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天然記念物の桜を見守る"樹木医"の仕事

国の天然記念物で日本三大桜でもある岐阜県本巣市根尾の淡墨桜。

樹齢1500年を超えてもなお、ごつごつした太い枝はたくましく、堂々とした姿を見せつけます。
その淡墨桜の“かかりつけ医”として8年間にわたって見守る樹木医の「大平猛司」さんに開花までを支える仕事について聞かせてもらいました。

満開時には白、散り際に淡い墨色を帯びた幻想的な花を咲かせる淡墨桜。4月中頃まで楽しめる。

地上17mから雪吊りの撤去作業

開花を目前にした3月中旬、淡墨桜は冬に備えた雪吊りを外す作業の真っ最中でした。
細かい枝の間に滑り込めるようにドラム缶を円すい型にした特製のゴンドラに乗り込み、高さ17mほどの位置からクレーンで吊り上げ、一本ずつ手作業で縄を外していきます。

桜の最頂部までクレーンで吊り上げ、雪吊りを外す作業

大平さんは、クレーンの運転手に細かな動きを指示しながら枝を傷つけないように慎重に縄を外していき、枝先の様子を確認します。

運転手に指示を出す様子
細い枝の内部まで近づき、枝先の様子を確認する大平さん

冬を前に備える雪吊りは、立てた支柱の上部から縄を傘の骨のような円すい状に張ります。
縄を下から揺らして降り積もった雪を振り落とすことで、花芽をつけた細い枝を守ります。枝ぶりごとに縄の数を変え、1本の支柱に約30本の縄を張り巡らせ、8本の支柱が11月から3月まで桜を支えます。

11月から3月まで雪から枝を守る雪吊り
実際に使用しているロープを見せてもらうもとまる

枝先の状態を確認した大平さんは、花芽の数を見てほっとした表情を見せます。老木で成長が遅いとはいえ、暖かな春の日差しを受けた枝先には淡いピンクの花芽が膨らみ、開花が近いことを予想させます。

植物の生態系への探究心から樹木医へ

造園業に携わっていた大平さんが樹木医を目指した理由は、植物の生態を追求するうちに科学的な根拠を知りたいという探求心が芽生えたこと。
見事、樹木医の資格を取得し、転職した山林業を営む会社が淡墨桜の管理をしていたことから、8年前に担当を任されることになりました。

1年をかけて見つめる淡墨桜の変化

大平さんの仕事は、淡墨桜の変化を見つめながら1年が過ぎていきます。
花が終わると有機肥料を散布し、葉に覆われる夏になると消毒といった定期的な作業に加え、猛暑で水不足が続けば散水、台風が予想される日には支柱が倒れないようにアンカーボルトの設置に駆けつけます。

1年を通しての仕事を教えてもらうもとまる

大平さんは「花の色も数も毎年違い、枝が枯れてまた新しい枝が出て形を変えていきます。手をかけた記録が後々、原因を探るヒントになり、毎日の小さな変化に気づく目を持つことで手遅れを防げます」と話し、月4回のモニタリングや作業記録は、貴重なデータとして積み重ねられていきます。
初夏を迎えたころに枝先を見れば「どのくらい成長し、来年どのくらい花を咲かせるか分かる」そうで、そんな小さな枝の膨らみがこれまで手をかけた作業に間違いがないかを教えてくれます。

開花を前にうっすらピンクに色づいた枝先。成長の長さは1年ごとに変わる。

1500年の時を超えて受け継ぐ地域の宝

変動する自然環境に対応しながら積み重ねる日々の作業は、国の天然記念物を任された樹木医としての使命の重さも感じさせます。
樹齢1500年の淡墨桜は老木のため、これまで幾度も枯死寸前の状態になった歴史があります。しかし、大平さんをはじめ、多くの人たちの知恵と技術、そして思いが受け継がれ、地域の宝として、毎年美しい花を咲かせ続けています。

大平さんには、出張授業で訪れた根尾小学校の子どもたちから掛けられた忘れられない言葉があります。「大きくなったら、淡墨桜を守る樹木医になりたい!」。
この一言が淡墨桜を次世代へつなぐという樹木医としての誇りと使命感を奮い立たせ、大平さんの背中を押しています。


2022年3月スタート
「もとまるの社会見学 ~みんなのよろこび みつけるも!~」

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