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Death Takes A Holidayを見た

 美園さくらちゃんが舞台に戻ってくる

 宝塚を退団し、大学院に進学して集団のコミュニケーション、演技指導の方法を研究する!という衝撃的な進路を選び、エッセイやインタビューで宝塚の閉鎖的な環境や形骸化した慣習を匂わせ、時に批判してきた元トップ娘役が、舞台に戻る。最高に嬉しいニュースでした。時にシビアな宝塚への視線に、彼女の在団期間はつらいことばっかりだったんだろうかと寂しい気持ちにもなったため、再び舞台に立とうと思ってくれたことがとても嬉しかったです。しかも月組版が最高に素晴らしかったデスホリ!

 月組版もとっても好きだったのですが、今回でさらにこの作品そのものが好きになりました。死神、あれだけ人間らしくなってしまって、これからニ次大戦があるのがしんど……。享楽的で刹那的な時代に休暇を取ると決めてうっかりランベルティ家にたどり着いてしまったばっかりに。一体どんな気持ちで二次大戦で亡くなった人たちを迎えにいくのでしょう。なんならいまも「お前たち人間はどうかしている!」と思っているに違いありません。

 この作品の元の戯曲が、二次大戦の未曾有のカタストロフに心を痛めた人によって描かれたのであれば、つらくてたまりません。というかこの戯曲が作られ、英訳され、映画化されるまでの間にどんどん次の戦争の足音が近づいてきたという時代背景かと思います。次の戦争が迫る危機感の中でこの作品に取り組んでいた人たちのことを思わずにはいられません。

 (まあ冒頭のランベルティ家の人たちはたまたま(?)命知らずな行動をしていたわけですが、)つい最近までたくさんの人がそんなに短く終えていいはずじゃなかった人生を終えさせられていたことも忘れてカジノで全財産すっちゃったり酒飲んで車かっ飛ばしたりする人たちがいる時代、うっかりすると死神は大して命の大切さも生きることの素晴らしさもわからないシチュエーションで休暇をとっていたかもしれません。そんな中で、ロベルトを思い続け、またあの悲しみを味わうくらいなら、と自分の命を差し出そうとする公爵たちに出会ったことが死神にとっては最大の幸運でした。小瀧さんは、死神とサーキでかなり発生や雰囲気を変えていました(登場シーンとAlive!、何回聞いても同じ人の声に聞こえない!!)。お茶目なサーキのターンと恐ろしさもありつつどんどん人らしさを獲得していく死神のターンの切り替わりが素晴らしかったです。特に、2幕の公爵とのシーンは本当に素晴らしかったです。公爵にとっては何をしでかすかわからない恐ろしい死神なのに、子どものような拠り所のないいじらしい存在でもありました。

 美園さんと小瀧さんの声の相性も素晴らしかったです。お互い遠慮なく自分の持ち前の歌い方でガンガン歌っているのに溶け合っていて素敵でした。美園さんは、あの海外ドラマの吹き替えのような発声やお芝居がすごくグラツィアに似合っていました。How will I knowやWho Is This Manも本領発揮という感じでした。あの絶妙に共感されにくそうなグラツィアというヒロインが成り立つバランス感覚がすごいです。私はグラツィアの考えていることが全然わからなくて、特に2幕でアリスとデイジーがサーキは偽物だとグラツィアに忠告しにいくシーンの「愛する人ができればわかるわ」とかは兄の妻になんてこというんだ!?無神経だな!?ともはや笑ってしまうくらいなのですが、そういうグラツィアらしさを嫌われないバランスで見事に演じていました。こんなに共感できないのに、何を大切にしててどこでサーキを取り返しのつかないほど好きになってしまったかがわかりました。グラツィア、洞窟の2人は悲劇じゃなかったと言ってくれる人に出会いたかったんじゃないかな…

 また、東啓介さんのシーンが絶品でした。なんであんなに歌が上手いんだ!!!!!!あんなちょっとしか出てこないのに1番忘れられません。キンキーブーツが本当に楽しみです。私は冒頭の落ちていく飛行機の映像はただの第一次世界大戦の前説ではなくロベルトの飛行機だと思っているのですが、複数回観劇を重ねるたびに、エリックの歌を聴くたびに、次回の観劇で冒頭の飛行機が落ちる映像だけでもはや泣いていました。

 と、1人ずつ言及したいくらいなのですが本当にキリがないです。群像劇としておもしろい。みんな見せどころがある。すごい。コラードとデイジーだけもうちょい歌ってくれてもいいような気がしないでもないですが、ダリオとエヴァンジェリーナも公爵夫人も見せどころがあって全員役にめちゃくちゃあっていました。今作、キャスティングが一番すごかったかも。

 あとは意外とダンスがおおいのも今作の好きポイントです。アリスのタップは言うまでもありませんが、グラツィア、デイジー、アリスがそれぞれの運命の人を思って踊るシーンもかわいいし、アリスとエリックは結構ダイナミックなリフトもしていて見どころです。なによりすごいのは洞窟の2人です。アリスとエリックの今後が心配だ〜〜〜エリック、二次大戦いかないでくれたのむ、、、、しなないでーーーーーー!!!

  基本的に大満足だったのですが、以下はちょっと気になった点です。

 セットは少々チープでした。植木や階段を動かす演者(?)がいるのはまあいいのですが、死神のゴンドラの後ろにスタッフが見えるのは流石になんとかしようよ……。3回から覗いたオペラグラスがバッチリメガネをかけたおじさんスタッフを捉えました。おつかれさまです。

 この作品は基本的にコメディではあるのですが、その温度感は違くないか、と思ってしまうポイントがいくつかありました。フィデレはどうしてあそこまで暑苦しいキャラに振り切ってしまったんでしょうか。月組版のやすちゃんのコミカルさと渋みの同居が好きだったのでちょっと拍子抜けしてしまいました。若干テンポが崩れるような気がしてしまいました。好きなテンポ感ではなかった箇所が他にもありました。グラツィアの「わかったわ、シベリアね!」はオリジナル版のサウンドトラックを聴いてもそれに当たるセリフが見当たらず、なんで追加したんだろう…と思いました。グラツィアのつかみどころのなさや不思議ちゃんな感じはわざわざ追加セリフで出さなくていいし、シリアスな場面なのに、個人的にはあまり好きなテンポではありませんでした。そんなセリフも美園さんはうまいのですが。また、屋敷中にサーキの正体が知れ渡り、召使たちが驚いているシーンで、ソフィアが「私誘おうとしてた!」と言った後に、ふくよかなメイドが「私も」「えっ」となるシーンも、古典的な容姿いじりすぎて不必要に感じました。みんなが黒か白に身を包んでクライマックスにむかっていく、全て元に戻っていくと歌われるシーンにはそもそも場違いな上に、気持ちのいいいじりではないシーンでした。

 ギャグのテンポ感が上手だったのはエリックの「死神がこんなにちかくにいたのに!アッども」とコラードになかなか振り向いてもらえないデイジーだったかな。

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