雑記と私#86:『フォース・ウィング』読了(ネタバレなし)
”ロマンタジー”。
”ロマンス(恋愛)”と”ファンタジー(幻想)”を掛け
合わせた造語であり、近年アメリカで流行している
文学ジャンルの一つなのだそうだ。
そして2023年に投稿された作品が400万部を超える
大ヒットとなった。
それが『フォース・ウィング-第四騎竜団の戦姫-』だ。
主人公ヴァイオレット(ヴィー)は亡き父同様書記官を
目指していた。それが突然、軍司令官の母の命令に
より竜の乗り手となるべく軍事大学の”騎手科”への
入学を余儀なくされる。
そこで待ち受けるのは”常に隣り合わせの死”。
入学試験にあたる最初の試練ですら、1歩どころか
数ミリ間違えれば翌日には「死亡者名簿に記された
ただ1行の氏名」となってしまうのだ。
入学者に対して絆を結ぶことの出来る竜の数は
限られている。そこからはまさに弱肉強食の世界。
極限状態の中、いつ、どこで、命を落とす(あるいは
”奪われる”)かもわからない生活の中、ヴィーは常に
ぼろぼろになりながらも持ち前の頭脳で生き延びる。
そこには友情、団結、憎悪、信頼、策謀、裏切り・・・
そして恋。生と死の狭間であらゆる人間模様が
息付く暇もなく生々しく描かれていく。
序盤じっくりと進むストーリーはある出来事を境に
突然加速し、そこからは怒涛の展開を繰り広げる。
その様はまさにジェットコースターがゆっくりと
昇っていき溜めた位置エネルギーを、一気に滑り
下りながら運動エネルギーへと変え高速で走って
いくかのようだ。そこにはループあり、ツイスト
ありとまったく読者を休ませてはくれない。
上巻の半ばを過ぎたあたりからは、本当にどこで
本を置いていいのかわからなくなってしまう。
今日はここまでにしよう、そう思っても先が気に
なって仕方がないのだ。
本当にやめ時を見つけるのが難しい、こんな本に
出会ったのは実に久しぶりだ。
なおこのジェットコースターは終点に近づいても
その速度を落とす事はない。むしろ最後まで加速し
続けるかのような勢いで幕を閉じる。
この物語を読み終わった時、2つの事に気付く。
まずはそのストーリーの緻密さだ。
この物語には「1文字たりとも」無駄がない。
一見すると描写に華を添えるためのフレーバー的な
表現と思える言葉さえ、後々大きな意味を持つ。
そこに書かれた一言一句全てが物語を核心へと
導くためのキーワードになっているのだ。
ここまで計算された文章は見た事がない。
ミステリー小説もかくや、というほどだ。
もう1つは物語全体を通しての重要なワードである
「裏切り」についてだ。
作中ヴィーは様々な”裏切り”に遭うことになる。
それは宣伝文句のひとつとしても強調されている。
しかし、である。
すべてを読み終わった時に気付くのだ。
この物語を通じて最も裏切られたのは他でもない、
”読者”なのだと。
「そう来るか」「そんなのアリ?!」等々。
最後の最後まで著者は読者をいい意味で”裏切る”。
だからこそ、本を読む手を止められないのだ。
あまりにも裏切り続けられた結果、私は最後に
仕掛けられた裏切りには気付いてしまったほどだ。
この2つの気付きにより、著者レベッカ・ヤロスが
いかに非凡な才能の持ち主であるか、垣間見ることが
出来るのではないだろうか。
ファンタジー、とりわけ私と世代の近い方で多感な
時期を『ロードス島戦記』や『ドラゴンランス』、
『指輪物語』『エルリック・サーガ』などと共に
過ごしてきた人なら確実にハマることだろう。
私がこの本を手に取るきっかけをくれたnoterさんは
この物語を「ドラゴンランスの再来」とまで言った。
間違いなくオススメの書籍である。
すでにアメリカでは第二部が刊行済みで、第三部も
25年初頭には刊行される予定だという。
全五部作を予定しているという本シリーズ、とにも
かくにも続きが待ち切れない。
まずは第二部の邦訳をじっくりと待ちたいと思う。
最後に、この記事でヴィーたちの物語に興味を
持たれた方のためにこの言葉を送ろう。
こちらでも『フォース・ウィング』が紹介されて
います。ご一読ください。
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