【ゾッとする話】「ものわかりのよすぎる部下」がある幸せ
「しばらく修行してこい!」
5年ほど前、こんな言葉と共に役員の思い付きで急遽決まった出向
出向先での仕事は、これまでの経歴と全く畑違いのもの
今後のキャリアに寄与するとは思えず、キツい職場という噂も耳にしていたため
何とか断りたいところですが、あくまで自分はサラリーマン
不本意ながらに黙って応じることにしました
出向先は福岡県
新たな仕事に、新たな生活拠点
右も左もわからないままに、前任から引き継ぎを受けます
出向先での仕事をそのままお話しすることができないので、多少の比喩を交えますが
出向先での主たる仕事は、「とあるもの」をクライアントの要望する数だけ調達してくるというもの
この説明だけだと「誰にでもできる簡単なお仕事です」
・・・が、「とあるもの」はコンビニやスーパーで調達できるものではなく
調達に掛けられるコストもかなり抑えられているため
クライアントの要望する数量を調達するのは相当に困難という話でした
ここから本題に入っていきますが
調達困難な状況を打破しなければならないと考えた出向先がいつしか編み出したやり方が次の2つ
1つ目は、調達先を増やすこと
調達先を増やせば、調達機会が増える
「毎月、少量でもいいから供給してもらえないか」と頭を下げてお願いし続け
今では調達先が20社を超えるということでした
2つ目は、「とあるもの」を1個でも供給した場合、その後の一定期間にわたって「管理費」なる固定報酬を払うこと
いわゆるニンジンをぶら下げたようです
(出向先が抱えてきた苦労をこれから自分が追うことになるのか・・・)
前任の言葉だけでプレッシャーに圧し潰されそうになりましたが、もう後戻りはできない
前任の言うことが本当なのか、しばらく様子を見ましたが
・・・本当にキツい
(この状況に3年間も耐えられない)
そう思った自分は、出向先のやり方の問題点を変えることでこれを改善してみることにしました
そのやり方とは
調達先を今の20数社から10社程度に絞り
浮いた分の「管理費」を頑張って多く調達してくれた調達先に分配すること
もう少し詳しく言うと、
中々に高額である「管理費」に群がる発注先が約半数あり
それらの発注先は「管理費が止まるまでは供給しなくていいんじゃね?」状態
やる気がない発注先様にはこれを機にご退出いただき
継続的に多数を供給してくれる会社に対する報酬を上乗せしたい
というものでした
やるべきことが決まったその約1週間後
発注先を集めた週1回の定例会議が開催されます
いつも通り数社の欠席があるものの、20社以上の担当者が目前に着席
開会の挨拶もほどほどに、決定事項を告げます
「ここ数回の弊社からの発注に対して1個しか供給いただけなかった発注先様とは今後取引を中止させていただきます、これまでありがとうございました」
会場がどよめくかと思いきや、状況が理解できていないのか、はたまた、出向先の発注など取るに足らない供給先なのか、会場はいつもと変わらない様子です
「一方、ここ数回の発注で一定数以上の供給をいただけた発注先様には発注量を増やし、達成いただいた場合は追加報酬をお支払いいたします」
少しだけ反応があったもののそこまで大きな反応はなく
(もしかして・・・しくじったか)
内心穏やかではないですが、後には引けません
「・・・以上、ありがとうございました」
最後までポーカーフェイスを通し、事務所に戻ろうとすると・・・
「すいません、質問よろしいでしょうか?」
(・・・きた!)
「今回の展開は覆りませんか?」
発注がなくなった会社のうち、数社から同じ問いかけが来ます
「はい、これまでの取引状況を勘案して決めさせていただいたことになりますので、覆りません、これまでありがとうございました」
少し申し訳ない気持ちを抱えつつ
この方針は変わらない、自分の意思は固いということだけを告げて会場を去りました
ひと仕事を終えて事務所に戻ると、ふと恐怖心が頭をもたげてきます
20数社にも及んだ発注先
これだけ増えるとちょっと恐めの発注先も参入しています
(今回の件で逆恨みされたりして・・・)
変な妄想に囚われかけたその瞬間
会社から貸与されている自分の携帯電話が鳴ります
「すいません、こしば屋さん、今日の件で私の上司が是非お会いしたいと言っていますが、今からお時間いただけますでしょうか?」
ちなみに、掛かってきたのは「ちょっと恐い発注先」のうちの1社
(ちょっと恐いし、正直会いたくないな・・・)
とは思いつつ、これまで取引させていただいたお礼も兼ねてお会いしよう
そして、もし心から再起を願ってくるようだったら・・・
そんなことを考えながら、30分だけお会いすることにしました
ちなみに、その上司とはあったことがありません
いつもやり取りしていた担当さんは坊主のちょっとイカツい感じ
あの担当さんの上司だから恐い系の人なんだろうなー
・・・固唾を飲んで事務所で待機します
そうこうするうち、自分の携帯が再度鳴ります
電話に出てロビーに向かうと、いつものイカツい担当さんともう1人、深々と頭を下げたスーツ姿の男性が居ます
「いつも大変お世話になっております!!」
スーツ姿の男性が頭を上げると・・・
オールバック系のいかにも恐い感じの方(涙)
挨拶も早々に会議室へ招き入れ、名刺を交換した後、着席を促します
すると、その上司さん
担当さんに向かってこう言い放ちます
「おいっ、こしば屋さんに資料お渡しして!」
担当さんが自分にさっと資料を手渡します
そこからしばらくの間、上司さんからの説明が繰り広げられます
そうです、この上司さん
この短時間に今後の挽回計画を作ったんです
(かなり荒いけど、この短時間で資料を作っくれたのか・・・)
今までの対応はダメだったけど、これからは奮起してくれるかもしれない
その上司さんが発する熱量が「カタギ」のものではない感じが否めませんが
この人なら頼れるかもしれない
プレゼンテーションが終る頃には心が傾いていました
「・・・以上です、何とか発注をよろしくお願いいたします」
最後は、改めて深々と頭を下げてのお願い
頑張ってくれた上司さんに心を打たれた自分
深々と下げた頭に触発され
(この発注先にまた頑張ってもらおう)
心の中でしっかりと決断し
『ありがとうございます、また発注させていただきますので、今後もよろしくお願いします』
・・・と、言おうとしたそのとき
上司さんの横に居た担当さんが唐突に口を挟みます
「あの・・・発注は難しいんですよね?」
担当さんが、上司さんと自分にキョロキョロと目配せしてきます
続けて担当さんは、
「今回の決定は、何があっても覆らないんですよね?」
今度は、しっかりと自分の方を見て確認を求めます
(確かに、定例会の場では「発注しない」とも「覆らない」とも言ったけど・・・)
「はい、あの場では確かにそのように言いましたが・・・」
担当さんの聞き間違えではないことをしっかりと告げた上で
『今回はご上司様の熱意を受けて、改めて発注させていただきます』
・・・と、言おうとしたとき、
「ですよね!?今回から発注はないんですよ、この決定は覆らないんですよね!」
担当さんは改めて自分の方をじっと見つめてきます
そして、その顔には
(俺、定例会の話、ちゃんと話聞いてましたよ!)
という文字が浮かび上がっています
・・・何という状況でしょう
上司が自分にお願いする真横で、部下が自分の代わりに上司を説得するという極めて奇妙な光景
(いや、この担当さん、ものわかりが良すぎるだろ・・・)
思わず呆気にとられてしまいます
こんな部下の様子を上司はどんな風に感じているんだろう
恐る恐る上司の方に目を向けると・・・
上司もポカンとしてるー
空気を読めない部下にポカンとしてるー
せっかく上司が作った千載一遇のチャンスを一生懸命潰している部下に「何こいつ」って顔をしてるー
「せめて1つでよいので発注をお願いします」
改めてお願いする上司
「・・・と言っても、今月は枠がないんですよね」
自分の代わりに上司を説得するその部下
目の前で繰り広げられ続けるあり得ない寸劇
もうそこに自分の入り込む余地はありません
自分はいったい何を見させられているんだ・・・
我慢できなくなった自分は
「いや、もう頼むから発注させてくださーい!」
と、お願いしましたとさ
以上!
あの担当さんと上司さんのやり取りが演技だったのか、本気だったのかは未だに謎ですが
演技だったとしたら自分に発注させたあの2人は天才ですね(笑)
なんだかんだで、わずか1年で出向先から復職できたのですが、あの2人のやり取りは一生残る思い出です
あの強面上司と自分の間で繰り広げられる険悪なムードを瞬で面白ムードに変えてしまった1人の担当さん
とっても偉大な人物だと思いました
皆さんも周りに天然の面白い方がいらっしゃいましたら教えてください
では!