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複雑性トラウマ<30年前、体に刻み込まれた痛みの記憶①>

ーーーー臭い。

腐った臭いがする。

うぅ・・・


目を覚ましたのは何年振りだろう・・・

少なくとも、数年とかそういうレベルではないのは分かる。


ずっと、寝てたのかな・・・

ぼうっとするその目をこすりながら、私は立ち上がった。

辺りを見渡すと血の世界が広がっている。

なんだろう・・・

なんだか、ふかふかしている。

ふと、足元をみるとギョっとした。


心臓の壁だ!

(!?)

目の前に広がるのは、私の心臓だった。

ずーーっと、遠くまで、赤黒いような地面が広がっている。

それだけじゃない。


痛々しい、まるでナイフで刻まれた大小様々の傷がある。

無数に引っかかれた跡だ。


傷は、膿んで腐っているものから、

新しいものまである。


(・・・・・)

私は立ちすくんだ。


見渡す限り、傷だらけだからだ。


(これは、、、一体・・・)

私は何をどうすれば良いのかわからず、

その場に立ちすくんだ。


「ひどい臭い・・・」


ふと気づくと、なんだか体が重い。


「なん・・・なんだ?」


手足を動かしにくい。

・・・鎧だ。

私は、鎧を身につけていた。


そう、私の名前はジャンヌダルク。


はっきりしたことは覚えていないが、

どこかで眠らされたらしい。


私は30年の月日を、眠っていたらしいのだ。

直感でそれはわかった。


「・・・っう・・・」


身体中がズキズキする。


私はまた、その場に崩れ落ちた。

全身に力が入らない。


左の腰には剣を携え、小さな袋もある。

「これは、なに?」


その袋を手に取り、そっと開けると。


それは塗り薬だった。


手の平の大きさの、その薬は半分だけ残っていた。


「私は・・・何をしていたんだろう・・・」


まだぼんやりしている頭を振り絞って、

なんとか状況を把握しようとした。


後ろを振り返ってみても、景色は同じだった。

赤黒く、どんよりとした地面がどこまでも続く。

それはヌメッとしていて、

ところどころに膿がたまり、

無数の傷跡が見られる。


地平線の彼方まで、その光景は続いている。


私はもうその場に倒れこんだ。


「もう無理だ・・・」


おそらく、一つ一つ、その傷を修復しようと思っていたのだろう。

私は傷に塗り薬を丁寧に塗って回っていたのだ。


少しずつ思い出してきた。


最初の頃は、傷がまだ新しかったので、

薬を塗ればすぐに治っていった。


だけども、修復のスピードが追いつかなかった。

猛烈な勢いで、私の大切な心臓を傷つけるものがあった。


世界の終わりとも言えるような、

B-29の空襲のような、

そんな勢いで、真っ暗な空から、ナイフが無数に落ちてきていた。


大小様々のナイフは

ザクッ!!!

ザクッ!!!と音を立てて私を傷つけていく。


なるべくその攻撃を防ぎたかった私は、

できる限りの反撃をしていたが、


もう、、、

その攻撃の威力に圧倒され、、、


力尽き、

その場に倒れて気を失ってしまったのだ。


いや。


空から「私の手」が伸びてきて、

「私の首」を掴み、

窒息寸前で気を失ったのかもしれない。


いずれにせよ、私は、もう絶望して

その場で眠りについていた。


そんな記憶がうっすらと蘇る中、

私は力が入らないその体をごろんと仰向けにした。


「・・・つらいなぁ」


乗っていた馬はどこかへ行ってしまったし。

仲間はここには、誰もいない。


ーーーー私の声は。

誰にも、届かないーーーー



昔は、仲間がいた。


友達もいた。

家族もいた。


でも、今は、ここに誰もいない。


あるのは無数の傷跡と、

腐敗した臭いだけ。


頭がぼうっとして、

また気を失いかけたそのとき。


地平線の向こうの方に、

真っ暗な、大きなブラックホールのような穴が空いた。


なにか・・・脅威が侵入してくる・・・


私はもう動けなかった。


何もなす術がなかった。


殺される。

私はもう死ぬんだ。


ボロボロになった体で、

私は覚悟を決めた。


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