インフィニティ国際学院アカデミア講座 第4期絵本研究ゼミ~Homework①~
第1回の講義を受けて、
翻訳の視点で見直して絵本を1冊用意すること。
今回私が用意したのはこの絵本。
⑴書籍情報
オリジナル
『The Story of FERDINAND』
Author Munro Leaf. Illustrated by Robert Lawson
First published in 1936 by The Viking Press in Canada
『はなのすきなうし』
マンロー・リーフ 文 ロバート・ローソン 絵 光吉夏弥 訳
1954年12月10日初版発行/1994年6月15日第35刷発行
岩波書店
『マンロー・リーフ』
1929 年、アメリカで世界恐慌が始まった頃、彼はボストンの中等学校英語を教えていました。その後、出版社で編集者として働き始めます。
『フェルディナンドの物語』は、彼の友人であり、この絵本のイラストを描いたロバート・ローソンのために書かれたものです。スペインの田舎に住む、闘牛として戦うことよりも、花の匂いを嗅ぐことが好きな、心優しい雄牛の物語です。
フェルディナンドが平和主義者の象徴とみなされる人もいたため、当時クーデターが起き、内戦中だったスペインでは発禁となり、ナチスドイツではプロパガンダとして燃やされたりしましたが、暗い世相とは反対にこの絵本はとても人気があり、アメリカでは『風と共にさりぬ』を抜いてベストセラーになりました。現在も海外で60冊以上翻訳されており、一度も絶版になったことはないそうです。
『ロバート・ローソン』
アメリカの児童書の作家およびイラストレーター。第一次世界大戦では陸軍迷彩部隊の一員でした。彼は「ファンタジーとユーモア」の才能があり、赴任先のフランスで沢山の子ども達を音楽ショーなどで喜ばせたそうです。その後、マンロー・リーフと出会います。
リーフは機知に富んだ独創的で作家でもあるロバートに『フェルジナンドの物語(はなのすきなうし)』のイラストを頼みました。モノトーンの力強いイラストこの絵本でロバート・ローソンは、フェルディナンドを現実の風景に配置しています。
手押し車に乗ってマドリッドに連れて行かれるフェルディナンドの場面では、アンダルシアの街ロンダの景色を忠実に再現しました。
また牧場に出てくるコルクガシの木に、果実のようにコルク栓を実らせ、摘み取って瓶に詰める準備ができている木のようにユーモアたっぷりに描いています。
㊟ 私自身もコルク栓というものは、この絵本を見てコルクの木になる実だと思っていました。
『光吉夏弥』
日本の翻訳家・絵本研究家・舞踏評論家。児童書、バレエの入門書などの翻訳を数多く手掛けました。日本少国民文化協会に所属しながらも、天皇制の下での軍事侵略を肯定せず『近代国家に必要とされるのは子どもの独自の世界観を認めること』という信念を貫きます。
戦後、進駐軍の置いて行った海外絵本を大量に神田で購入しコレクションを数多く持っていたため、同じく会員の石井桃子が岩波コレクションを借りる形で1953年岩波書店で『岩波子どもの本』として発行しました。
岩波の社外監修者。1954年『はなのすきなうし』を、また同シリーズにて『ちびくろさんぼ』などの翻訳も行います。絵本の目利きで日本への翻訳本を数多く手がけたパイオニアのひとりです。
⑵選本理由
前回『ちいさいおうち』の翻訳について学び、石井桃子さんのレクチャーの際、光吉夏弥さんのお話を竹内先生がされていて、同時期に発行された『はなのすきなうし』を思い出し、深堀してみたいと思たためです。
私がこの絵本が好きな理由は、フェルジナンドが『そのままでいいんだよ』と肯定されているところです。そして、そんな彼を温かく見守る優しいお母さんはとても素敵だと思います。
この絵本に出会ったのは社会人になってから。それまでは闘牛というと、獰猛なウシと華麗で勇敢なマタドールの対決というイベントに対してロマンを感じていましたが、この絵本を手にとってから、相対する『ウシ側の目線』というもの考えるようになりました。
私は生粋の道産子(北海道育ち)です。親友の実家は牧場を経営していて、緑の牧場でのんびり草を食む彼ら姿や、生まれたばかりの純真無垢な瞳の子ウシをよく見せてもらっていました。闘牛と乳牛はもちろん飼育する目的は違いますが、ウシと言えど種類が違うだけでこんなに役目が違ってくるものなのかと感じたからです。
特にラスト、フェルジナンドを、あの穏やかで優しい風が通り過ぎる花の牧場へ返してあげるという粋な計らいも、ユーモアと温かみがある私の大好きな物語です。