病院の白さ
河原 「そういえば入谷、前歯欠けたの治しに行ったのか?」
入谷 「行ってない。」
内田 「だめじゃないの!!そうゆうのは引き延ばすほど良くないんだよ!!なおさら!歯なんて一生物なんだから!」
入谷 「えーでも私、歯医者ってすごく苦手なんだよなー。椅子に縛り付けられて、私の口元がビカビカに照らされてさ…。急所さらしてるのに動けないのが嫌なんだよ。こんな映画あったよな。ちょっと怖いヤツ。」
河原 「時計仕掛けのオレンジじゃないか?」
内田 「あれはルドヴィコ療法って言うんだよ。」
入谷 「何でもいいけどさ。病院自体落ち着きなくってさ、行く気になれないんだよな。」
河原 「その気持ちは分からんでもないな、特に歯医者は。自分じゃ分からない磨き残しとか汚れとか、何もかもお見通しでなんか申し訳なくなってくる時があるかな…。まあ行かなきゃどうしようもないから行くけど。」
入谷 「私、あのライトがだめだ!まぶしい!」
内田 「しょうが無いでしょ、理にかなってるやり方なんだから!」
河原 「分かってはいるんだが、逃げ場がない感じがしてなあ…。UFOの光線みたいに、浴びたら動けなくなるみたいでな。」
内田 「言いたいことは分からんでもない。私は自分じゃどうしようもないところをプロフェッショナルにやってもらうって意識でいるから、嫌だとかはないけどね。」
入谷 「じゃあさ、周りはめちゃくちゃ暗いんだけど、口の中照らすライトは同じなのはどう?病院のヤな所は全部真っ白白な所にも原因あると思うんだよね。せっかくならおしゃれな感じにしてもいいんじゃない?」
河原 「落ち着くって印象与えたいなら、木目だとか土壁なんか使ってみたりしてさ。」
内田 「清潔感なくなるなあ。」
入谷 「清潔感がありすぎるのが嫌なんだよ。」
河原 「あの青っぽい白じゃなくて、温かみのある白をつかって欲しいんだ。そしたらずいぶん落ち着くからさ。」
内田 「清潔感の話からずれるんだけど、江戸川病院って知ってる?」
入谷・河原 「知らない。」
内田 「調べてみて貰うと分かるんだけど、私たちが知ってる病院とイメージがかなりずれてる場所だと思うんだよ。面白いけど。」
入谷 「うわ、すげー派手!!CT室にゾウがいる!!!!」
河原 「落ち着かないな…。」
内田 「そうなの落ち着かないの。まあ、この病院がかなり個性的ってのもあるんだけど。でも落ち着かないって私たちの中にある病院のイメージと違ってるからだと思うのね。病院ってイメージを崩しちゃ行けない場所だと思うんだよ。たとえそれがリラックス出来る様な工夫がされていたとしても。健康に関わる場所だからこそ、固まっているイメージを踏襲しなくちゃいけない。」
河原 「ジャンルが出来ちゃいけないってことか。」
内田 「そうなんです。リラックスだとか落ち着くとかも大事なんだけど、あの真っ白な壁と床から出る緊張感も必要なんだよ。そう思うと必要以上の清潔感って厳格さも感じられてかっこいいと思わない?」
河原 「その厳格さに頼ってる部分もでかいよな。」
内田 「真っ白で全部見透かされてる感覚も悪くはないと思うんだ。だから早く入谷は歯医者を予約しようね。」
入谷 「…。」