『The White Lounge』新潟公演ライブレポ―ト
注意:当ライブについての大規模なネタバレを含みます。
開演前
ステージの上にはルームツアーを彷彿とさせるような家の中をイメージしたセット。セットの後方にオーケストラが待機しており、開演前になると楽器の準備をしていた。
白いスモークのようなものを焚いているらしく、全体的にうっすら霧がかかったような薄暗い印象。(映像に携わっている知人曰く、カメラの移りや光の演出の見栄えがよくなるので、多少のスモークを焚くことがあるらしい。新潟は撮影機材入ってなかったので、おそらく見栄えのため?)スモークがグッズ販売をしているロビーにも漏れ出ていた。
ジャズ調の音楽が流れており、固い漆器の音(グラスを交わしているようにもお皿を洗っているようにも聞こえた)や口笛の音が時折混じる。
また、これは勘違いかもしれないが、甘いようなツンとくるような不思議な良い香りがステージの方向からしていた。
開演前だが、セットには数人のダンサーさんたちがいて、まるでそこで本当に暮らしているかのように動いていた。ベランダで談笑したり、バーカウンターで一人たたずんでいたり、ソファに座って女性を口説いたり。二人組の男女が、ステージにふたつ付けられた客席へ降りるための階段を、息をそろえて降りていた。客席とふれあったりもしていた。ダンサーさんたちはいずれも白い衣服を身に付けており、顔には銀色の仮面をつけていた。舞台からはけたり戻ったりを繰り返しており、人の入れ替えはあったが、大体常に3~6人ほどのダンサーさんたちが舞台上には残っていた。
開演が近づくと、ライブを行う上での注意を日本語と英語の両方でアナウンスされた。5分前に目覚まし時計のようなけたたましいアラーム音が鳴り、ホールの中の電気が消灯される。(この音は統一されていないようなので、県民会館特有のものだと思われる)
依然としてダンサーさんたちがセットの中で生活を楽しんでいる。そこに、ステージ左端の白い扉から若井、藤澤が入室。そのまま二人並んで左端に置かれてたギターとキーボードを手にする。若井はいつもの定位置には移動せず、ずっと藤澤の隣にいた。仮面をつけており、ダンサーさんたちと差別化はされていない。
そして、ガチャリと扉が開く大きな音がして、白いハットをかぶって大きなジュラルミンケースを持った大森がステージ中央の扉から登場。
セットリスト
~第一幕~
1.未発表曲
大森が入室すると同時に開始。前奏はなく、いきなり歌いだしから始まった。マイクは手持ちではなく、ヘッドマイクのようだった。そのせいかは不明だが、音質が荒く音割れが激しかった。高音の響きはとてもきれいだったのが印象に残っている。
知らないメロディ、知らない歌詞が聞こえてすぐに未発表曲だと気づいた。けれど、歌詞を見ると今回のツアーのために書き下ろされたのかなと言う感じがする。
そこまで歌うと、曲は間奏へ入る。
大森が部屋の中央へ進むと、テーブルの前に立っていた、シャンパンらしき飲み物を持った女性に話しかけられる。ジュラルミンケースを机の上に置いて、女性の問いかけに答える大森。
女性「どこから来たの?」
大森「どこって……わからない」
女性「まあいいわ、楽しんでいって!」
ステージを移動しながら語り掛けるように歌う大森。曲調は明るく、喋るように歌っている部分がいくつかあった。ドラムとピアノの音がよく聞こえた。
いつの間にか思い思いに生活を楽しんでいたダンサーさんがステージ中央に等間隔にならんでいる。大森を中心に、ここからのサビは激しいダンス。ほとんど覚えていないが、走るような振付があったのはぼんやりと記憶している。日常を懸命に生きている、或いはなにかを必死につかもうとしているような印象を受けた。
歌詞が終わるとともに音楽もピタリと鳴りやみ、暗転。
大きく息切れした様子の大森だけを蛍光色の緑がかったスポットライトが妖しく照らす。大森はそのままステージ中央にある冷蔵庫を開くと、中から緑色のペットボトルとコップを取り出す。この時、わざとらしく何度も咳き込んだり喉をならしたりしていた。突発性難聴のニュースもあり、調子が悪いのかと心配したが、別の講演でも同じ行動をとっていたことと、これ以降は咳き込んだりしていなかったので、多分演出。
冷蔵庫の扉は閉じず、飲み物を持った大森はゆっくりとステージ右端のバーカウンターへ向かう。バーカウンターには男性のダンサーが一人たたずんでおり、グラスを拭いているようだった。大森は一番左の椅子へ腰かけ、ペットボトルのふたを開けてコップに水をそそぐ。
2.Folktale
若井、藤澤はいまだ仮面のまま、ステージの左端で楽器を演奏している。
コップは手にしたまま、バーカウンターにいた男性ダンサーと目を合わせ踊りだす。男性とのダンスが終わると、歌いながら部屋の中央にある長方形のテーブルへ移動。右の横辺の部分にあった椅子に着席。左の横辺に座った女性と上半身だけのペアダンス。机にもたれかかったり、肘をついたり、星野源の『SUN』にでてくるダンスのような振付だった。
2番になると2階のセットへ移動し、左側にある階段の手前で手すりを使ってひとりで踊りながら歌唱を続ける。曲の終盤になると階段を降り、曲が終わるとペットボトルとコップを冷蔵庫へ戻して、ここでようやく冷蔵庫の扉が閉められた。
静寂の中、テレビのリモコンを手に取ると、ステージの窓を模倣したモニターに向かってリモコンのボタンを押す。ピッと起動音が鳴り、ステージ全体に砂嵐の映像が投影され見えなくなる。ダンサーさんが早送り、早戻しされているかのようにステージ上を歩いているのが見えた。
砂嵐が終わりステージ上に光が戻ると、バーカウンターがステージの裾の方へ動く。大森はバーカウンターの後ろにあったステージ右奥の部屋へはいると、そこにあった机に座り、机上にあったタイプライターに紙をセットしたのちにタイピングを始める。タイプライターを打つSEが会場に響いて、バイオリンのようなか細い音がかすかに聞こえる。大森はどうやら手紙を書いているようで、その内容を語り始める。宛て名は不明。
大森「お久しぶりです。お元気ですか? 僕のことを、覚えていますか? 僕はあれからずっと、君のことを考えています。でも、考えれば考えるほど、わからなくなるのです」
3.君を知らない
タイプライターの打鍵音が続く中、朗読の台詞に続けてゆっくりと歌いだす。歌詞をそのまま打っているのか、二番に入るまではずっとタイプライターを打ちながら歌っていた。
一番が終わると席を立ち、タイプライターにセットしたものか執筆した手紙かわからないが、紙の束をその場にばらまく。ステージ左端には女性ダンサーがおり、二番はその女性とペアダンスを踊りながら歌う。体育でやる背中を伸ばす運動みたいな、お互いの身体を持ち上げるような振りがあった。大森とのペアダンスが終わると女性ダンサーは一人で踊りだす。バレエのようなしなやかで美しいダンスだった。
曲の途中、ステージの左側から金髪ロングの別の女性ダンサーが現れる。手紙の宛先はおそらく彼女。街灯の下で大森のばらまいた手紙を拾うと、悲しい顔で手紙を読み、それをぎゅっと胸に抱きよせる。
ラスラビはその女性ダンサーとまるで恋人のようなペアダンスを披露する。社交ダンスのようなだった。けれど、触れ合うというよりもすれ違うような振り付けが多かった。手紙の内容といい、おそらく彼女とは破局しているか死別しているかのどちらかなのだと思う。音楽がやむと女性ダンサーは舞台からはけ、大森だけが残る。
大森は静かに、ステージ中央にあるテーブルに近づいて、客席から見て中央の席に座る。そして、碇ゲンドウみたいな感じで手を組みながら、比較的明るい声で話し始める。
大森「幸せが逃げるよ」(大森の声に合わせて女性の声が被さる)
大森「そう、君は良く言っていた。幸せが逃げるよって。……また、君と、踊れたらいいのに。そしたら、どんなに幸せだろう。あの頃みたいに」
4.ダンスホール
テーブルに肘をついたまま、頭サビをアカペラで歌い始める。
途中、「君がいるから……」と歌ったのちに数秒押し黙って、また「君がいるから愛を知ることがまたできる」と続けていた。「大好きを歌える」まで歌いきると、今までのシリアスな雰囲気から一転、ポップな前奏と共に明るくてきらびやかな照明がステージを華やかに照らす。
ステージ左端から白いロングエプロンを付けた若井、藤澤が白いテーブルクロスをもって登場。机にテーブルクロスを敷くと、藤澤がステージ右端に置かれていた食事やドリンクが載ったワゴンからワインとグラスを運んでくる。客の大森と給仕の若井藤澤、という構図。
大森はひとりで歌いながらテンションが徐々にあがっていく。ついに一番サビになると、テーブルの上に立って踊り始める(既存の振付とは少し違うような感じの振付だった)。
若井、藤澤は慌てて大森をたしなめ、どうにかしてテーブルから降ろそうと大森のスーツを引っ張ったりする。この時、客席に向けて「なにやってんだよコイツ!」みたいな身振りや表情をしていた。
大森をテーブルから半ば強制的に引きずり下ろし、ほっと溜息をついた二人。なのに二番サビに入ると今度はふたりがステージの上で踊り始める。エプロンは脱ぎ去り、完全に給仕としての役割を放棄した様子。
間奏に入ると、テーブルをステージ前方へ移動させてテーブルの上に座り、三人でメニュー表などを使いながら踊る。
曲が終わるとハッと我に返ったのか、若井が慌てた様子で「急いで消さなきゃ!」と叫び、暗転。再度ステージを砂嵐が包む。
(若井の台詞ですが、公演ごとに「片づけなきゃ!」や「早く早く!」など違いがあったようです。ここでいう「消さなきゃ!」は、給仕なのに客と踊ってしまったのでその証拠を隠滅しなければ! という意だと捉えました。)
5.ツキマシテハ
照明が力強い赤色に変わり、暗いステージを攻撃的な鮮やかさで照らす。雷のゴロゴロとした音のようなものが響き、窓の外を鋭い光が何度も瞬いていた。藤澤、若井はそれぞれソファに座ったりしながら楽器を演奏していた。
ステージ左奥の白い扉から大森が歌いながら登場。「クソッ……」とつぶやいたり、舌打ちを数回していた。外は雨が降っていたのか、何度か雨粒を払うようなしぐさをしてから、着ていたロングコートを脱ぎすて、傍にあった椅子を蹴倒す。
1番の終わりあたりからガタイのいい男性ダンサーさんが二名、ステージ右端から登場。大森は彼らに立ち向かうが、羽交い絞めにされたり、ふりはらわれたりしてしまう。また、大森が自由に動くことを阻止するような振付をダンサーさんがしていた。セットにある大きなテーブルを大森がステージからどかすような動きがあった。
全体的に怒りでどうにかなってしまいそうな声色で歌い上げていた。感情が強くこもっていた。
6.Coffee
ステージの二階右側にあるベランダへ移動。眼鏡をかけ、小さなテーブルの上にあるレコードのスイッチを入れる。小さな音で『They are』の頭がすこしだけ流れる。大森は黙ってそれを聞いている。
少したって、女性(『君を知らない』やほかの曲で恋人のように踊っていた人ではない)が二階へのぼってくる。手にはマグカップをふたつ持っており、その一つを大森へ渡すと二人してテーブルに腰かける。この時には『They are』は消されてしまっていた。
女性「ブラックでよかった?」
大森「うん、ありがとう」
女性「牛乳、まだ少し余ってたんだけど、(賞味期限が)怪しかったからやめておいた」
大森「そっか。……うん、……おいしい」
大森がカップに口をつけて少しコーヒーを啜り、本当においしいとは思っていなさそうな声色で感想を述べる。
女性「私も飲めるかな」
大森「ごめん、新しいの買っておけばよかった」
女性「ん? なにを?」
大森「ん? いや、新しい牛乳」
女性「ああ、牛乳ね。いいよ、大丈夫」
大森「飲めないでしょ」
女性「飲めるよ。……うわ」
女性が一口啜るが、とてもじゃないが飲めない、と言いたげなしぐさをする。全体的に話が上手に通じ合わない=大森が相手の話をあまり聞いていないような感じがした。
大森「やっぱり買ってこようか?」
女性「ううん、大丈夫。行ってる間に冷めちゃうでしょ?」
大森「そっか。……たしかに」
ふたりは笑い合う。
コーヒー=二人の関係、牛乳=相手のためにしてあげたいことや相手を思ってする行動、として、「コーヒーが冷めてもいいから君のために牛乳を買ってきてあげたい」大森と、「牛乳はなくてもいいからコーヒーを冷ましたくない」女性、という構図に見えた。
ふいに女性が肘をついて「そういえば、さっきの話なんだけどね……」と話し出すと、言葉の続きにかぶせるかのように音楽が流れ始める。
大森は席を立ち、二階から階下を眺めつつ歌う。女性は大森がまだ座っているかのように、もういない場所に向かって話しつづけている(音楽の妨げにならないように口パクで)。
歌詞にリンクさせるように、女性のほうを振り向いたり苦しそうな仕草をする。セットの一階に三組の男女のダンサーが登場、しっとりとジャズダンスをする。
一番が終わり間奏中、女性の声が再度聞こえるようになる。未だ話し続けている女性は、ガーデニングの話をしだす。
女性「この間のきゅうりもパクチーも、ちゃんと世話したのになぜか枯れちゃった。次はミニトマトにしようと思ってるの。簡単だし、かわいいし、おいしいでしょ? 」
これは関係あるのか不明だが、大森はトマトが苦手である。もしこれが意図的なものであったら、相手が苦手な野菜を育てようとする=女性側もまた大森の話を聞いていない、という演出なのかもしれない。
二番が始まると再度女性の声は聞こえなくなる。あくびをして眠そうな仕草を見せた女性はテーブルに上半身を伏せて眠ってしまう。大森は後ろの手すりにかけてあったブランケットを女性にかけて、一階へ降りていく。
一階のペアダンサーたちは、愛し合っているようなすれちがっているような絶妙な振付で、曲の終わりまでしなやかに踊り続ける。女性は最後まで眠ったまま、電気がふっと消えて暗くなる。
7.ニューマイノーマル
大森がステージ右端へ移動。客席に向かって語りかける。
大森「伝えたいことはいつだって伝わらない。僕たちはいつだって、伝えたい気持ちはわかっていて、伝えたい言葉があるはずなのに」
電話をかけるような仕草をすると音楽が始まる。
普段演奏されるニューマルとは少しアレンジされていた。三組ほどの男女がステージに出てきてセットのあちこちに散るが、その手にはスマホが握られており、それぞれが誰かを電話をしている。大森は『Coffee』の女性とペアになっており、スマホではなく受話器を手に持っていた。一貫して、大森を含む全員がスマホに夢中で、お互いの身体や顔を見ていないという振りが印象的だった。
ここらへんの歌詞がとても良く合う演出・ダンスになっていた。
若井藤澤のソロの部分はカット。というかその部分は、電話をしている人々の会話がごちゃ混ぜになって聞こえてきた。相手への報告、挨拶、相談、相槌。いろいろなもので溢れていたが、大森と女性はなにやら口げんかしているようだった。
女性「今度会う約束だけど」
大森「ごめん! その日予定入っちゃった」
女性「えー! いつもそれじゃん!」
ラスサビに入るとほかのペアダンサーはステージから捌け、大森と女性だけがステージに残る。大森はステージの中央で客席を見るように立ち、女性との電話に集中している様子だった。二階にいた女性が階段を降り、徐々に大森に近づく。そしてそのまま大森にバックハグ。驚いたような大森と笑い合い、ペアダンスを始める。
歌詞に合わせて女性と恋人繋ぎ。口げんか中や『Coffee』で感じた気まずいような雰囲気はそこにはなく、お互いを愛し合っている感じが強く伝わった。
音楽が鳴りやむと、大森はおもむろにひざまずいてポケットから指輪を取り出し、女性に向かって箱をあける。プロポーズの言葉はなく、息遣いのみで表現された。女性は驚いた顔をして口を両手でふさぎ、感激した様子で大森を見つめる。
女性「ありがとう……!」
大森「っ、……こちらこそ……!」
プロポーズが成功すると、はけていたダンサーさんが出てきて声を合わせて「おめでとう!」と二人を祝福。幸せムード全開でそのまま次の曲へ突入。
8.PARTY
大団円、という感じだった。
途中で四枚の白い扉がステージ右端から登場。それぞれトランプのマークが一つずつ付いていた。(本人確認でつけてもらったリストバンドにも扉についていたようなマークがあった。新潟は♧だった)。大森は歌いながら、ステージに並んだその四枚の扉を次々と開けていく。
ラスサビを迎えると、部屋のセットが真ん中で割れてそれぞれ両端に寄せられる。後ろのオーケストラが丸見えになり、その中に若井と藤澤の姿もあった。ステージ上に縦並びに置かれた扉を大森がくぐり、バンド隊に合流。
大森は最後に客席とは逆の方向から扉を閉め、曲が終わる。
15分休憩
照明が明るくなり、「これより15分の休憩に入ります」とアナウンス。
一瞬ざわめく会場。けれどすぐに、飲み物を買いに行ったりスマホをいじったり各々の時間を過ごしていた。
ステージセットは依然として開かれたまま、後ろのオーケストラが良く見える。楽器隊の人もしばらくは楽器を触ったりしていたが、休憩から5分ほど経つとステージ裏へ帰っていった。
赤ちゃんの泣き声と鳥の声がBGMとしてかかっていた。
ステージ中央に白いベンチ、左端に複数本の街灯が新しく設置される。
~第二幕~
若井と女性(第一幕で大森と絡んだ女性たちとは違う方)がベンチに座って話している。
若井「お花見にはまだ早かったかもね」
女性「明後日には満開になるんだって」
若井「そうなんだ、じゃあぶわぁああって咲くのかな」
若井の演技が絶妙で、ファンも「笑うべきなのかこれ」みたいな雰囲気になっていた。(気がする)(主観です)
若井「あ、あと、から揚げ。おいしかったな。から揚げであんなに感動したの、中学生ぶり」
女性「ほんと!?」
若井「お弁当まで作ってくれると思ってなかった」
女性「お花見って言ったら、お弁当じゃない?」
会話が止まり、二人の間に沈黙が流れる。
若井「そろそろ……」
女性「あの……」
若井「あ、ごめん。先、いいよ、言って」
女性「ありがとう、あの。もし、今週末暇なら、リベンジしない?」
若井「リベンジ?」
女性「今日のお花見のリベンジ。そのころには咲いてると思うから」
若井「あ~~……」
女性には勇気を振り絞って誘ったようなニュアンスがあり、今までの会話的にも二人のステータスは恋人ではなく、女性側の片思いなのかなという印象。
若井はしばらく悩んでいたが、この時の声色が「どう断ろうか悩んでいるとき」のように聞こえた。いろいろな人の意見を見たが、若井側は女性のことを全く意識していない、脈ナシ、という考えの方が多かった。
若井「……ごめん! 用事あるから、いけないや」
女性「そっかぁ。じゃあ、また今度だね」
残念そうな女性の表情につられてか、雨が降り出す。背景のスクリーンに雨が降る映像がながれ、かなり雨が降っているときのSEが聞こえた。若井がベンチから立ち上がる。
若井「じゃあ、そろそろ行こっか」
女性「……うん」
若井「ん? どした?」
女性「ううん! なにも」
女性も立ち上がり、若井を追うように歩き出すが、途中で立ち止まってしまう。歩みを止めた女性に若井は気づかず、ひとりで歩いて行ってしまいステージからはける。ステージが暗転。
照明が明るくなると、第一幕とは一変、黒い服を着て黒いレインコートや傘を持った人々が足早にステージを行きかう。
そこに、白いパーカーのフードを深くかぶった、傘を持っていない大森が、ステージ右端から登場。ふらふらと足元を見て歩いており、途中で通行人とぶつかって舌打ちされる。「すみません」と返した言葉も弱々しい。
おぼつかない足取りでステージを徘徊しながら、ぽつぽつと話し出す。
大森「嫌だな。もう、なにもかも嫌だ。ひとりになりたくて、でもひとりになりたくなくて。……かといって、人と一緒にいるのはしんどいし。でも、誰かにそばにいてほしくて。こんなこと考える自分も嫌だし、もう、なにもかも嫌だ……」
ステージ中央まで歩いた大森が、ダンサーの持つ黒い傘に埋もれて見えなくなる。
9.春愁
音楽が始まると同時にパッと傘が下がり、大森の姿が見える。スポットライトが大森にあたり、ぼんやりと黒く暗いステージの上で大森だけが際立って見える。黒いダンサーたちは大森を囲むように踊っており、傘を使ったコンポラリーダンスの様な振付がとても美しかった。
曲の後半で、若井と話していた女性が白い傘をさしながらステージを通行する。曲の終わりで大森はステージの中央に膝を抱えるように座り込む。女性はそんな大森に後ろから近づくと、大森のほうに傘を差しだす。
雨が当たらないことに気が付いた大森が顔をあげ、女性に気が付くと驚いて立ち上がる。異様にそわそわとして髪や服をしきりにいじっていた。
女性「大丈夫? 風邪ひくよ、傘なくしちゃったの?」
大森「え? あ、いや……持ってこなかっただけ……」
女性「なんで雨なのに、傘ももたずに歩いてたの?」
大森「わからない。その、……雨に、触れてたかったから、とか」
女性「なにそれ、変なの~」
笑う女性。雰囲気からして、二人は初対面ではなく、なんとなく大森は女性に好意を寄せているのかもしれないと感じた。話し方が異様にどもっていて、それが好きな人の前でどうふるまっていいかわからないように受け取れた。
雨がやみ、大森はおもむろにフードを脱ぐ。
大森「でも、思ってたより寒かった」
女性「……ねえ、今週末なにしてるの?」
大森「な、何も」
女性「じゃあ買い物付き合って! どうせ暇なんでしょ?」
大森「暇、だけど……」
女性「別に嫌ならいいけど」
大森「あっ、いや……嫌じゃ、ない」
女性「じゃあ決まりね!」
10.Just a Friend
女性が大森をつれて街中に走り出す。軽快な音楽に合わせて女性との週末デートがステージ上で繰り広げられる。
最初は映画館。二人は真ん中に並んで座る。女性は純粋に映画を眺めて嬉しそうな顔をしているが、大森は歌いながら、どこかずっと落ち着かなそうな挙動をしている。ふたりのほかにもステージ上にはダンサーさんがおり、大森がとなりに座る女性の手を握ろうとして失敗するシーンでは残念そうなリアクションをしていた。
落ち込む大森をよそに、女性は大森を服屋へ連行。シャツかスウェットのどっちが良いか尋ねられ、大森はシャツを選ぶが結局女性はスウェットを選ぶ。大森が選んだシャツはその場に落とされ、そのまま放置されていた。
服屋の次はレコードショップ。黄色っぽいレコードや青色のレコードなど数枚あり、「Shokinouta」、「AIJO TO HOKOSAKI」、「Theater」などのレコードがあった。ここでも大森が選んだものとは別のものを女性は買う。
レコードショップでの買い物を終え、カフェで女性と一服。大森は女性を見つめ歌うが、女性は大森に関心はなく、飲み物をおいしそうに飲んでいる。ペアダンスを踊るが、対称的な動きになっており、まさにすれ違う男女と言う感じだった。
ここまでの演出的に、若井のことが好きな女性のことが好きな大森(大森は女性が若井のことが好きなのを知っている)という構図なのが理解できた。
デートが終わり、まったく大森を見ない女性の肩をやさしくつかんで自分のほうへ振り向かせる大森。
しかし、続く「今日こそは 今日こそは」の部分で彼女は大森に笑顔で手を振り、ひとりで帰って行ってしまう。
大森は呆気にとられてその場に立ちすくみ、去っていく女性に手を伸ばしながら歌声で驚きを演出。「今日こそは~」の伸ばしが「あぁぁ、あ、ああ~~~~!??」みたいな感じで、この曲が一番ミュージカルっぽかった。
女性がいなくなったステージ上でラスサビを歌う大森。緊張から解き放たれたのか感情爆発という感じだった。
11.Attitude
唐突に、ほんとうに唐突に始まった。
テンポが遅く、キーも-2か3くらいになっていて(勘です、疎くて申し訳ない)、通常のものとは別物のような音楽だった。
正直衝撃であまり良く覚えていないが、今までにないくらいカラフルで明るい光の演出があり、ダンサーさん方がそれぞれ個性の輝くダンスをしていた。途中で自転車に乗った大柄な男の人がステージ左端から右端へ横切るが、大森は数秒だけその後ろに乗っていた。
「エゴイズム」の部分はダンサーさんが一列に連なり、歌詞とともにダンサーさんが一人ずつ踊っては脇へはけていく。最後に「ヒューマニズム」で一番後ろに控えていた大森が登場し、前へ出てくる。
最後の一節でステージは暗転。真ん中のライトだけになり、しばらく静止。
12.Feeling
大森を含む全員がステージ裏にはけ、誰もいなくなる。すると、「本番5分前です! いそいでいそいで!」という声(多分藤澤のもの)ののちに開演開始のブザーのようなものが鳴り響く。
若井、藤澤がでてきて後ろの楽器隊と共に楽器の準備を始めると、大森がキラキラとした背広を纏って登場。
ジャズ調の音楽が流れ始め、後ろのスクリーンにブロードウェイの電光掲示板のようなものが映る。演出も含めて映画の撮影なのだろうかと感じさせられた。
エッジボイスが少なめで、比較的さらりとした始まり方だった。
白いシルクハットをかぶったダンサーさんが大森の両脇に4人ずつおり、帽子などの小道具を使ったダンスをしていた。
この歌詞に合わせて、ひとりのダンサーさんが大森に自分がかぶっていたものとは別の帽子を手渡す。しかし、大森はしばらくそれを眺めたのちに軽く首をひねって、帽子を返してしまう。
曲が終わると大森も一緒にはける。ダンサーさんだけが次の舞台の準備として少しだけ残っていた。
13.ケセラセラ
ステージが大きく変わった。
背景には、黒い布地にたくさんの星や月がキラキラとぶらさがっていた。ステージ中央に小さな丸いステージができていた。縁が小さな丸いライトに囲まれており、ピカピカと輝いていた。
若井、藤澤が先にステージ上に姿を現す。若井はステージ右端でギターの準備をしていたが、藤澤はステージ上を歩き回りながら観客にかたりかける。完全に、観客である私たちに話しかけていた。
白いハットや白いステッキ、という小道具も相まって、サーカスの支配人のように見えた。
藤澤「劇場! 私たちは、あなた方をこの一枚の屋根の下、ホールに閉じ込めました!
骨組みだらけの味気ないこの箱も、私たちの手にかかればこんなに華やかでにぎやかな場所に。どれだけ狭い空間も、無限の空間に広がる。故にあなた方は、閉じ込められたことで別の空間へと導かれたのです!……不思議でしょ?
あなた方は今日も綺麗に並んで私たちに目を向ける。同じ音を聞いて、同じリズムで手を叩いて、同じ空気を吸って。……生きている! そう感じますよね?
あなたがそこにいるのを、私がここにいるのを、あなたが感じるように。
劇場! ここでしか体験し得ないことです。頑張っているあなたへのちょっとしたご褒美だと思って、存分に楽しんでください。
私たちは、夢のような現実を、現実のような夢を! 今日も、送ります」
若井、藤澤がお辞儀。会場内が拍手で満たされる。
藤澤の演説の最中にステージセットが完成。絵本のような木の看板が四本ほどステージに散らされている。ほかの小道具にしてはクオリティが低かったが、藤澤の演説といい、「結局誰かの手によってつくられたまがい物の空間でしかない」、ということだろうかと解釈した。
スタンドマイクが運ばれてきて、大森が登場。三人がステージ中央の小さな円形のステージへあがる。
藤澤はキーボードではなくアコーディオンをもって演奏開始。原曲と比べてかなり静かに、壮大にアレンジされていた気がする。ラスサビは特に控えめだった。
演奏が終わるとダンサーさんたちや若井、藤澤は「終わった~!!」「おつかれさま!」「打ち上げいこう!」などと声を掛け合い、ステージ上からはけていく。
大森だけがステージ上に取り残され、寂しそうに皆が行った方向を見つめる。ひとりの女性ダンサーさんが大森に「おつかれさまでした」と声をかけ、大森のハットを受け取り、ステージ上から去っていく。
大森は声をかけられたことに一瞬嬉しそうな顔をするが、女性が去ってまたひとりになると再び悲しそうな表情へ戻る。
14.Soranji
いきなり始まった。
原曲と比べてかなり静謐にアレンジされていて、「大森ひとりだけ」という印象がすごく強かった。
白いスモークがもくもくと出ており、「え、大丈夫? 前列の人にかからない?」という域までスモークで埋め尽くされていたのだけど、後でほかの人たちに聞いたらこぞって「見えなかった」「浴びてた」と言ってたので普通にやりすぎだったのだと思う。
後ろで若井藤澤が楽器隊のステージに腰かけて並んで演奏している。藤澤はフルートを吹いていた。楽しそうに、嬉しそうに大森の表現を見ていた。ラスサビからは気持ちがたかぶったのか立ち上がって演奏していた。
演奏が終わり、暗転。三人がステージ上からはける。
15.未発表曲(Short ver.)
三人だけが再度ステージに登場。藤澤はステージ左端の最初の立ち位置、若井はステージ右寄りにある椅子、大森はステージ中央にそれぞれたたずむ。
ここで第二幕の間ずっと開いていたステージセットが戻り、最初の白い部屋へと戻る。最初の演奏と比べて勢いというかはなく、どちらかというと言って聞かせるような印象を受けた。これはフルで歌わず、最初のさわりだけ歌ってすぐに終わる。
16.フロリジナル
終わりかと思ったら若井がギターのピッチを調整していたため、まだあるなと確信。
Studio Session Liveと似たような始まり方で音楽が聞こえる。
後ろのモニターにエンドロールが流れる。
(ルームツアーの時と同じくダンサー→楽器隊→ミセスのメンバーの順)
1番のサビ前まではしっとり落ち着きながら歌っていたが、サビからは一気にステージ上が鮮やかになる(『ANTENNA』のジャケットみたいにカラフルだった)。演奏も華やかで跳ねるような雰囲気になっており、ハッピーエンド感がすごかった。
ここまでのライブで起こったことを再度行うような演出があった。二階には女性が眠っており、『Coffee』のときのように女性にブランケットをかけ、『Attitude』のときのように男性の自転車の後ろに乗せてもらっていた。『Feeling』で女性に返却したあのハットを、今度は大事そうに抱えていて(今思ったら『ケセラセラ』の最後に大森のハットを回収してくれた女性だったかもしれない、あのくだりを逆再生しただけかもしれない)、全体を通して幸福感がとても伝わってきた。
曲が終わると、若井と藤澤が先にステージからはける。
大森はジャケットを着て帽子をかぶり、白い部屋に入ってきた時と全く同じ格好になる。そして、持っていたカバンを再度持ち、ステージ中央にある、最初に入ってきた扉の前に、観客に背を向ける形で立つ。
しかし、数秒立ちつくしてからかばんに目をやると、ステージ中央のテーブルに戻り、その上にカバンを置く。そのまま手ぶらの状態で再び扉に戻ると、今度はなんの躊躇いもなくドアノブを捻り、眩しい光があふれる扉の外へ足を踏み出し、扉を閉める。
ガチャン、と扉が閉まる大きな音が響く。
MC
ミセスのメンバーとサポートメンバー、ダンサーさんたちがステージの上に戻ってきて、お辞儀をする。観客は拍手で答える。ダンサーさんとサポメンの二人はすぐにはけ、ミセスのメンバーのみが残る。
ここからはダイジェスト。
・あまりに観客が拍手でしかリアクションしないので2回ほど藤澤に声出し促される
藤澤「ここはもう喋っていいんだよ!!」
大森「あんまり喋るタイミングでもないけどね?」
・新潟県民会館での演奏がルムツを最後に約5年ぶり
・夜走りで4時間かけて新潟に来た
大森「あなた(藤澤)ずっと寝てたよね」
若井「ライブハウスを箱で回ってた時みたいだったね」
大森「俺あれ結構好きだった」
・大森若井夜中1時にサービスエリアでアイスを食べた
藤澤「えっ」
大森「これが一番の楽しみですから」
藤澤「ずるい、起こしてよ」
大森「起こさないよ寝てるんだから」
・若井と藤澤が話し始め被る
藤澤「わk…」
大森「なに? 脇?? 脇の話しないで」
・新潟のお米がおいしいと若井熱弁
大森「15分休憩の時も(若井)ご飯食べてましたよ。はけてきて裏であ"〜〜っつって」
若井「細かいディティールはいいのよ」
大森「から揚げおいしい~っていう演技のときみたいにお米おいしい~っていう演技する?」
↓
大森藤澤後ろにはけて若井ひとりだけステージに取り残される
↓
若井「お米!!」(藤澤の「劇場!」風に)(会場拍手)
「お米ひとつぶ!……ひとつぶひとつぶが!……」
「俺今めっちゃ不安なんだけど」
グダグダで終了
↓
若井しめてと大森にいわれタジダジ
大森「米井(こめい)」
若井「米井(よねい)?」
大森「いいんだよ音とか訓とかさ」
・最後のお辞儀 3人でお辞儀する→観客拍手→大森が体勢をちょっと起こして左隣の若井に「え?」みたいなリアクションをとる→観客お辞儀終わったと思って拍手小さくなる→大森お辞儀に戻る→観客拍手 みたいな流れを3回ほど繰り返す(突発性難聴ネタ)
・はけていく時に
若井「ちょっと触れづらいから」
大森「(え?聞こえないという仕草)」
若井「触れづらいって」
大森「(無視)」→数秒開けて「(え?なんかいった?という仕草)」
若井「いやなんも言ってないから」
・若井がボイパ(伝わる人に伝われ)をすこしだけ披露してくれた
ちょっとした考察と思ったこと
色々な人と意見交換をして公演後に考えたことをつらつらと。
今のところ、『The White Lounge』=死後の世界、天国の一歩手前説が一番有力かなと思っています。第一幕で入ってきた大森がやけに咳き込んでいるなどの演出も、歳をとっている人物だという印象付けなのかな、と。そうなるとドレスコードの「白いアイテムの着用」も、死装束とかそういうものなのかなと思ったり。
あとは大森の着用している衣装が所々で変わることや、そのタイミングが砂嵐が入った後、というのもあって、きっと大森の演じている主人公は場面によって変わっているのだろうな、とも。それか時系列が変わっているか。
第一幕とか特に、逆行説をとなえると割と上手くはまる気がするんですよね。『PARTY』を除いて。
プロポーズして、夫婦になって、でも少しづつすれ違ってしまって、なにか二人を引き裂く出来事が起こって、女性を今でも大森がいとおしんでいる……みたいな。
でもこれを推すとなると、15分休憩で流れた赤ん坊の泣き声ってなんだ? となったり。あれ、大森(主人公)が生まれたっていう描写だと考えればいいのかしら。だとしても『PARTY』が難しいか。
これ、「ひとりの人生を死後の走馬灯としてラウンジで眺めている」のか「いろいろな人の人生を走馬灯としてラウンジで見ている」のか解釈が別れそう。というか、どちらもありえそう。
アナログテレビがモチーフになっているのもあって、「アンテナ」をたてて色々な人生を受信している! みたいな説を見たときにすごいなと思いました。あっているかはおいておいて。
また思いついたら書き加えたりします。
具体的な賛否とか、もっと踏み込んだ感想はこちらから。
https://note.com/preview/n10db5720b9b1?prev_access_key=f631e00a82e75605ef4690126f499359
(タイトルで察されるので先に言うと、私は今回のツアーで100%賛の気持は持てませんでした)