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ひとり遅れの読書みち

                                            第4号
   < 走狗>                   伊東潤

  幕末の鹿児島に生まれて、のちに「日本警察の父」と称されるようになる川路利良の生涯を、著者は暗い裏の世界で働く「走狗(そうく)」として熱い筆の力で描いている。魅力ある歴史小説に仕上がった。
  川路は「外城士(とじょうし)」として武士の身分階級の最下位に生まれ、幼いときから厳しい差別を受けて育った。同郷の西郷隆盛や大久保利通たちが表舞台で活躍して、新しい日本の政治を大きく動かしていく時代。その裏で、川路は様々な政治工作に手を染めていく。国家のために働くのだという強い思いを抱いているものの、最下層の武士の出身であることの恨みや妬みといった「暗い思い」は消えない。そして「走狗」として働いていく。
  「走狗」とは、狩猟の際に、鳥や獣を生い立てるのに使われる犬のこと。転じて人の手先に使われる者を卑しめて言う言葉だ。
  敬愛する西郷を撃つように西南戦争のきっかけを作ったり、萩の乱を引き起こすような仕掛けも加える。剣術の腕が優れていたことも、それを可能にしたのだろう。
  川路は日本の警察制度を確立し、初代の大警視(警視総監)にまで上りつめた。しかし、尊敬する人物や頼りにしていた人物、また友人や同僚までもこの世から抹殺する状況に追い込まれていく。
  最後には自らも「黒い工作」によって毒殺されると、著者は書いている。苦渋にみちた生涯だった。不思議なほど引き込まれて読ませる。
  なお、著者は、政府大久保側についた川路を描いた本書のほかに、西郷側の村田新八を『武士の碑』で、また加賀藩士については『西郷の首』でまとめている。これら三部作で西南戦争をめぐる状況を重層的に明らかにしようという試みは貴重なものだ。


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