崩壊はいけない UFO
1997年10月15日(水)
はっと目があいた。周りは鈍い金色。呼吸が苦しい、心臓がどくどく鳴ってる。
胸の奥から凄まじい寒気が湧き上がってきてからだが震えた。まずい、熱が40度くらいになっている、と思った。
からだが動かない。水が必要だ。胸が苦しい。熱で頭が破壊したらどうしよう。
腕が浮き上がろうとしていた。強力な磁石のようなもので引っ張られているような感じだ。
左の耳にさっきから音が聞こえている。モーターが過熱して切れてしまうかのような、気になる音。自分の頭が異常に回転して壊れてしまうのかと気が気じゃないし、外から聞こえているようでもある。
両腕がふらふら浮く。からだまで起き上がろうとしはじめた。UFOから引っ張られてでもいるようじゃないか?
左の耳にには「お告げ」が聞こえてきそう。とんでもないことだ。外部の何者かに自分を引っ掻き回されるなど。
でも、身体は起きようとしている─無理そうだけど─勢い余って天井を突き破ってしまいそうでもあり、恐い。
ばったり、腕が落ちた。
頭の中で途轍もないことが起こっていることは確かで、目を眩ませる光線、急転直下の動きに襲われた。
崩壊する?
それはいけない。崩壊したら「わかる」人はいなくなるからどうでもいいようだけど、いけない。
水だ。水をのみたい。でもからだを起こせない。
仕方ないから身体を置いて行こう。
置いてきても大変なことに変わりなかった。階段の窓からも金色の光が入ってきて眩しいし、それでなくても熱で目がよく見えない。
階段を下りた。目をつむっているのに見えるじゃないか、と思ったのは横たっているわたし─置いていかれた身体。
水道から思いきり水を流した。両手で掬って水をのむ真似をした。手に水は感じなかったけれども、乾ききった口の中、のどは、気持ちよくうるおった。
ぱっと目があいた。
唾をのみこんでいた。部屋は暗かった。呼吸は苦しかった。胸も苦しかった。だけど楽になりつつあった。熱はなかった。頭も壊れてなかった。
目をつむった。
黒いところに赤い炎の柱。眉間から炎が噴出していた──赤い炎の線描画の顔の眉間から炎──両目から血の涙が流れ、やがて炎は力を失って、眉間の大きな穴から赤い水が流れた。
焦土だった。マグマ。真っ黒の中、マグマだけ赤かった。
やがてなだらかな陸のかたち。深く青い水。道。
わたしは止まっていた。宇宙が凄いスピードで動いていた。
急に裏町。大昔の映画のシーンのような。電柱に破れた貼り紙。
徐々に止まる。とんでもないところから、とんでもなく身近なところへおかえりなさい。
空腹。トイレ。水。頭少し痛い。