桜子とのお散歩 その2
1月10日夕から14日まで、ボランティアで桜子のお世話をする。
最初の日、桜子はフェイントかけながら私に近寄らない。
「桜子、もう忘れたのかい。私だよ、私。」
近寄って散歩用ハーネスをちらつかせるとビクビクしながら寄ってきた。犬らしく媚びないところがまた可愛い。
ハーネスを付けると嬉しそうに玄関に飛んで行きワンワン吠える。さっきのフェイントはなんなのか?いつも不思議だ。
夫と二人で沿道を歩いていたら向かいから見知らぬ女の方が歩いてきたので、笑顔で挨拶を交わした。
「あっ、ひょっとしたら桜子?…」
「そうです。今日はお世話を頼まれたんです」
「奥様が名前つけられたんですよね。こんなに散歩できるようになって」
不思議そうに嬉しそうにおっしゃった。
最終日5日めの朝は空気も日差しも清々しくて、下の国道へと沿道を歩いた。私と桜子にとって初めての散歩道。
朝日に向かって前を嬉しそうに軽快に歩く。
コースを変えると嬉しいんだなあ。
私も心が緩んで穏やかになる。
その日は珍しく私の心は曇り気味だった。
実は桜子の散歩に向かう車の中で、別の事件が入って、私は気分が少し落ちていた。
携帯に電話が鳴った。自宅番号の電話だったので義母がお世話になっている介護ホームからの連絡かなと思い、車を止めて折り返し電話をした。
それは、地域猫に関する電話だった。
2年前、私と猫のことで口論になったkさんで、地域猫推進ボランティアグループ「みこわの会」を立ち上げるきっかけになったお方だ。
近頃自治会に猫の糞のことで苦情を入れていて、2〜3日前から環境部の役員さんが対応してくれていた。なかなか気持ちが収まらずとうとう私に電話をしてきたのか。
その方の名前をおっしゃる声を聞いたとき、私はトーンの高い明るい声で
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」と答えた。kさんは私の声に拍子抜けした感じで
「……う〜ん、そんなにめでたい話ではないんですけれど、運転中ですか、あとからまた電話しますね」といった。
う〜ん、散歩帰りにkさん宅に行って話すしかない。
散歩を終えた帰り道、その方のお宅に向かう車の中で私は深呼吸をし呼吸を整えた。
ユーチューブでブッタの教えを聴きながら。
今回は冷静に、冷静に。
はなしは無理な要求も多多あったが私たちが定期的に糞を取りに来ますとのことで穏便に済んだ。
人の穏やかな生活のためにもみこわの会は活動しますと伝えた。話を聞いてもらえたその方は最後に気持ちがすっとしたといった。
今回はうまく事が進んだ。
私の心も軽くなった。
信頼できる応援してくれる仲間たちが私の周りには溢れていて、私を支え、力を与えてくれる。ありがとう。
明日からの新たな取り組みに進もう。
13日に震度5弱の地震がきた。
その後も震度4の余震がきた。
災害や問題事が起きても世間の情報に流されず慌てずに最善の道を進もう。
そう心に思った。
14日、最後の夜、お世話を済ませ帰るとき桜子が帰らないでと訴えるように吠えた。
「今日はパパさんが帰ってくるからね。大丈夫だよ。」
私は大きなホッぺにキスをして別れた。
自分の存在が必要とされること
それはとても幸せなことだと気づいた