
#076 何とも楽しそうに笑うおっちゃん
旅の話の続き。
コピアポの街を出て7日目、ついに心配していたことが起こってしまいました。雨です。
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トラックの運ちゃんから「車道を歩くな!側道を歩け」と言われてから、しばらくは側道だけを歩いていたのですが、そこまで極端にならなくてもいいや、と少し開き直り、車が見えたら早目に側道に移動するようにして歩くようになりました。
この日は、登り坂が続きました。坂道を登るだけでもしんどいのに、車がくるとガタガタの側道によけて歩く。このことにイライラしていました。
そんなとき、自転車で旅行している人の言葉を思い出しました。
「しんどいと思ったときが一番しんどい。そこを乗り越えると楽になる」
気持ちを持ち直して歩いていると、道端に大きなサボテンを見つけました。初めて見たサボテンの赤い花。サボテンの幹というのか体の部分から枝が出てきて、その先に赤い花をつけていました。
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順調に歩みを進め、午後に差し掛かった頃、古ぼけた家の前を通り過ぎたときに、そこのおっちゃんに呼び止められ、そこでお茶とお昼ご飯を頂きました。魚の缶詰に玉ねぎの塩もみを和えただけなのですが、これが美味しいこと。嬉しそうに食べていると、おっちゃんが「一晩泊っていけ」とのこと。ご飯をご馳走になっていたこともあり、そうすることにしました。
それから、おっちゃんはずっとワインを飲んで、一人で喋っていました。質問しても的を得た返答が返ってこないので、途中から諦めて相槌を打つだけになりました。内容はあまりよく分からなかったのですが、下ネタ好き。一人で何とも楽しそうに笑うので、それを見ているだけで楽しい気持ちになりました。
日が暮れ始めると、鉱物のようなものを燃料にした明かりを灯し、ワインとお茶とパンとで夕ご飯をご馳走になり、その後ベッドを借りて眠りにつきました。
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その夜のこと。何時なのか分からなかったのですが、急にトタン屋根に雨滴が当たる音がしたかと思うと、ザーッと大雨が降り始めました。おっちゃんに起こされて、雨漏りする下に鍋を置くのを手伝った後、外に出てみると、家の前が池になっていました。
一番驚いたことが、夕方まで何もなかった谷が、ゴーゴーと唸りながら流れる川になっていました。砂漠で水がないところなのに、雨が降ると川になって流れるほどの水があるのです。この水を上手く利用することができれば、砂漠でも植物が育てられるのでは、とこの時思ったかは定かではないのですが、この時の経験がその後の人生に多少なりとも影響を及ぼすことになりました。
睡魔にはめっきり弱いので、鍋を置く手伝いをした後、直ぐにベッドに戻り寝たのですが、その後そのおっちゃんに2,3回叩き起こされました。そして、何をするでもなく、おっちゃんがあちこち動き回っているのをただボーっと見ているだけでした。