「あの声が全部聞こえなくなったら、」
『ひとの気持ちが聴こえたら』という本の話だった。脳を磁気で刺激する療法を受けた自閉スペクトラム症の本人が著者。
著者が受けた経頭骸磁気刺激法(TMS)というのの説明の中で米軍の話になった。ライト・パターソン空軍基地の「人間有用性局」というところで、経頭蓋磁気刺激法でスナイパーやドローンのパイロットの集中力を長時間維持する研究をしていて、ニューサイエンティスト記者のサリー・アディーさんという人が実験に参加した。
はじめアディーさんは磁気刺激のヘルメットを被らない状態でライフルを持ち、戦場シミュレーターに入った。次々向かってくる「自爆テロの敵」を撃たなければならないのだが、パニックになったアディーさんは一発だけ撃ってライフルを捨て、シミュレーターから出た。
次にアディーさんは磁気刺激のヘルメットを被ってシミュレーターに入った。ヘルメットを被ったら口の中に金属の味がしたという。
非常に落ち着いていて、あっという間に終了したので、アディーさんは故障かと思ったが、そうではなく、全員「殺した」ので終わったのだった。
「ここからが♪」と岡田斗司夫さんは言ったが、わたしもここからが、ずーんときた。
アディーさんのことば
私たちは子どもの頃からいろんな雑音が聞こえる。
自分の中に囁きで敵意とか恐怖を囁かれる。
例えば、あいつにはかないっこないとか。
そんなの自分にはできないとか。
あいつ嫌いとか。
そんな声をいっぱい聞いている。
自分自身でそう思ってるんじゃなくて、
自分がそういうふうに説き伏せられて思っていることがいっぱいあった。
それが全部聞こえなくなった。
あいつらの正体はなんだったんだろう。
もしこの機械が実用化されてみんなが私みたいに、あの声が全部聞こえなくなったら、いったい人類の歴史、これからの世界ってどんなふうになるんだろう。(動画より書き起こし)
アディーさんは実験ののち数日間「あの声が全部聞こえなくなった」状態を体験した。その間に考えていたことは、戻ってあのヘルメットを被りたい、だったそうだ。
「あの声が聞こえなくなった」状態がわたしにもたまにある。前より頻度も時間も増えた。でも数日間まとまってというのはない。その斑の恵であっても、どれほど救われているかわからない。「あの声が聞こえな」いとき、この状態が本当なんだと思う。一切の憂いがなく、生き生きとした流れがあり、静謐で、快い。