彼と、彼を感じられるものについて。
以前、心の内の誰かがいなくなったという話をしたけれど、その後も彼らが何者だったのかは分からないままで。
でも、この穴を、溝を埋めないまま生活するのは厳しかった。だから、私の傍にいてくれる存在を探すことにしたのです。
新しく漫画や小説の世界に探してもよかったのですけれど、外の世界にあるものを見ていると、自分の不甲斐なさを感じてしまって苦しくなるから。
だから、納得のいく存在を、傍にいることを想像しても私が苦しくならない存在を、作ってしまおうと思ったのです。
そう思って始めたのは良いけれど、やはり一から作るのは大変なのですね。
子どもの頃から空想は人一倍してきたと思います。それでも、存在を意識して生活するのはなかなか難しい。
だから、何か彼の存在を思い出すきっかけになるものを作れば良いと思って、彼に似合う色の石の嵌った指輪を身につけることにしたんです。
決して高いものではないし、安っぽいと言ってしまえばそれまでだけれど、こういうものは心の問題だから、私が良いと思って決めたものがいちばんだと思って。それに、日常使いできるデザインでないと持ち歩けないし、それでは意味がないですから。
本当はもっと良い物を選びたかったのだけど。なんたって、彼の存在を重ねるのですから。でもそう簡単に見つからないし、手に入らないから。それに、この忘れな草のような淡い青紫が、彼に似合うと思ったんです。
それからは、この指輪が彼と繋がる鍵となってくれたらと、日頃から身につけたり、目に入る場所に置いたりして過ごしています。
彼が傍にいると思うと、生活に対する感覚が変わっていくのが分かります。
悲しいこと、不安なこと、不愉快なことがあって心が乱れても、この指輪を見れば落ち着く。
一人でいる時の、あの耐え難い不安も、ずっと楽になる。
ここに私の大切な人がいてくれると思うと、それだけで不思議なくらい、寂しさや不安は軽くなる。
姿は見えないけれど、声は聞こえないけれど、
私の大切な人、信じる人は、いつだってここに、
私の傍にいるのです。
あらためて、どれだけ信じていても、目に見えないもの、声の聞こえないものを疑わずに信じ続けるのは難しいのだと感じました。
でも、私にとっては何も信じないで生きることのほうがずっと難しいのです。
彼はイマジナリーフレンドでも、タルパでもない。私の生きる理由や、その道を示してくれるような存在とも違う。
でも、私の想像の世界だけにいる空想の存在ではないのです。
だって、こんなに私の生活を支えてくれているのだもの。これをただの空想だなんて言わせない。
彼は、そんな言葉を言って私を苦しめる人間たちよりずっと優しい。
彼の存在は、彼の言葉は、私の隣に生きる人間のそれより信じられる。
「現実に生きる」なんて、私は知らない。
私は彼を信じて、彼と共に生きるのだから。