26話　ウルーガ２

26話　ウルーガ２


「ジャスティスお前……あの幻の森 （ファントムフォレスト）を通ってきたのか？！」

　ジャスティスの話を聞いたウルーガは驚いたように目を丸くした。

「は、はい……。なんか本当に幻（まぼろし）でも見ているかのようでした」

「そうか……」
　ウルーガは少し俯いて何かを考えるように顎に手をあてた。ジャスティスを上目遣いでちろりと見上げ、
「母に聞いた話だが」
　前置きするように言うとジャスティスは続きを促すようにウルーガを見た。

「まだドラゴンがいた時代には、あそこには『村』があったらしい……」

「えぇ？！」
　ウルーガの言葉に驚くジャスティス。
「それってシエンタ村って言いますかッ？！」
　食い入るようにウルーガに詰め寄る。


「……そこまでは知らない」

　ウルーガは少し困ったように首を横に振った。

「そう……です、か」

　残念そうに俯くジャスティス。

　そんなジャスティスに気を遣ったのか、

「……ジャスティスが村を見たのは、幻じゃなくて何か伝えたかったのかも知れないな」

　と、慰めるように言うウルーガ。

「そうだと、いいんですけどね」

　ウルーガの気持ちを察したジャスティスは照れたように笑った。



「ーー休憩所まで少し急ぐぞ」

　少し空を仰いだウルーガは急かすように言い、ジャスティスが頷くと、二人は急くように森の中を進んで行った。その途中でウルーガの足が急にぴたりと止まる。


「ウルーガさん、どうしたんですか？」

「……ジャスティス、少し下がっていろ」

　ウルーガは足を肩幅に開いて腰を落とし、目の前で腕を交差させてジャスティスを庇うように仁王立ちの姿勢をとった。

「……ウルーガさん？」

　ジャスティスが首を傾げた途端、


『…ヂ、ヂゥウウゥ！！』

　巨大な――体長七十あまりありそうなネズミのような生き物が三体、茂みから飛び出してきた。

「ーーッ、なにあれ？！」
「……シッ」

　ジャスティスの言葉を短く制するウルーガ。

「……アイツらはビッグラット。この辺を縄張りとしている」


『ヂ、ヂュウウゥ！！』

　ビッグラット等は威嚇（いかく）しているのか、牙をむいて今にも飛びかからんばかりだ。ジャスティスがそう判断して双剣を抜く前にビッグラットは襲いかかってきた。

「ー…ッ、」

　衝撃に備えるジャスティス。

　だが、ビッグラットからの攻撃はなかった。

「ウルーガさん！」

　ウルーガが、腰を落として腕を前に交差させて防御していたからだ。

「ーーウルーガさん、大丈夫ですか？！」
　ジャスティスはウルーガに駆け寄りビッグラットとの間に入って、双剣の柄で魔物らを気絶させた。

「このくらい、大丈夫」
「でも……ッ」

『大丈夫』と言うウルーガの腕には所々ではあるが、ビッグラットによる咬み傷や引っ掻き傷がある。

「ちょっと待ってください」

　ジャスティスは『癒し』の法術、キュピレイを唱える。腕に翳した手から淡い光が産まれ、ウルーガの傷口を跡形もなく治した。