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【詩】自鳴琴
風が吹くことも
風が吹いていることも
あたりまえのことだった
長さの異なる金属片が
規則性に沿って並べられた
突起により弾かれる
祈りの声は届くのか
祈っていなくとも
声を聞くものはいるのか
想いは金属ではなく
光と闇の破片であろう
近づく力と遠ざかる力が同時に
だから聞こえる
耐え難い日常と耐え続ける日常
魔法という小箱には
魔法はなく
響くさきに答えを追い
曖昧な根拠を問う
奏でられるのは美しいメロディ
目を背けられても
自分たちだけの理由で生きていく
双子のわたしの右の顔と左の顔
巻かれたゼンマイがシリンダーを回し
メロディの時間が始まる
愛することも嫌悪することも
美しいと思っていたメロディを
哀しいものに変え
自縛の嵐が愚かに吹き荒れる
自ら鳴り響くように思えても
弾かれてある現実に気づくのは
繰り返される過ちなのか
弾かれた切片が音なのか
弾く突起がそれなのか
黴臭い部屋に舞い戻ると
いくつもの正しさが
軋み始める