針が刺さらないように針の服を着る
1997年10月13日(月)
夜。部屋は取り散らかっていた。わたしはびくびくピリピリしてしまう。きれい好きなおばさんは真っ青で、なんにも言わずに台所仕事していたから。
女がいまにも死にかけていた。
女の夫─じじいは、おばに結婚を迫っていた。
おばは無言。
死にかかった女のために、黒地に鹿の子絞りの小袖が注文されていた。
わたしは自分の服の首のぐるりに針を縫いつけようと苦心していた。針は細く、するするして扱いが難しかった。
努力したが、どうしてもうまく縫いつけることができなかった。
絶望的な気持ちになり、諦めた。
断念すると急に楽になり、自分が苦しみながら取り組んでいたことの恐ろしさ、バカらしさに唖然。
──首のぐるりに針を縫いつけた服を、針が刺さらないように恐れながら着よう──どうしてもそんなことを考えたのか?
女に小袖がかけられた。女は死んだ。
じじいはその小袖を女と共に火葬にしないでおばに着せようと願った。
じじいは喜んでいた。
わたしのこころは冷たく重くなった。そんなものを被せられるのはどんなに苦しいことだろう。