金は天下の回りものもの何故か自分を避けてゆく

タイトル: **澱む流れ**

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世の中には、金というものがまるで川のように流れている。だが、その流れは一筋縄ではいかぬ。蛇行し、渦巻き、時には澱み、誰がそれを操っているのかも知れぬまま、人々はその流れに身を任せる。だが、奇妙なことに、その川はどういうわけか、私のところでは止まってしまう。

ある日、私は古びた縁側に座りながら、ぼんやりと遠くを眺めていた。庭には小さな池があり、その水は澱んで青く濁っている。かつては清らかな水がこんこんと湧き出ていたのだが、今やただの湿地のようだ。まるで私の生活そのものを象徴しているかのように。

私はいつからか、お金というものに縁遠くなってしまった。友人の中には急に羽振りが良くなった者もいれば、いつの間にか裕福になっている者もいる。皆、笑顔で語り合い、酒を飲み、宴を開く。だが、私はその輪に加わることはできない。それがなぜなのか、私にはわからない。

ある日、旧友の藤村が私を訪ねてきた。彼はひどく肥え太り、高価な着物を着ている。

「久しぶりだな、安吾。お前のところは相変わらずだな。」

そう言って彼は、私の家の貧相な様子を一瞥した。彼の言葉には、かつての友人としての親しみが感じられるのだが、その裏にはどこか軽蔑のようなものが漂っている。

「お前は、どうしてこうも貧しいままでいるんだ?世の中は動いているぞ。金は回っている。お前ももう少し、うまくやればいいのに。」

私は笑って答えた。

「うまくやる?それがどうやればできるのか、私には見当もつかない。金というものは、私の周りをぐるぐると回り続けているように見えて、なぜか私のところには一滴も流れてこないんだ。」

藤村は鼻で笑いながら言った。

「それはお前が流れに乗っていないからだ。世の中の流れに身を任せ、うまく立ち回れば、自然と金は集まるもんだ。お前はいつも、何かを考えすぎて動けなくなっている。」

彼の言葉に、私は少し苛立ちを覚えた。私が考えすぎている?果たしてそうだろうか。いや、私はむしろ世の中の理不尽さに耐え、慎重に生きているのだ。無闇に流れに身を任せれば、やがて大きな渦に巻き込まれてしまうに違いない。

その夜、私は一人で考え込んだ。藤村の言葉が頭の中で反響している。「流れに乗る」という言葉が、どこか浅はかに聞こえるのだ。だが、もし彼の言うことが正しいなら、私のように流れに逆らい続けている者は、永久に澱みの中で苦しみ続けるのだろうか。

翌日、私は街に出てみた。賑やかな商店街を歩くと、金が動いているのが見て取れる。人々は金を払って品物を買い、商人たちは笑顔でそれを受け取っている。だが、私はその流れにどうしても加わることができない。まるで透明な壁が私と世の中を隔てているかのようだ。

数日後、再び藤村が訪れた。彼は酒瓶を持ってきて、私に勧めた。

「どうだ、安吾。少しは世の中の流れに乗ってみたか?」

私は首を横に振った。

「いや、どうしてもその流れに乗る気にはなれない。それが私には偽りのように思えてならないんだ。」

藤村は深いため息をつき、言った。

「お前は考えすぎだ。世の中はそんなに複雑じゃない。お金が回っているところにいれば、お前もその一部になれるんだよ。」

私は彼の言葉を聞きながら、ふと思った。もしかすると、藤村の言う「流れに乗る」ということは、単に無理にでもその流れに自分を押し込むことなのかもしれない。だが、私はそのような生き方を拒絶し続けている。澱んだ池の中で静かに生きることが、私には性に合っているのだ。

そして、私は一人、澱んだ池を見つめ続ける。澱みの中で、私だけがその動かない水に映る自分を見つめ、やがて世の中の流れからも、自分自身からも、完全に孤立していくのを感じながら。

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**終**

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