シャバ

1996年5月29日(水)
シャバは有害な空気に満ち満ちていて、でも目には見えないのでかんじる人にしかわからない。地下道は空気の流れが悪いけれどもシャバよりはいいのであった。
お芝居でお化けになる女の子は化粧しない。彼女はお化けになるときだけ生きて、あとは死んで過ごす。
わたしと親友は、脚も足も動かない年取った男の人を運んで地下道をゆく。彼の脚は細くて重さがないから、ふたりで十分。彼は運ばれるまま何も言わない。真っ黒なサングラスをかけている。
地下道からシャバへの階段を上りかけたとき、お化けになる女の子が、あんなところ(シャバ)で平気でいられる人の気が知れない、という意味のことばをを投げかけた。
「Aちゃんまで・・・そんな・・・」
失望、怒り、軽蔑が彼女の声に顔にありあり。
「悩みとか苦しみばかりが高級だって思ってる人が多いけど、違うんだよ。わたしはシャバのほうが呼吸が楽にできるの」
彼女に答えてから深呼吸して階段を上った。
わたしはこの若い人が好きだ。あなたは構わないけど、とてもきれいなんだよ。
女の子のくちびるは、さっきまでは色もなかったのに、紅く光った。よく似合っていた。


1996年5月30日(木)
むかしからの左側の緊張が解けた。
きのう、火傷みたいに舌が痛んだ。１週間ほど前にも痛んだ。