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016. 煙突掃除

 我が家には前述のAGAの他に、暖房用にオイルヒーターと薪のストーブがある。薪ストーブはラウンジにあり、実際に薪を燃やしている。ロンドンでは薪は禁止されており、ガスや電気ストーブが使われている。ただしガスストーブを使う際には既存の煙突の中に特殊ライニングを施さなければならず、そのコストも高いので、次第に減りつつある。最近の流行は薪ストーブのような体裁をした電気ストーブを備え付け、実際に炎を演出するまがい物が進出している。これは部屋のインテリアの一部であって、あまり暖房効果はない。ロンドンの家は大部分がセントラル・ヒーテイングが備えられているので、これは飽くまでもデコレーションである。
 デボンでは薪のストーブは一般的でどの家にも大抵備え付けられている。もちろんデボンでも新築の家にはこの設備が無いところが多い。地球温暖化が叫ばれてから久しいが、長い眼で見たら薪ストーブも将来は禁止されるのではないかと思っている。ただし嬉しいことにデボンではまだその動きはない。薪のストーブの素晴らしさは熱量が高いことと実際の炎を見て楽しむことだ。薪が燃える時の炎の形は毎瞬間異なるし、決して同じパターンを繰り返さない。まるで生き物の様である。自然が創り出す動きは、雲の動きにせよ、小川の流れにせよ、そして薪を燃やして出る炎にせよ、飽くまでも自然の形であり、人工の力が加わらない自然そのものだ。

ストーブは冬には欠かせない

 イギリスの冬は暗くて長くて寒い。その上デボンでは雨が多いので、戸外での活動は止まってしまう。住民は冬ごもりするように家の中で過ごす時間が増える。そんな時、薪の燃える匂いや時々パチッと跳ねる火花をじっと見ているのは何と贅沢な幸せではないだろうか。また、友人が訪ねてきた時など、暖炉を囲んでお酒を飲みながら会話をするのは至福の時であり、デボンでの生活の醍醐味でもある。
 薪ストーブを使う家が多いので、薪はいろいろなところで買うことが出来る。TESCOや Sainsburysといった大手のスーパーから近所の雑貨屋や木材店、DIYショップまでどこでも手に入る。我が家の近所の村では、郵便局や肉屋の店先でも売っている。我が家も最初は薪を買っていたが、庭の木の剪定をした時に樵夫(きこり=英国ではTree Surgeon〈樹木の外科医〉と呼ぶ)が、幹や枝をストーブに入るぐらいの大きさに切ってくれて、それを乾燥させて使っている。また、嵐で裏山のブナの大木が倒れた際には、近所の人が共同で購入し、それを細かく切ってみんなで分けた。今でも庭の小屋の棚には乾燥中の薪が山と積んである。

煙突が長いので掃除も大変だ

 我が家には薪ストーブ用の他に、AGA用、オイルヒーター用の煙突が3本ある。薪でもオイルでも使えば煙突に煤が溜まる。そして時々は(理想的には年1回) 煙突掃除をしなければならない。良く出来た物でデボンには煙突掃除人がたくさんいる。煙突掃除という言葉は私の中ではすでに死語で、先端にブラシの付いた長い弾力性のある竹竿を輪にして持ち、顔や体中を煤だらけにした人をイメージしていた。
 実際に呼んだ煙突掃除人はまだ若い男性で、作業服は着ているもののきれいに洗濯されていて、煤は顔にも手にもどこにも付いていない。長い針金のようなものは持っているが、大きな袋と機械を持ちこんできた。先ず針金を煙突に通しセンサーで煙突の中の煤の状態を調べる。よほど煤が溜っていて難しい場合以外の時には、大きな袋をストーブの口に取り付け、煤を強力な電気掃除機であっという間に吸い取ってしまうのである。煤はどこにも飛ばないし、きれいそのものである。チムニー・スイーパー(Chimney Sweeper) というより、Tree Surgeonならぬ、Chimney Surgeonと呼んだ方がふさわしい。

煤は全然飛ばない

 3本の煙突掃除が物の1時間で終り、掃除したという証明書をくれた。この証明書は非常に大事なもので、もし煙突からの出火で家が火事になった場合、この証明書があれば保険が降りるし、もし証明書がなければ、保険が降りず大変なことになる。特にデボンは藁ぶき屋根の家が多い。煙突からの火の粉での火事がよくあるそうである。この煙突掃除証明書が非常に大事な理由である。
 

デボンには煙突掃除の職人が多い


 

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