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小説 イシヤの夕暮れ3

ひぐらしが鳴いている。
夕暮れ時の夏時雨、風は湿度に巻かれ生暖かく皮膚を濡らす。

墓石リフォーム屋にとって雨は天敵である。
全ての作業は中断され、静寂の時間が始まる。雨音にコーヒー。そして壊れた墓石に老人の往来。そんな時あの声ははっきりと聞こえるのだった。
(気をつけて!あなたはわたし、わたしはあなた!)それは若い女性の声だった。
その声をメロディーに雨音の伴奏が心地よく、携帯なんて無視して、異空間に浸る。

その時遠くで罵声が響いてきた。
そして大きな破裂音。救急車がやってる。ドップラー効果でサイレン音は不気味に現場を揺らした。
また事故か。そう親方は呟いた。
震災バブルに飛び付いた、素人集団の事故は絶えない。僕達の墓石屋を含め、瓦や、解体業者、その他復興復旧業者は馴れない作業での事故が止まらないのだ。
解体業者に関しては、全壊家屋は復旧の目処もたたずに放置されてしまった。未だに家なし被災者は、避難状態で悲惨な状況にあるらしい。
業者も金にならないと言って、撤退した。


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