本の紹介⑧長月天音
長月天音「キッチン常夜灯」
発行令和5年9月25日
【悩むのはたいてい夜だ。心細くなるのも夜だ。夜の闇と静けさが、余計に気持ちを弱くする。】(本文引用)
そんな夜に開いているのが「キッチン常夜灯」
夜9時から朝の7時まで開いているそのお店。
そして、【希望の見えない私の日々に、楽しみを与えてくれた。】(本文引用)
そんなお店。
舞台は東京。
華やかな街、そんな中に温かい一軒のお店がある。
東京の路地裏を行くと、そこにお店がある。
【看板がぼんやりと浮き上がって見えた。決して眩い明るさはないけれど、暗い夜道に優しく光を投げかける明かりが何よりの希望。】(本文引用)
落ち着く場所であり、
気持ちをリセットできる場所であり、
身を委ねたい場所、
そして何よりも
会いたいと思う人がいるお店。
昼間の疲れや、ストレスが溜まった時に、つい行って、あたたかい料理や、店の雰囲気に包まれたくなる。
私の家の近くにも、そんなお店があれば毎日でも行くのに、、
と羨望の眼差しで読んでしまうほど、
次々に登場する魅力的な料理たち、
素敵なお店の雰囲気、
シェフや店員さんとの人間味あふれるやり取り。
実際にあればなぁ。悔やむばかりでした。
主人公は、チェーンの洋食屋さんの店長を任されているが、
「店長」というプレッシャーや、
重責に耐えられず毎日クタクタな毎日を送っていた。
そんな時に出会ったのが「キッチン常夜灯」
仕事との付き合い方に、
「店長」という鎧を着ないと上手く仕事と向き合えない弱さに、
鎧の重さに、
様々な、目に見えないプレッシャーを感じる主人公。
そんな、様々な想いを抱き、悩み、苦しむ主人公に対して、キッチン常夜灯のシェフが言った言葉が、とても印象的です。
【何を求めるかは人それぞれですから。
私は料理がしたいから料理しかしない。
生き方も仕事も、自分の身の丈に合ったものにしようと思っています。
でも、ひたむきに仕事と向き合っていれば、いつかは与えられた仕事に相応しくなれるかもしれない。
どうとらえるかは、やはり人それぞれです。】(本文引用)
シェフの人柄や、料理に真摯に向き合う姿、口下手だけど、お客さん一人一人の口に合った料理や、思い出の料理を届けようとする愛情。
その全てがこの言葉に詰まっていました。
そして、キッチン常夜灯や、シェフとの出会いをきっかけに主人公は前を向き、自分の目標に向けて歩んでいく。
【いつか、鎧などがなくても立派に「店長です」と言えるよう】(本文引用)に。
【外での自分を脱ぎ捨て、素に戻ることができる】(本文引用)
いつか、そんな場所を見つけれる日が来ることを願って、今を必死に、丁寧に生きていこう。
それは自分の捉え方次第。
変えるためにはまずは自分が変わらないと。
前向きな気持ちになれる一冊でした。