心に巣食う悪魔
人生の中のいくつかのタイミングで魔が差してしまうことが何度かあった。
小学校の冬休み。友人の家に集まって、ニンテインドー64の大乱闘スマッシュブラザーズを遊んでいたときのことだ。友達の家にはコントローラーが2個しかないから、それぞれ自宅からコントローラーを持ち寄った。その日友人の家には私を含め5人の男児が集まった。ゲームは4人対戦まで可能なもので、当然、1人余る。4人が対戦している時には1人はそれを観戦しており、4人のうち最下位だった者が観ていた1人と入れ替わる。そのような仕組みでローテーションしていたのだが、私はゲームが苦手だったこともあり、他の4人が対戦しているのを観戦していることが多かった。
そのとき、魔が差したのである。
コタツの下に入り込んで、頭だけ出す形で他の4人が戦っているのを観ていたのだが、段々飽きてきて目を落とすと、そこにはニンテンドー64本体があった。そして、そこから伸びる4本のケーブル、その先にはもちろん他の4人が手にするコントローラーがある。ふと、思った。
これ・・・差し替えたらどうなるんだろう。
悪意はない。純粋な疑問だった。しょうもない疑問のように思われるかもしれないが、その時の私にとっては、他の4人がゲームをしているのを見守ることよりもよっぽど興味深い事柄のように思えた。
思い立ってから身体が動くのは驚くほど早かった。そこに罪悪感などはない。ただの純粋な興味だけがあった。私はコントローラーのケーブルを2本引き抜くと、それらを互い違いに差し込んだ。
するとどうだろう。ゲームをプレイしている4人のうち、2人のキャラクターが奇妙な動きをしている。ステージ上を右往左往してみたり、自ら投身自殺を図ってみたりと実に不可解な行動をしている。それを操作している友人2名も動揺を隠せない様子で、「あれ?え、え?何何何」「ちょっとちょっと」といった具合に阿鼻叫喚の様子だった。
私は画面上のキャラクターの奇行と友人の動揺ぶりがおかしくて仕方がなく、笑いを抑えることができなかった。その様子が見つかり、問い詰められ、経緯を白状したところ、袋叩きに合い、ゲームは10回休みとなってしまった。罪に対して罰がでかすぎるような気もしたが、私は全く不服ではなかった。それ以上に面白い光景が観られたことの方が大きかったからだ。
大人になった今でもそのときの光景は忘れられない。心の中に巣食う悪魔があの時の阿鼻叫喚を思い出して笑っているのだ。そして、この悪魔はその後の人生で何度も顔を出しては私をそそのかした。
この場面でこうしたら面白いものが観れるんじゃないか?お前も好きだろ?
そう囁くのだった。
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