【ショート】ループ
大阪環状線は十九駅あり、電車は大阪市を、くるくる回る。
(現在は、323系電車)
内回りは反時計回り。外回りは時計回り。になる。
(103系)電車。1969年から48年間。大阪環状線を走り続けてきたオレンジ色の電車。2017年10月3日「103」にちなみ、この日を勇退日とした。
(201系)電車は2019年にラストラン京橋駅に到着。 2024年に引退する予定。
電車はループをしている。
ぼくはメッセージを拾った。場所は桃谷駅、人通りの少ないコインロッカーの前だ。ロッカーを開けると、丸められた紙切れと最初の鍵が入っていて、その横には、謎解きの帽子が置かれていた。
紙を広げると、「天王寺駅 東口」と書かれていた。文字はくしゃくしゃになっている。帽子を手に取り、頭にのせると、ぴったりと合った。
天王寺駅は外回りで二つ先の駅だ。電車に揺られながら、目的地に向かう。天王寺駅に到着し、改札を抜けて東口に向かって歩き出した。
天王寺駅のロッカーを開ける。すると、ロッカーには玉造駅のメッセージと探偵のコートが入っていた。コートを手に取り、二つ折りの紙切れを広げる。
『この先は思考の迷宮、後戻りはできません』
達筆な文字で書かれていた。コートを着てみると、サイズはぼくにぴったりだった。
玉造駅は桃谷駅から二つ後ろにある駅だ。ここから内回りで四つ先の駅に向かうことになる。電車に揺られながら、ぼくは玉造駅で降車した。改札を抜け、指定されたロッカーに向かった。鍵を差し込み、扉を開けると、中には次のメッセージが入った封筒と、推理のメガネが置かれていた。 封筒を開けてメッセージを読むと、読めない!メガネを手に取り、かけてみると、文字が浮かび上がってきた。
『真実はいつも一つとは限らず、その道は多岐にわたる』と記されていた。
各駅を巡り、ついに行き止まりを迎える。ぼくは最後の鍵とメッセージを受け取った。メモには『丸福ロッカー。新今宮駅から徒歩五分』と記されていた。スマートフォンで検索すると、すぐに所在地がわかった。西成のドヤ街を歩き、紀州街道を西に曲がった右手に丸福ロッカーがあった。
嫌な気がした。これまでのコインロッカーとは違う。子供なら楽に入れるサイズだった。西成警察は歩いて五分もかからない場所にある。でも、この格好だと…ぼくは怪しまれるだろう。迷った末に、ロッカーを開けた。
耳鳴りが増幅し、急激にフィードバックがかかる。ぼくはロッカーに入った。
ロッカーの中は、外から見たよりもずっと広かった。そこには店という名のジビエ料理店があった。どこか懐かしさを感じさせる。
すると、威勢のいい声で、「いらっしゃいませ!」 その直後、ハウリングが起こり、店主が不気味にぼくを出迎えた。彼は調理用の白衣を着て和帽子を被り、その目はじっとぼくを見つめていて、いったい何を考えているのか読み取ることができなかった。
「あの、ビールを一つお願いします」
店主はにっこりと笑みを浮かべ、「かしこまりました」と返事した。その直後、店主の声がノイズとともにループした。
「いらっ、イラッ、シャイ、しゃい、ませ、カシ、コ、マリ…」
そこに天井から白紙のメニューが落下した。ふと気づくと、ぼく以外誰もいない。
ぼくは白紙のメニューに桃谷駅と書き、ロッカーの鍵と共にすべてのアイテムを丸福ロッカーに入れ、店を出た。
最初のロッカーには鍵がかかっている。決して開くことはない。そんな箱には、たくさんの思い出が詰まっている。その箱は夢の中にだけ現れる。ぼくは、そんな箱に魔法の鍵をしまい込んだ。