見出し画像

雑記と私#63:生き地獄②~心が死んだお話~

※前回のおはなし※
だいたい吐き出してスッキリしたと言ったな。
あれはウソだ。

前回は壮絶に痛くて気持ち悪くて少々汚いお話で
お目汚しをしてしまった。まぁご覧になられた方は
あぁはならないようにお気をつけいただきたい
(普通の熱中症対策をしていれば問題ないので)。

で、アレは今回お話する”もう1つの生き地獄”の
ための”前フリ”でもある。
ちょっとばかり重い話なのだが「こいつアホやろ」
くらいの軽い気持ちで笑い話として受けとめて
いただければ幸いである。
他人の不幸は蜜の味、というヤツだ。
私の記事はそんなモノばかりしかないので。


尿路結石に悶絶してから数年後。
住む所も仕事も変わり一時はバタバタしていた
ものの、それも一段落してしばらく経った頃だ。

私はある女性とお付き合いしていた。
(この方、すでに過去記事に登場いただいている。
ネタバレなので該当記事へのリンクはのちほど。)

ある夜の事。
日付も変わり次の日も仕事だったので就寝しようと
していたところ、彼女から電話がかかってきた。
「深夜のドライブに付き合ってほしい」と。
当時の私は免許こそ所持していたが車は保有して
おらず、長年運転もしていない。
出掛ける時は専ら自転車か、彼女の車で助手席に
座っているかだった。

夜景や星空を見るのが好きな彼女と私は、夜に
出掛けることが度々あった。
しかし、そんな夜遅くになってから連絡してくる
というのは珍しい事だった。
その理由に何となく察しのついていた私は、
いつも通り彼女の車の助手席に座る事にした。

彼女の大好きな安室奈美恵さんの曲を聴きながら
向かったのは車で20分ほど行った浜辺。
海と馴染みの深い所で生まれ育った彼女は
波の音を聴くのが好きだった。
そうしていると落ち着くのだという。

2人で静かに星空を眺め、波の音を聴きながら、
彼女が切り出したのは『別れ話』だった。

最初は素直には受け入れられなかった。
何故なら私は”本当の理由”を知っていたから。
この時の私の内に燻っていたのは他でもない、
「嫉妬の青白い炎」である。
しかし、彼女の意志は固そうで、私自身も
ある程度覚悟はしていたので、お互い納得の上で
関係を解消する事に決めた。
納得するしかなかったのだ。
そんな内に秘めたドス黒い感情を見せたくは
なかったから。
今にして思えば、実にくだらない男のチンケな
プライドという他ない。
実際彼女自身にも後々そう言われた。

すべては”あとの祭り”、というやつだ。


さて、問題(というか”本題”)はここからである。

これがよくある恋愛ドラマなどであれば、そこで
サヨナラして2人が別々の方向に帰っていったり
するのだろう。

しかし、である。
思い出してほしい、私がどのようにこの浜辺まで
やって来たのかを。

周りは建物がぽつりぽつりとしかないような場所。
コンビニなどもない。交通量もごくわずか。
タクシーを呼ぼうにも目印になるようなものも
ないただの浜辺だ。そもそも今自分がどの辺りに
いるのか、自分では運転していないのでイマイチ
よくわからない。第一タクシーなんて普段
呼ばないからどこに電話するのかも知らない。
とてもじゃないが歩いて帰れるような距離でも
なさそうだし、そもそも翌日(というかもう当日)も
仕事だ。電話がかかってきた時点で日付はすでに
変わっていたから、かなり夜も遅い時刻。

おわかりいただけただろうか。
私がこの浜辺から自宅に帰る方法は『たった今
別れ話をされた(元)彼女の車の助手席に乗る』

これしかないのである!

翌日仕事を休んででも意地でも自力で帰る、という
選択肢は残念ながらない。
もしそんな事を言えばぶん殴られて首根っこ
引っ掴まれて助手席に放り込まれかねない。
・・・ホントにやりそうだから怖い。
それくらい(元)彼女も私も頑固で意地っ張りである。

結局私はあの助手席に座らざるを得なかった。
後部座席に座ろうかとも思ったのだが即却下された。
重い空気と沈黙の中、安室ちゃんの歌だけが
流れる。
私はずっと助手席の窓から景色を眺めていた。
といっても深夜だ。田舎の深夜はほとんど
どこを見ても真っ暗である。
たまにコンビニの明かりだけが煌々と輝いている。
流れてくる音楽だけがほぼ唯一の救いの手だった。

ここでいたたまれなくなったのだろうか。
(元)彼女がカーステレオを切ってしまった。
ほんのわずかでも私の気を紛らわせてくれていた
たった1つの希望がここで消えた。
あとに残されたのは静寂と重苦しい空気。
これらが私を押し潰そうと襲いかかってくる。

心理的な生き地獄である。


私は自宅に着くまであらゆる思考を放棄した。
虚無である。心には死んでいただいた。

こうして私という抜け殻は無事帰宅した。

なお(元)彼女とは同じ職場で部署も近い。
この後しばらくの間、パートさんには『死んだ魚の
ような目をしてる』と言われていたらしい。

思考を殺した中年の助手席、これにて完。

ガンダムWといえばこの曲。
重いタイトルとは裏腹に軽快な曲調。
一見矛盾だらけに見えるヒイロを象徴する名曲。


ちなみに今の私なら、あの状態で助手席に
乗せられたらたぶん泣く。
泣いて全部吐き出してしまうだろう。
男の意地なんて”無意味で邪魔なだけ”。
世の女性はそんなモノ、全部お見通しなのだ。

弱さを見せる事は別に恥ずかしい事では無い。
それもまた、相手との理解を深める1歩。
その1歩を踏み出す勇気があるかどうか、
それだけの問題である。


さて、この(元)彼女さんであるが現在は
私にとって替え難い存在である。
”相方”以外に本音で話せる数少ない”親友”だ。
それは彼女から見た私も同じらしい。

まったく、世の中何がどう転ぶかわからない。

《彼女と私の関係性はコチラ》


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?