有機化学演習-基本から大学院入試まで-5章解説
はじめに
この章はそこまで重要ではありません。少なくとも東工大の院試では合成項のほうが頻出です。R, S を決定できるくらいの実力があれば問題ないでしょう。
例題5・1
大学受験でやった不斉炭素原子を見つける問題と同じです。炭素についている置換基を H も含めて考えます。炭素についている 4 つの置換基がすべて異なればその炭素は不斉炭素原子、キラル炭素と呼ばれます。このキラル炭素が見つけられなければこの後の問題は一つも解けなくなってしまうのでできるようにしてください。
例題5・2
3 章でやったカンインゴールドプレローグ則と同じです。 わからない人はそちらを復習しましょう。例題 3・2, 問題 3・3 で復習できます。この優先順位付けができなければ肝心の R, S 配置を決められません。できないままにしないでください。二重結合や三重結合の処理は一見難しそうですがそんなことはありません。何回かやれば覚えられるはずです。
例題5・3
教科書 p56 の式に代入しましょう。この問題は院試問題に頻出ではありませんので式を暗記する必要もおそらくありません。
例題5・4
(a)R, S を決定するときはまず炭素についた置換基の順位付けをします。その後に少し難しいのですが四面体を頭の中で回転させることになります。
置換基が 4 つついた炭素は四面体です。その四面体を頭のなかで回転させるのですが、四面体のある面から見たときに奥へと向かう置換基があると思います。その置換基が先ほどの順位付けの 4 番目の置換基になるように四面体を回転させます。すると 1 番から 3 番の置換基は手前にある状態ですね。 1番から 3 番までが右回りなら R体、左回りなら S 体となります。
(b)キラル炭素をもつグリセルアルデヒドの立体配置を問う問題です。立体配置はキラル炭素が 1 つなので R か S かの 2 択です。アからオまですべての立体配置を (a) でやったように決定するのもいいですし解説にあるコツのようなものを覚えておくのもいいでしょう。 R, S をはじめて学んだ人はまず前者の方法で問題を解いて R, S の決定法になれることをお勧めします。
例題5・5
立体異性体の数はキラル炭素の数を n とすると 2^n となります。問題で与えられている化合物の 3-クロロ-2-ブタノールはキラル炭素が 2 つですから組み合わせとしては(2,3)=(R,R), (R,S), (S,R), (S,S) ですね。(2,3) は炭素の番号です。例題 5・4 でやったように しっかりと R 配置になっているか、 S 配置になっているか確認しながら構造を書いていきましょう。実線は平面上、くさび線は紙面奥から手前、破線は紙面手前から奥です。
Fisher 投影式についてですが基本的には中心の炭素の左右にある置換基は奥から手前の向きで構造式でのくさび線に相当します。そして中心の炭素の上下にある置換基は逆に手前から奥の向きで構造式の破線に相当しています。問題では完全にこの規則に乗っ取手はいませんがおそらく炭素を一直線にそろえて見やすくしたのでしょう。例題 5・4 (b) のフィッシャー投影式の書き換えを使っています。実際に自分で R,S が正しいことを確認してみましょう。
例題5・6
例題 5・6 とほぼ同じ問題なので省略します。
例題5・7
まずはキラル炭素を探します。キラル炭素がなければもちろんアキラル(キラルでない)ですし、キラル炭素が 1 つあれば化合物はキラルです。しかしキラル炭素が複数ある場合は必ずしもキラルだとは限りませんから注意が必要です。キラル炭素が複数ありながらもアキラルな化合物はメソ体と呼ばれ分子内に対称面を持ちます。対称面に関して対称であれば回転させたときに同一化合物となりますね。解説にあるようにa, c, e は分子内に鏡のように対象に考えられる面が存在します。こういった場合はメソ体でアキラルとなります。最後に C=C=C の構造には注意しましょう。こちらは軸性キラリティーという特殊な問題です。鏡像が実像と重なり合うのか実際に書けばわかるはずです。
例題5・8
キラル炭素についた置換基の順位を決める。4 番目の置換基が紙面手前から奥に向かうように四面体を頭の中で回転する。1 番目から 3 番目が右回りか左回りかを考える。分子構造がいくら複雑になってもこれは変わりません。ルール通りに解きましょう。
例題5・9
解説参照。軸性キラリティーの詳しい解説です。
5・1
こういう系の問題は対称面を考えればすぐわかります。サッカーボールには対称面があります。扇風機はどうでしょう。プロペラの部分に対称面はありません。プロペラは完全に平面でなく統一された向きに一枚一枚の羽根が傾いているはずです。そこに対称面はないですね。フォークは対称面があります。スケート靴は右足用でも左足用でもいいですが対称面はありません。スケート靴でなくても自分の持っている靴を見れば対称面がないことはすぐにわかります。コンバースなどは対称面があるかもしれませんが、、、
ねじにも向きがあります。らせんに向きがあるので対称面がなくアキラルです。一方のねじ回しの場合はプラスドライバーもマイナスドライバーも体操面がありますね、グリップ部分で対称面がないということもできそうですがここは空気を読んでキラルです。
5・2
今までの知識を使えば解けるはずです。まずはキラル炭素を探しましょう。キラル炭素が 0 ならばアキラル、 1 つならばキラルです。複数以上ある場合は対称面があるかないかを探しましょう。対称面があればアキラル、なければキラルです。
5・3
省略、教科書 p24 などで復習してください。
5・4
例題 5・4 参照。カンインゴールドプレローグ則に従い炭素についた 4 つの置換基に順位を付けます。 4 番目の置換基を奥になるように頭の中で四面体を回転させて、 1 番目から 3 番目の置換基が右回りか左回りかを判断してください。
5・5
名前の通りに書くだけです。命名よりも数倍簡単だと思います。くさび線は紙面奥から手前、破線は紙面手前から奥を表します。
5・6
例題 5・5 にフィッシャー投影式の書き方を示しましたがこの教科書では炭素が一直線に並んでいればそれでいいようです。あとはキラル炭素が R, S のどちらかを判断してフィッシャー投影式でつじつまが合うようにどちらが右で左かを間違えないようにしてください。
5・7
鏡像異性体は鏡うつしにした時に重なる左手と右手のような関係(2R, 3R と 2S, 3S)、ジアステレオマーは 2 つ以上のキラル炭素があった時に互いに鏡像でない異性体のことです。(例 2R, 3S と 2S, 3R) なかでも一つのキラル中心の立体配置だけが異なり、他のキラル中心の立体配置が同じ場合にはエピマーと呼ばれます。同一化合物は回転させて同じであるかどうかで判断できます。
5・8
キラル中心が 2 つありますから 2²=4 通りの立体異性体があると思うかもしれませんが今回は環状構造ですから R,S と S,R は同じですね。回転させれば重なります。よって解説にあるように R,R と S,S が鏡像異性体です。そして R,S (S,R) は分子内に対称面がありますからこちらはメソ体でアキラルです。
5・9
2-メトキシプロパン酸と 2-ブタノールから何が得られるかは大学受験をした人ならばできるはずです。カルボン酸とアルコールを反応させるとカルボン酸から OH, アルコールから H がとれてエステルが生成します。そのエステルにはキラル中心が 2 つですから立体異性体の数は 2²=4 個ですね。(R,R)
(S,S), (R,S), (S,R) です。それぞれのキラル中心が R, S になっているように確認しながら破線とくさび線を書いてください。
5・10
置換化合物を書き出してRSを決めます。
5・11
(a)くさび型と破線を同一化合物に気を付けて書き出していきます。
(b)分子内に対称面があればメソ体でアキラルです。
(c)環反転のやり方ですが置換基をエクアトリアルとアキシアルを変えて時計回りにひとつづつずらしていきます。
5・12
解説参照。メソ体の立体構造を書くには分子内に対称面ができるようにくさび線と破線を書きましょう。
5・13
教科書 p56 の式を使いましょう。重要問題ではないので省略します。
5・14
フィッシャー投影式の炭素の上下の結合を破線、左右をくさび線に直すと立体構造が書けます。そしてキラル中心が 3 つですからリボースの立体異性体の数は 2³=8 個です。
5・15
疑似不斉炭素の問題です。これが院試で出ることは本当にないだろうと思われます。やりたい人だけやればいいでしょう。
5・16
キラルかキラルでないかは軸性キラリティーを除けばすぐにわかるはずです。不斉炭素がないならアキラル、 1 つあればキラル、複数あっても分子内に対称面があればメソ体でアキラルです。できなければ復習しましょう。