虹が象徴する物語5
前回までのあらすじ
ODをやめるため、いとこのヘイゼルに誘われて精神科を受診した大学生のリズ。二人は薬をもらい、ヘイゼルのバンでダンプステーションを目指してクリニックをあとにする。
本当にこれでよかったのだろうか。ヘイゼルが運転するバンの中で、リズはまたしてもめんどくさいことから逃げてしまったのではないかと考えていた。ODをやめたいのなら他人とか物質とかに短絡的に頼るんじゃなくて、自分の捉え方を見つめなおすとか、より健康的で持続可能な方法で何とかすべきなんじゃないか。この考えも防衛機制の一種なのだろうが、あの思考を始めると、自分が本当に何に不安を感じているのかだんだんわからなくなってくる。
「リズ、大丈夫?ついたよ。わたしは水汲みに行ってくるから、ちょっと待ってて。あとこの後何したいか考えといて。」
そう言い残すとヘイゼルはボトルを数本持ってバンから出て行ってしまった。ヘイゼルにすべてを素直に話すことが出来たら、何か変わるのだろうか。リズはいつも誰かが何かを変えてくれることを期待している。でも他人は所詮他人だ。他人がリズの人生を途中から生きてくれるわけでもないし、そこまで本気で他人の人生を考えてくれるとは思わない。親でも友達でもいとこでも。みんな自分の人生で精いっぱいなのだから。だから本当の意味で自分を救うには、自分で何とかしなければいけないのだとリズは思っている。でもそれが怖くてできない。だからリズは物質に頼る。この後したいことは、さっきもらった薬を二人でODすること。ヘイゼルはなんていうかなと考えていると、両手にボトルを抱えたヘイゼルが戻ってきた。
「この後したいこと、考えた?あたしはネットショップで売るステッカーのデザインを考えたいんだけど、手伝ってくれない?」
「いいよ、もちろん。…あの…ヘイゼルはさ、ODしてること、ママとか誰かに言ったことあるの?」
「あるよ、だいぶ前にね。2年前くらいかな。でもその半年後くらいに、最近はしてないって伝えてそれっきりだから、してないことになってるよ。あたしのママがどう思ってるかは知らないけど。リズは?」
「わたしは言ったことないな。言ったからってなにかいい方向に変わる?あんたもやってたの、って言われるだけだよ。あんたも、っていうのは…つまりソフィアのことだけど。」
ソフィアはリズの7つ上の姉で、何年も前から日常的にODをしている。3年前に家を出てほかの国で暮らしているので、近況は詳しく知らないけど、ソフィアのことは好きだ。
「なるほどね、あんたらしい考えだけど。リズはまじめすぎるよ、考え方が。」ヘイゼルはボトルを後ろの居住スペースに置くと、隣接のキャンプ場までバンを運転するといって、エンジンをかけた。