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嘘と戦う。後悔と戦う。

友達との約束の時間までに待ち合わせ場所に行けなかった。お母さんと約束した時間までにお家に帰れなかった。久しぶりにミニスカートを履いたのに風が強くて足が痛かった。エスカレーターでわたしの後ろから頑なに離れないサラリーマンがいた。あの人からのラインの返信は相変わらず遅い。どうせ暇なんだから早く返信してよって、しょうもない愚痴をこぼしてしまった。こんなことを書いている今も、まだ返信が来ない。風の音が強い。もしかしたら雷が鳴っているのかもしれない。あの人は無事に帰れるだろうか。今日はたしか23時30分までバイトだっけ。まだ返信が来ない。今日のわたしの行動をひとつひとつ反省しながら返信を待っている。もう日付がまわった。まだ反省をしている。もう少し早く家を出る支度をすれば待ち合わせ時間に遅れることはなかっただろうか。もう少し早く家を出る支度をすればミニスカートを履くという愚かな選択をすることはなかっただろうか。友達がせっかくプレゼントをくれたのに可愛らしい反応ができなかったな。びっくりして拍手をしてお礼を言うだけじゃなくて、それだけじゃなくって。帰り際にもう1回お礼を言うべきだったな。背後に付いていたサラリーマンにただただびびっているだけじゃなくて、早歩きするとか、ちょっと奇妙な動きをしてみるとか、何かしら勝負をしかけて無言の闘いをするべきだったかな。あのラインは余計だったかな。

わたしがもっと可愛ければ、物事は上手く進んでいたかな。

いつもの帰り道、いつものスーパーの、いつもの角を曲がると、お家のベランダが見える。カーテンから明かりが見える。電気がついている。わたしの帰りを待ってくれている。マンションに入り、エレベーターに乗る。玄関の鍵を開け、家に入る。おかえりという声は聞こえないが、こたつで眠っている母の寝息が聞こえる。おそらく友達と電話をしている兄の声が聞こえる。暖房はついていないのに暖かい。安心して涙が出てくる。
これでいい。こんなもんでいい。帰り道、後悔が押し寄せても、暖かい家があれば。暖かい家さえあれば。
家だけは暖かいのだから、家の中だけでも素直でいたい。暖かい家を裏切ることのないよう、嘘はつかないでいたい。家と、あの人にだけは、素直に、正直に、嘘つきにならないように。
ずっとそう思っている。いや、ずっとではないか。また嘘をついてしまった。わたしが嘘をついている間に返信が来た。なんて返信をしようか。少しだけ話を盛ってしまおうか。優しくされたい。可哀想だと思われれば、優しくしてくれるだろう。また、また、小さな嘘をついてしまった。
わたしはこうやって生きていくのだろう。嘘に嘘を重ね、後悔に後悔を重ね。

明日から、明日からでいいから、素直に。完全じゃなくていいから、今日よりは、素直に。生きる。

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