雨の日に(雨の志賀高原)
志賀高原の中腹、丸池のある辺りは、国道292号線が走り、ホテルも点在しているところですが、一歩森に入るとそこは自然の中、雨に煙る色鮮やかな紅葉と白樺の森でした。
「今日は生憎(あいにく)の雨ですね」とよく言われますが、実は雨でないとこの色や艶は出てこないのです。正直言って、私もこのように思えるようになったのは、写真を始めて随分経ってからのことでした。
写真的に言えば、快晴の紅葉は、透過光によって鮮やかに浮かび上がります。順光(じゅんこう)だと、あまり面白くなく、平たんに映ってしまいます。
雨の日は、順光でこそ綺麗に映るんです。それは、雨によって濡れることによるからです。
逆境の中にいて、発想の転換ができる人は、よい道が開けることが多いのと同じです。
霧の中でこそ、白樺の若木は存在価値を見出していました。
霧が薄くなった瞬間に見せる艶やかさ、強い光があるときは、強い影ができますが、まんべんなく回った光は、そのものの質感を表出してくれます。
小粒で可愛い赤いナナカマド(七竈)の実、雨に濡れてこそ輝いています。
もし、このカエデに強い光が入っていれば、赤い色は飽和状態になり、ペンキを塗ったようになり、その繊細さが出てきません。
雨に濡れてこそ、葉脈(はみゃく)が見える赤なのです。
周りが紅葉しているのに、紅葉しなかったり、遅くなったりする葉があります。実はこの緑色の葉っぱ、紅葉している葉っぱのそばにいると、紅葉がより一層艶やかに見えるのです。
それは、補色(ほしょく)の関係にあるからです。補色とは、反対色のことで、「緑」の補色は「赤」です。「橙色」も赤に近い色です。
例えば、青空の補色は赤から橙色なので、青空と紅葉を入れると、一層艶やかさ強調されます。写真家は、それらを意識的に画面構成しているのです。
紅葉は、緑色から赤へ変わる段階で、黄色、橙色、赤色と変化していきます。曇天の空でも、光は強いので、透過光で撮ると、鮮やかに見ることができます。カメラ的には、少し露出を多めにして撮ります。
予定は「晴天の山とスカイライン」と決めて家を出ても、雨だったら、滝やせせらぎ、林や森などに変更すると、よい写真が撮れるかもしれません。