凄く遅いよ。 いい? いまさらなんて 言わないでね。 10年たっても 15年たっても 忘れないでね。 大好きです。
うん。 わかった。
くりくりで可愛いね。 父の坊主頭を撫でる。 「前は長かったんだ。急に帰ってきたらびっくりするだろうな。長い髪が好きだと言ってくれたから」 大丈夫だよ。笑うかもしれないけど。 くりくりで可愛いねって言ってくれるよ。 「心配だなぁ」 鏡を見て不安そうな顔をしている。 いつもと同じ午後。 階段を昇る気配がする。 カチャ 玄関が少し開いく。 懐かしくて 優しい風が滑り込んでくる。 「ただいま」
すぐには無理でも 残りの人生の 端っこでいいから なんでもない平日 一日だけ 数時間だけでいいので 一度、我儘を言わせてください。 お返事待ってます。 貴女はわたしの全てです。 tyanagi084@gmail.com
会いたい 雨の街 人の波に 面影を探す 会いたい
母に会いたくないのかと聞いたことがある。 「会いたいよ」父は即答した。 昔話は、嫌いなんだけどな。 ぶつくさ言いながらも、口元が緩んでいた。 なりふり構わず、手を握って走る。 ガード下に隠れて、不安な夜を数える。 ジョンも言っていたよ。ベッドで愛を語ろうみんな武器を捨てて抱き合おう。 寺山修司も言ってたよ。 書を捨て町に出ろ。 朝日を迎えにいく 新聞屋のバイク 空を切りとり 貴女のポスト 目覚めのキスのかわりに 雀の歌を贈ろう 雨上がりの空に 虹を
貴女が居ない夜。 わたしは幾度も呟く 消えないで。 それは本心。 それは葛藤。 細い糸が紡げた奇跡 今はただ 喜び。 オボロツキ わたしは繋ぐ 愛の讃美歌
愛し君に送る言葉。 夢の続きを一緒に見ませんか?
「なんていうかな~」 会話の始まり。父の口癖だ。 以前気になって聞いてみたことがあった。 「言葉が順番待ちしてるんだ。停留所みたいにね」父はクスクス笑った。 空の色、花の匂い、雨の音。 グラスの氷が溶けて、洗濯物がくるくる回る。 急に冷たい風が吹き込んできて、ベランダが雨飛沫で真っ白くなる。 「この景色、言葉が追い付かなくなるよ」 わたしは、ベランダに出て洗濯物を救出する。 ビオトーブのメダカがホテイソウに隠れる。 「あの人は、雨女だったなぁ」 「お母さん?」
夕焼けが海に溶ける。 わたしの父は時折、悲しい目をする。 母に向ける優しい眼差しだ。 私は港町に住んでいる。 白いマンションの三階の角部屋。 乾いたユーカリと針の固まった時計 母と父は詩人だ。 わたしは、その世界を知らない。 母の顔も匂いも声も。何も知らず今 父と暮らしている。 胡桃。 わたしの名前。 母が好きだった 桐の箱には、線香花火。 これは、わたしが産まれる前の前のずっと 前の話。 父と母が確かに生きていた時代の話。