詩作34 妻が小雨の日は傘をささないのと言った
妻が小雨の日は傘はささないのと言った。
濡れても良いのかと聞くと、それでも良いと言った。
私たちは二人で、相合傘を、しなかった。
でも、二人は仲良く、霧雨を楽しむ。
夫婦とは、何だろうと、その時思った。
それは、私も、決して傘をささなかったからだ。
私は、雨に濡れることを嫌ったし、折り畳み傘を常に持ち歩いていた。
しかし、傘はささなかった、その日に於いては。
二人は、同化し、もう1つの瞳を手にしていた。
雨が、皮膚感を刺激し、走馬灯が走った。
中学生時代の、雨振りの中、新聞配達をしたこと。
若い頃、どしゃ降りの中、泣きながら農作業をしたこと。
霧雨の中、結婚する前、妻と二人で傘をささずに飲み明かしたこと。
この香り、この湿気、この身体が語るのだ。
雨は、益々強くなり、二人を濡らす。
雨だれが、眼鏡に、張り付く。
振り返ると、君は笑って、頬を拭っていた。
その経験は、二人の時を刻み、大切なものになった。
5年目の結婚記念日は、妻を益々愛する、ただそれだけの惚気話に終るのだった。