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口癖
「なんていうかな~」
会話の始まり。父の口癖だ。
以前気になって聞いてみたことがあった。
「言葉が順番待ちしてるんだ。停留所みたいにね」父はクスクス笑った。
空の色、花の匂い、雨の音。
グラスの氷が溶けて、洗濯物がくるくる回る。
急に冷たい風が吹き込んできて、ベランダが雨飛沫で真っ白くなる。
「この景色、言葉が追い付かなくなるよ」
わたしは、ベランダに出て洗濯物を救出する。
ビオトーブのメダカがホテイソウに隠れる。
「あの人は、雨女だったなぁ」
「お母さん?」
雨の先、上空の彼方。
僕を濡らす悪戯な天使。
安物のジョーロを嬉しそうに
傾けては 僕を潤す。
「うん。そうだよ」
床に、ふたりで足跡を残してバスタオルで頭をごしごし。
昔みたいに、お風呂に入りたいな。
シャワーの音と、変な鼻歌。
曇りガラスのシルエットが
妙に色気がある父。
母が洗濯物を、もう一度洗うか悩んでいる。
ベランダは、
ピンク色の空。
ビオトーブの傘。
メダカがちょこっと顔を出す。
あなたは、こんなとき
なんていうのかな。