無機化学演習-大学院入試問題を中心に-1章解説
1 章 例題
例題1・1
解説参照。リュードベリ定数の問題は頻出ではありません。
例題1・2
解説参照。p 5 の図 14 と方位量子数 ℓ が 軌道の形(s, p, d…)を決定することをおさえましょう。基本的な問題です。
例題1・3
スレーター則の問題です。
[1s] [2s,2p] [3s,3p] [3d] [4s,4p] [4d] [4f] [5s,5p]と軌道が分類されています。条件③、④をよく見ないと例えば(4) の 4s 軌道についての計算を
Z*=30 - (0.35×1+0.85×10+1×18)
としてしまうことがあります。軌道の分類ごとに各電子の寄与が決まるのではなく n, n-1, n-2 と主量子数により各電子の遮蔽の大きさが決まります。このことに注意してください。正しい計算式は問題集に乗っています。
例題1・4
解説参照。すべて暗記するだけです。
例題1・5
解説参照。とても重要な問題なので理由とともに暗記しましょう。
(1)前問のスレーター則を考えれば同周期の右側に行くにつれて有効核電荷が大きくなるのは分かると思います。
(2)イオン化エネルギーの問題は学部時代の受験でもやっているので取り組みやすいと思います。高いエネルギー準位にある電子は不安定なので取り去られやすいことをおさえてください。
(3)p5 図1・4の軌道のエネルギー順序より s 軌道のほうが p 軌道よりエネルギー的に安定なのです。s 軌道も p軌道もどちらも電子の入った軌道ですが s 軌道のほうが p 軌道よりも小さく原子核の正電荷に近いところに存在しています。よって s 軌道のほうがエネルギーが安定化されるので p 軌道のほうが s 軌道よりもエネルギー準位が高くなるのです。
(4)解説参照。これは解けていてほしい問題です。
(5)解説参照。キは窒素で電子配置は1s²2s²2p³、クは酸素で1s²2s²2p⁴です。クでは2px²2py¹2pz¹となっており2px軌道の 2 つの電子はお互いに電子反発の影響で不安定になっておりエネルギー準位が高い状態にあります。よってクのほうがキよりも電子を取り去ってイオンにするイオン化エネルギーが小さくなるのです。タも同様です。 (2px¹2py²2pz¹, 2px¹2py¹2pz² と考えても大丈夫です。)
(6)解説参照。少し頭を使う問題なので初見で解くのは難しいかもしれませんが 2,3 回目以降には溶けると思います。
(7)解説参照。エネルギーバンドの話は例題3・7でも出てきます。ここでは解説を覚えられれば問題ありません。
例題1・6
電子親和力に関する問題です。イオン化エネルギーとごちゃ混ぜにならないように注意が必要です。イオン化エネルギーと電子親和力の定義を思い出してください。電子親和力は放出されるエネルギーです。そのエネルギーが大きければ大きいほど電子を軌道に入れやすくなります。イオン化エネルギーの問題の場合はエネルギー準位が高い電子を取り去りやすかったですが電子親和力の問題の場合にはエネルギー準位が高い不安定な軌道には電子をいれにくくなるので注意してください。
(1)解説参照。暗記です。
(2)解説参照。EA(H)<EA(C) より炭素のほうが水素よりも電子親和力が大きいことが分かります。電子親和力は p15 の解説にあるように基本的には発熱反のですから電子親和力が大きいほうが電子を受け取って陰イオンになりやすいのです。
(3)エネルギー準位が高い軌道というのは不安定です。その不安定な軌道には電子を入れにくいのです。ここで厄介なのが電子親和力が減少していることだと思います。電子親和力とは発熱反応なのでこの値が小さいほど反応が進行しにくいと考えてもらえば問題ありません。
(4)エネルギー準位が高い軌道に電子が入ると電子親和力は減少(反応は進行しにくい)する、有効核電荷が大きくなると原子全体の正電荷が大きくなるので電子との親和性が高い→電子を受け取りやすい→発熱反応なので電子親和力は大きくなる、閉殻、半閉殻は安定なので電子親和力は大きくなる。
この辺りを押さえておけば問題ありません。
例題1・7
(1) 暗記です。
(2)これまでに出てきたイオン化エネルギーと電子親和力の表を使って解く問題のようです。 3 つの電気陰性度についてしっかりと説明できるようになっておきましょう。
1 章 章末問題
1・1
(1), (2), (3) 解説参照
1・2
解説参照
1・3
(3) 半閉殻になったほうが安定
1・4
すべての問題で電子の数を数えましょう。
1・5
(1) 暗記
(2), (3) エネルギー準位が高く不安定な軌道からは電子を取り去りやすい。この場合電子を取り去るのに必要なエネルギーは少なくて済むのでイオン化エネルギーは小さくなる。足腰の安定したマッチョからボールを奪い取るのとヒョロガリからボールを奪い取るのでは後者のほうが楽ですよね。そんなイメージです。
(4)スレーター則を思い出してください。電子の遮蔽への寄与は0.85です。一方原子番号が 1 増えると核電荷は+1 です。よって有効核電荷はこの周期では原子番号が 1 増加するごとに 1-0.85 で 0.15 だけ増加します。有効核電荷の定義はある電子が実際に感じる電荷のことでした。有効核電荷が大きければ大きいほど電子は核の正電荷にひきつけられており安定しています。よってイオン化エネルギーは有効核電荷が大きくなるにつれて増大します。
(5)電子間反発があるとお互いの電子が影響を受けてエネルギー準位が上昇しエネルギー的に不利になります。例題でもやった通りです。
1・6
(1)定義は重要です。丸暗記しましょう。
(2)電子親和力が大きいほうが電子を受け取りやすくなります。電子親和力は発熱反応であるということを繰り返し思い出してください。
(a)リチウムの 2s 軌道に電子を入れるとき電子反発もありますがそれでもエネルギーの高い 2p 軌道に電子を入れるほうが不安定になります。よってリチウムのほうが電子親和力は大きくなります。
(b)Cの電子配置は 1s²2s²2p² であるのに対しNのほうは1s²2s²2p³で半閉殻です。よって電子反発を感じずに電子を軌道に入れることができるCのほうが電子親和力は大きくなります。
(c)解説参照。
(d)Al とSi のいずれも 3p 軌道に電子が入ります。原子番号を考慮すると有効核電荷が Si のほうが大きいということが分かります。よって Si のほうが電子との親和性が高く電子を受け取りやすいです。よって Si のほうが電子親和力が大きくなります。
1・7
(1)省略
(2)省略
(3)これもまた有効核電荷が理由です。1・6 の(2), (d) を参照してください。この教科書、特にこの章ではこのように問題の本質が重複していることがあるので効率よく反復練習が可能です。
(4)繰り返しになりますが電子親和力が大きいほうが電子を受け取りやすくなります。電子親和力は発熱反応であるということを思い出してください。
S の場合は 3p 軌道、O の場合には 2p 軌道に電子が入ります。どちらの場合も方位量子数 ℓ が同じなので軌道の形は一緒です。しかし軌道の大きさを決定する主量子数は 2 と 3 で違います。教科書の解説に書いてある通り 2p 軌道のほうが 3p 軌道より大きさが小さいため電子間反発を感じやすくなるのです。その結果 2p 軌道よりも3p 軌道に電子を入れやすく、 S のほうが電子親和力が大きくなります。
1・8
(1)解説の通りです。
(2)水素のイオン化エネルギーは主量子数 n=1の軌道から n=∞の軌道へと電子を取り去るエネルギーであることとリュードベリの式を知っていれば各値を代入するだけで答えを導けます。
1・9
解説参照
1・10
(1)定義は暗記してください。よろしくお願いします。
(2)解説の通りです。
(3)動径分布関数とは原子の分布を示したものである原子に着目してその周囲に位置する原子の分布を距離 r の関数としてあらわしたものです。回答に図が載っていますがこれは覚えていないと問題を解けません。
1s 軌道は原子核の近いところに 1 つだけ電子の存在確率の大きなピークがあります。 2p 軌道は 2 つのピークを見ることができます。電子の存在しない節(電子の存在確率が0 )であるところも確認できます。よって電子密度の極大を考慮すると 1 つのピークしか持たない 2s 軌道のほうが 2p 軌道よりも前に存在するが、小さな極大値が存在しより 2p 軌道の電子が原子核に近づいて存在する確率が高くなっています。
1・11
何回か既出の問題です。N と O の有効核電荷とイオン化エネルギーが一致しない理由をしっかりと覚えておきましょう。
1・12
(1)
ア:族が大きくなれば主量子数 n が大きくなり軌道の大きさが増大するので原子半径は大きくなる。
イ:解説は (2) を参照
ウ:有効核電荷の影響によるもの。スレーター則を思い出してください。電子の遮蔽への寄与は0.85です。一方原子番号が 1 増えると核電荷は+1 です。よって有効核電荷はこの周期では原子番号が 1 増加するごとに 1-0.85 で 0.15 だけ増加します。有効核電荷の定義はある電子が実際に感じる電荷のことでした。有効核電荷が大きければ大きいほど電子は核の正電荷にひきつけられており原子半径は小さくなります。
エ:有効核電荷が大きいと電子は核の正電荷にひきつけられている。よって電子を取り去るのに必要なエネルギーであるイオン化エネルギーは大きくなります。
オ:原子番号より Al のほうが有効核電荷が大きい。理由は (4) を参照
(2) 解説参照。d 軌道や f 軌道は原子核近くまで乾乳していないために遮蔽効率が悪く有効核電荷が大きくなる。
(3)解説参照。
(4)解説参照
1・13
共有結合半径、イオン半径、van der Waals 半径の定義については暗記が必要。van der Waals 力は原子間に結合がない時の半径なので共有結合半径< van der Waals 半径となる。陽イオン半径は全体の電荷が正なので有効核電荷が大きくなり共有結合半径よりも小さくなる。陰イオン半径は全体の電荷が負であり、通常の原子よりも電子が多いために有効核電荷が小さい。よって陰イオン半径は van der Waals 半径よりも大きくなる。
1・14
(1)解説参照。有効核電荷によるもの。既出。
(2)解説参照。B と Be は軌道のエネルギー差、N と O は電子間反発によるもの。既出。
1・15
元素ウは第三イオン化エネルギーまでしかない。ということは電子が 3 つしかない Li で確定。
元素アは第四イオン化エネルギーが著しく大きくなっている。よって電子が 5 つの B だとわかる。
元素イについてであるがもし Be であれば 4 つ目の電子は 1s 軌道から取り除かれる。1s 軌道から電子が取り除かれるのであれば元素アと元素ウのようにイオン化エネルギーは極端に大きくなる。よって元素イは C となる。
1・16
解説参照。既出。反復練習を行ってください。
1・17
(1)F の場合は 2p 軌道、Cl の場合は 3p軌道に電子が入ります。いずれの場合も 6 つの電子が入る p 軌道にすでに 5 つの電子が入っています。どちらも方位量子数 ℓ は 2 で同じ形の p 軌道ですが主量子数 n が違うため軌道の大きさが違います。より小さな 2p 軌道では電子 1 つ 1 つが電子間反発を多く感じます。
(2)電気陰性度、電子親和力、イオン化エネルギーの定義はしっかりと覚えておきましょう。最も定番のマリケンの電気陰性度を知っていれば溶けると思います。
1・18
(1)解説参照。暗記必須
(2)かなりの難問です。できなくても気にする必要はありません。イオン化エネルギーが核電荷の二乗に比例するとの文言が解説にありますがここを何となく覚えておくくらいでこの問題は大丈夫だと思います。
(3)解説参照。既出。
(4)たいていの電子親和力(電子を与えて陰イオンにするときに放出されるエネルギ―)は正の値で発熱反応であると解説しました。ただここで問われているのはその例外です。放出されるエネルギーが負であるということは発熱反応ではなく吸熱反応になっています。主量子数、方位量子数が一つ上の軌道に電子を入れるとき、電子反発が発生する軌道電子を入れるときは反応が吸熱反応であり通常は起こりにくい反応となります。このときの電子親和力は負です。
(5)解説参照。例題も併せると 4 回ほど出てきている問題です。
1・19
(1)解説参照。落ち着いて問題文をよく読めば絶対に解けるはずです。計算は繁雑なので関数電卓を用いて大丈夫です。実際の試験でここまでの計算が出てくることはほぼないと思われます。
(2)解説参照。既出。
(3)解説参照。
(4)下線部 (c) に部分電荷 δq の定義が記載されています。定義より第一イオン化エネルギーの δq=+1, 電子親和力の δq=-1 です。後は式変形を行って求めるものが導けます。
(5)解説にあるように問題で与えられた式1・2を用いるだけです。
*断言はできませんが東工大ではほぼこういった問題は出てきません。東工大を狙っている人でこの問題を難しいと感じたら捨ててもいいかもしれません。
1・20
解説参照
1・21
(1)暗記
(2)暗記、ランタノイド収縮自体は既出
(3)f 軌道の遮蔽効果が弱いのも既出。
(4)解説参照。覚えるだけで対応可能です。
・最後に
いかがでしたでしょうか。もっと解説してほしいところ、間違っているところなど教えていただけたら幸いです。この章は無料で公開しますが 2 章以降は有料とします。