元カノ)”がダブルワークで働いていた
ラウンジに呼び出された。
閑古鳥が鳴いてるからカラオケでも歌いに来い、
ということである。

お酒も入ったところで私と同い歳のママが
私のことを「いい人」だと言ってくれた。

そこでママと”親友”相手に「いい人」談義を
繰り広げた。
自分は所詮「いい人止まり」でしかないと。

するとすっかり出来上がっていた”親友”がえらく
怒り出した。
「あんたはそんな人ちゃう!アタシはあんたより
あんたのこと知ってるつもりやし!」

ちなみにママは私と”親友”の複雑な関係を知らない。
知らないが、間違いなく気づいてはいる。

泣き出しそうな勢いで詰め寄られたので、ひとまず
前言は撤回して謝っておく。
他にお客さんがいなくて、本当に助かった。


その日はそのままお店を早終いすることになり、
”親友”とタクシーに相乗りして帰る。
ウチと親友の家は車なら10分と離れていない。

車内で”親友”が言う。
「二度とあんなこと言うたら承知せんで。」
まだ怒ってる。お酒のせいもあるのだろうが。
「…わかった。”いい人”なのも悪くないわ。」
言い方がマズかったのか、それから”親友”はずっと
黙ったままだった。

先にタクシーを降り、”親友”を見送った後、ウチで
シャワーを浴びて風呂場を出ると、LINEの通知が
スゴいことになっていた。

”親友”からだった。
そこには『私のいいところ』が細かいところまで
びっしりと書き連ねられていた。
まだ続いている。

『お疲れさん』
『もうわかったから早よ寝ぇや』
『明日朝から運動会のお弁当作らなアカンやろ』

そう送ってとりあえず止めさせた。

『まだあるから』
『おやすみ』

その返信でようやく収まったようだった。

『おやすみ、ありがとね』

既読はつかなかった。
酔いと疲れで寝たのだろう。
突然プッツリと寝てしまうのはいつものことだ。


「いい人」と呼ばれる人たちがいる。
私はそんな人たちの中の一人、らしい。


《そんな”親友”とのエピソードはこちら》


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