呪いの消しゴム


俺は、池下颯真(いけした そうま)。高校2年生。今は1時間目の現代文の授業中だ。今日は漢字の小テストがある。朝から漢字のテストとかだるいなぁ。眠すぎて漢字が中国語に見えてきた。
「あ、ミスった。」
ぼーっとしながら書いていたら漢字を間違えてしまった。筆箱からビー玉くらいの大きさの消しゴムを取り、間違えた漢字を消す。小さすぎてとても使いにくい。学校が終わったらももと一緒に新しい消しゴムを買いに行こう。ももは池下桃花(いけした ももか)、中学一年生の妹のことだ。俺の高校とももの中学校が近いからいつも一緒に帰っている。一応ももに消しゴムを買いに行くことを連絡しておくか。もちろん、授業が終わったあとに。とにかく今は授業に集中しよう。

長い長い授業が終わって、ご飯を食べて友達と話したりしていたら、いつの間にか6時間目が終わる10分前だった。最近、時間が経つのが早いとよく感じる。歳なのか?17なのに?まぁそんなことはどうでもいい。やっとももに会えるんだ。あの超可愛いももに。俺はよく周りにシスコンと言われる。確かにももとずっと一緒に居たいし、ももに何かあったら絶対に俺が助けたいし守りたい。そして今日はももと消しゴムを買いに行く。ほぼデートみたいなもんだ。楽しみだなぁ。もものことを考えていたらいつの間にか授業が終わっていた。俺はすぐ帰る準備をした。帰りのHRが終わって俺はもものいる中学校に向かった。

中学校の校門の前で5分ほど待っていたら友達と楽しそうに話しているももを見つけた。
「あ!お兄ちゃん!」
ももも俺に気づいた。友達にまたねと言ってこちらに小走りで向かってきた。本当に可愛い。
「おつかれー!」
「おつかれー。学校どうだった?」
「楽しかったよ!今日ね、体育でバレーやったんだ!」
俺たちは楽しく話しながら文房具屋に向かった。

お目当ての消しゴムを見つけた。青と白と黒の普通の消しゴムだ。色んな種類があるがなんだかんだ言ってこれが一番使いやすい。その消しゴムを持ってレジへ向かい、お金を払った。その瞬間、
「契約完了。」
謎の男の人の声が聞こえた気がした。
「何か言いました?」
と、一応レジの人に確認してみたが、
「何も言ってませんよ?」
と言われた。ただの勘違いだったのか。でも、はっきりと聞こえた。一体なんだったのだろう。謎の声について考えていたらももに
「お兄ちゃん大丈夫?」
と聞かれた。なんて優しい子なんだ。
「考え事してただけだよ。じゃあ帰ろうか。」
そう言って俺たちは家に帰った。

家に帰って自分の部屋で謎の声について考えていた。あれはなんだったんだ。“契約完了”とはなんのことだ?と色々考えていたらまた声が聞こえた。
「お前は呪いの消しゴムを購入した。つまり契約したということだ。」
「呪いの消しゴム?それよりお前は誰だ。どこから話しているんだ。」
「私は悪魔。お前の脳に直接話しかけている。呪いの消しゴムと契約したお前は、私の命令に従わなければならない。」
「命令?従わなかったらどうなるんだ。」
「死ぬ。だが、消しゴムを最後まで使い切れば私の声が聞こえなくなり、命令もされなくなる。しかし、途中で捨てたり他の消しゴムを買ったりしたら一生呪われる。」
「一生…呪われたらどうなるんだ?」
「楽しい、嬉しいなどの感情が無くなり、負の感情ばかり感じるようになる。」
「なんだよそれ…」
俺はなんてものを買ってしまったんだ。後悔していると部屋のドアが開いた。
「お兄ちゃん、1人で何話してるの?」
ももが不思議そうな顔でこちらを見ている。ももに心配させたくないからここは嘘を言おう。
「あぁ、友達と電話してただけだよ。」
「そっか!邪魔してごめんね!」
そう言ってももは俺の部屋から出ていった。
「ひとつ言うのを忘れていた。この消しゴムのことを誰かに言ったら、お前の大切な人を呪う。」
「はぁ?!先にそれ言ってくれよ!もし今ももに言ってたら、ももが呪われてたかもしれないじゃないか!」
危なかった。ももが呪われるなんて絶対にダメだ。何としてもこの呪いの消しゴムを使い切ろう。

今日もいつも通り学校に行った。昨日はとんでもないものを買ってしまった。とりあえず、消しゴムを使い切るまで大人しく命令に従おう。どうやら命令は1日1個らしい。楽勝じゃん。
「命令だ。今日1日スマートフォンを触るな。」
え、スマホがなかったらももと連絡が取れないじゃないか。命令思っていたよりきついな。

疲れた。何とか今日1日スマホを触らずに過ごせた。帰りにももになんで連絡を返してくれなかったのか聞かれたが、充電が切れてたと嘘をついた。ももが呪われるのは絶対にダメだ。この調子で明日からも頑張ろう。

あれからしばらく経った。俺はめちゃめちゃ勉強して消しゴムを使いまくった。おかげで消しゴムはビー玉くらいの大きさになった。それに、成績も少し伸びた。でもその代わり、命令はだんだんキツくなっていった。

呪いの消しゴムを買って半年が経った頃だろうか。さすがにもう使えないだろという大きさになるまで使った。そろそろ終わらないかな。
「よく最後まで使い切ったな。これでお前は解放される。」
やった!これで悪魔の声も命令も聞かなくて済むんだ。俺は最後まで自分自身と妹を守ったんだ。これでももと楽しく過ごせる。今までで一番嬉しいかもしれない。そして今日はももが欲しいものがあると言っていたので一緒にショッピングに行く。何を買うんだろうか。

「今日は何を買うの?」
「欲しいコスメがあるんだ!あと、お洋服も欲しいなぁ!あ、私もう消しゴムないんだった!」
「え、消しゴム?」
「うん!消しゴム!」
そして2人で消しゴムを買いに行った。会計を済ませたももは何かに怯えているような表情だった。

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