認知症を知る
皆さんは「認知症」というものをどのくらいご存じですか?
近年は高齢化に伴い、認知症や認知といった言葉を普段から耳にする機会が増えました。しかし世間に認知という言葉が広まる一方で誤った解釈や理解があふれ、認知症が誤解されるようになってしまいました。
認知症は単に高齢者の物忘れや記憶障害を示す言葉ではありません。高齢者だけではなく働き盛りの若者にも発症する「若年性認知症」というものも現れ、認知症への正しい理解が求められています。
そこで今回は
・認知症とは何か?
・認知症になると何が起きるのか?
についてお話ししていきたいと思います。
〇はじめに認知機能とは?
認知機能とは外界の情報を目や耳、鼻などの感覚器官でとらえ脳の中で情報を整理し解釈することを指します。認知機能を略して認知と呼ぶこともあります。
ものを見るのは目であり、音を聞くのは耳であり、匂いをかぐのは鼻の役割です。しかし目で見たもの、耳で聞いた音、鼻でかいだ匂いの正体が何かを情報をもとに突き止めるのは「脳」の働きです。
例えば「ティーカップに入った紅茶」を例にとると目の働きは茶色い液体と白い器を見る、耳の働きは陶器特有の音やちゃぷんといった液体の音を聞く、鼻の働きは香ばしい香りといった情報を受け取るだけです。
それらの受け取った情報を神経を通して脳で整理、解釈することで初めて「ティーカップに入った紅茶」と認識することができます。これらの認識する働きを認知といいます。
この認知機能の不具合によって生活に問題・支障をきたすことを認知症といいます。
〇認知症になると起きること
認知症になると様々な症状が現れます。しかし症状は全員が同じというわけではなく千差万別です。性別、性格、生活環境、人生歴、心理状態など様々な要因が絡み合いそれぞれ違った症状がみられます。
その中でも代表的な症状をいくつかを体験した実例を交えて紹介します。
・記憶障害
認知症と聞くとまず初めに思い浮かぶのは記憶障害です。
前述で物忘れ=認知症ではないと否定しましたが記憶障害も代表される症状の一つです。
認知症を原因とする記憶障害では出来事、日付、時間、場所、人に関する記憶に不具合が生じます。
記憶には段階があり
・記銘(見聞きし覚える)
→ 保持(覚えたものを頭に残す)
→ 再生(頭の中から覚えたことを引き出す)
→ 再認(引き出したもの再び保持する)
という4つの過程から構成されます。この4つのうち1つにエラーが生じると正確に記憶することができなくなります。
記銘が障害されると
・電話をかけるのに電話番号を覚えきれない
・何度確認しても調味料の分量を覚えれない
保持がエラーを起こすと
・さっきトイレに行ったことを覚えていない
・何を買うかを出先で忘れる
再生でエラーを起こすと
・行先の住所を間違える
・人の名前を間違えて読んでしまう
といったようにどの過程においてもエラーが生じてしまうと記憶に不具合が現れます。
・順序立てができない
「歯磨きができない」「出勤の準備ができない」「調理の仕方を忘れた」
など私たちが何も考えず当たり前に行っていることも認知症の方はうまくできなくなります。
更衣動作を例に挙げると
上着を着る場合
・上着を持つ
・袖に手を通す
・頭を通す
・裾を下におろす
という順序を頭の中で経て上着を着ると思います。
しかし認知症の方はエラーが生じてうまく着ることができなくなってしまいます。
脳には前頭葉と呼ばれる行動の計画を立てる部分があり、綿密な行動計画を経て、後に行動として実行されます。しかしこの前頭葉がうまく働かなくなることで計画が立てられなくなり行動自体をうまく行えなくなります。
・目的地にたどり着けない
認知症の方は外出先で自分の場所を見失ったり、自宅内でも目的のお部屋にたどり着くことが困難になります。
これには記憶力の問題に加えて想像力・判断力の問題が目的地への到着を妨げます。
具体的に言うと
・目的地を覚えられない
・ランドマークを意識できない
・道順がわからない
・曲がり角の先が想像できない
といったエラーが重なることで目的地への到着が妨げられます。
今、皆さんが自室に居るとしましょう。
のどが渇いて飲み物が飲みたくなったら飲み物がある場所を想像して歩いて向かうことでしょう。
ドアを開け、廊下を進み、キッチンの冷蔵庫を開け飲み物を手にする。これは私たちにとっていたって当たり前の動作ですが認知症の方はこれができなくなります。
理由は「ドアの向こうに何があるかわからない」からです。
これはトイレのドアや道の曲がり角でも同じことが言え、遮蔽物の先に何があるかを想像することが困難になるため迷う、戸惑うといった問題が生じます。
実際にはトイレの場所がわからないことに加え、トイレの前に立ってもドアか壁かの判断がつかず誘導しないとたどり着けないということがありました。
・気温がわからなくなる
認知症の方の中には夏場でも室内では「暖房」をつける方がいます。これは本人の勘違いやわざとではなく本当に身体が寒さを感じているからです。
暑さや寒さの感覚も身体が決めるのではなく脳で判断し温度を感じます。
人間の皮膚にある感覚の受容器が温度、湿度、日当たりなどの情報を受け取ります。その情報が脳に送るられることで総合的に「暑さ」「寒さ」を判断します。
認知症の方はこの処理がうまくいかず過剰に「寒さ」「暑さ」を感じてしまうのです。
実際には気温35度の猛暑日に寒さを訴え、長袖のジャージを着用して暖房をつけ布団を全身にかぶり過ごされている方がいました。
・幻覚が見えたり聞こえたりする
ある日突然、高齢者の方から「道が揺れているから歩けない」「木下から誰かがこちらを睨んでいる!」と言われたことはありませんか?
実際には道はピクリとも動いていないし、木下にも睨んでいる人はいないはずです。忙しい場面でこのようなことを言われると「適当いわないで」「勘違いでしょ」と強く言いたくなってします。
しかしこの高齢者にとっては実際に起きていたり見えたりしています。これらも脳による感覚情報の解釈エラーが幻覚を引き起こしています。
「気の木目」や「幾何学な床の模様」が本人の不安な気持ちや恐怖体験の記憶とが絡み合い幻覚として出現してしまいます。
またこれらは周りの人からせかされたり、疑われることでより強くなることがあります。
〇認知症は理解する姿勢が大切
これまでお話ししたように認知症ではエラーによって様々な訴えが出現します。今回紹介したものはほんの一部に過ぎません。
また内容は同系統でも訴えの程度や場所、物など症状の対象はその人により様々です。
認知症を知るうえで大切なのは
・理解する前向きな姿勢
・客観的な姿勢にたてる
・その人自身を知る
これら3つのことです。
先ほども述べたように人によって訴えが様々なため万能な対応方法などは存在しません。
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