なんの面白味もない記憶
なんの面白味もない記憶なのに、なんの拍子かふと浮かぶ記憶がある。それはライトグレーのぼんやりした風景。ほぼ無味乾燥な記憶なのにたまに出てくる。その度に、わかりたくて、がんばって記憶を浚う。無愛想なおじいさん、なんだかな···っていう気分を辛うじて掬える。それだけ。なんでこんな面白くもおかしくもない記憶が出てくるんだろう?の謎は謎のまま。
働いてたところの近所を宛もなく歩いてた35年くらい前のこと──それにしても、こんなに生きると思ってなかった。35年前だって、驚くよ──地味な和菓子屋を見た。ひとりかふたり、食べられる設えが見えた。その時は素通りした気がするが、後日その店でわたしは何かを食べた。何を食べたのかさえ覚えていない。その和菓子屋のライトグレーの茫ぼうとした風景が、日曜の朝、出た。
これまでと同じく、この度もいぶかしく、ぼんやりとしか見えない絵をなんとか見ようと試みたところ、これまでとは違った。
きのうの、神社の帰り道でのことが前面に現れた。
神社へ行った帰り道、「登山家さん」のことばを思い返していて、自分が自分にしてきたことに申し訳なさを感じた。自分に詫びつつ、詫びたからって済むとも思えないけどなーと思った。わたしには【何かを大切にする】ということがわからないんじゃないだろうか? だからできないんじゃないだろうか?と思った。思って、ほかのことを考えた。
「あなたは自分を楽しませようとしていたんだよ」
え?
「あの和菓子屋で面白くもなんともなかったかもしれないけど。
いつだって、あなた精一杯自分に楽しさをあげようとしてきた」
そうだったの?
わたしからわたしへの応答。
不思議な心持ちをしばし味わった。
そうか。わたしはわたしにできることをしてきたのか。
それなら、あの親たちもそうなんだな。